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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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6

「イムイム‼︎パパになるなんて‼︎だったら私でもよかったじゃん‼︎」


「......アルドゼイレンは私の子供を産める。ノノちゃんは産めない。無理」


「キィー‼︎確かに産めないけど‼︎それなら私も巨龍になりたかった‼︎」


 始業式の放課後ーー。久しぶりに皆で帰りながら話していると突然イムジャンヌが告げた。




「私、アルドゼイレンと結婚することになった」




 ーーと。


 想いを告げられた上に痴話喧嘩の一部を見ていたエルフレッドはさして驚かなかったが他の友人達は大いに驚いていた。しかも婚約をすっ飛ばして結婚である。もう何が何だか解らない状況だ。そもそもが恋愛云々の話はあれど、アルドゼイレンが相手という話は一切出ていなかった。言われてみれば......と訓練を共にしたリュシカが思った程度で残りは寝耳に水である。


「あ、相手が巨龍ミャア?......け、結婚......妾もレーベン様と結婚したいミャア......」


 驚きから一変虚ろな瞳でブツブツ呟いているアーニャの頭を抱きしめながら「いや結婚ってぇ‼︎イムイム、いつの間にそんなことなったのぉ‼︎」とルーミャは驚きを露わにした。


「前に言ってた好きな相手がアルドゼイレン。巨龍じゃ無くなったから制約が無くなった。私に性欲が無いから子供を産めるアルドゼイレンじゃないと駄目って親がなった。悠長なこと言ってられないから結婚しなさいってなった」


 色々とツッコミどころ満載の言い方だが、その後、詳しい説明を受けて皆は何とか理解するに至った。そして冒頭の話である。悔しそうにハンカチを噛むノノワールの横で魔力は体内で変換されたマナ原子と微量の血液の混合物であるという話に久々の魔法狂いっぷりを発揮したアルベルトが「これはハニーに連絡して研究しないと‼︎ああ、頭の中で様々な論文がーー」と喚いて体を震わせていたが何時もの事だから放っておくことにした。


「しかし、そうなると......騎士の夢は諦めるのか?お祖母様からアルドゼイレンは神の使いとして聖国に定住することを義務付けられていると聞いたが......」


 神託があると大体の話がアードヤード内で最も早く伝わってくるヤルギス公爵家のリュシカが言えば彼女は首を振ってーー。


「アードヤードで騎士になることは諦めたけど聖国で騎士になることにした。エルニシア先輩と共にね」


 あれから一年、エルニシアの功績は徐々に広まっていき、先見の聖女も今では”先見の戦乙女”と呼ばれている。何れは剣に纏わる初めての聖女になるだろうと言われる程の存在になっていた。無論、問題は山積みだ。家族関係は和解したが騎士としての活動に難色を示す立場が変わっていないクラリス含む親世代と功績を元に聖国での女性騎士団の必要性を訴えかける子世代の戦いは未だ終止符が打たれぬままーー活動が先行している状態なのだ。


 そして、それが初代団長と目されるエルニシアの家族であるというのは小さくない問題で有り、一早く解決しないといけない問題ではあった。そんな起爆剤を必要とする状況に置いて聖国の巨龍となり神の使いと結婚することが決まっているアードヤードで有名な剣聖の末裔イムジャンヌが騎士としての活動の場所を求めてエルニシアに連絡を入れてきたのは正に大きな一手ーー諸手を挙げて歓迎の意を示す彼女達の心情は想像に難くない。


「だから学園を卒業したら皆とは中々会えなくなる。それが唯一残念なこと。でも、夢もアルドゼイレンも諦めない方法はそれしかないから私はそれを選ぶ」


 強い意思の元、ハッキリと告げる彼女に対してエルフレッドは笑みを浮かべて「そうか。全て叶って良かったな」と言った。その顔をジッと見つめていたイムジャンヌは足を止めた。そして、暫し彼の表情を見つめた後に困惑する彼に対して大きく頭を下げた。


「エルフレッド。本当にありがとう。そして、本当にごめんなさい。私、解ってた。エルフレッドが大変で疲れてることに気付いてた。でも、私は口下手だからノノちゃんの時みたいに傷つけるかも思ったことを言って傷つけるかも知れないと思って何も言えなかった。私は本当に幸せになったのに行動してくれたエルフレッドが傷付くだけの結果になった。それが悲しいし申し訳ない。本当だったら私がアルドゼイレンを斬れるくらい強くなれば良かっただけなのに......」


 イムジャンヌはエルフレッドの心情が解った。そして、アルドゼイレンを斬った相手が自分ならば後付けで有っても納得の仕様があった事も理解したのである。アルドゼイレンと結婚する為には巨龍としての制約とやらを解く必要が有り、その為に転生が必要であった。故に一度、愛する者を斬ってでも転生させる必要があったのだとーー。


「確かにそういう面もあるが......あのアルドゼイレンが俺に頼んだということに何か意味があったのだろう。ライジングサンに伝わる秘術とやらが何かは解らないが、頂点から衰えていくことに何らかの感情を持っていた。今、この時しか駄目な理由ーーそして、自殺や手を抜いた戦いでは駄目な理由。そんな理由が何かが有ったと思うんだ」


 制約と言っているのはイムジャンヌだが、イムジャンヌからして制約と思える何かがあったように自身達よりも深い考えの中を生きるアルドゼイレンがエルフレッドに頼まざるを得ない理由があったと彼は考えていた。自殺では駄目な理由は何となく解る。自殺とは宗教上では禁忌とされることが多い行為であるから神の使いになろうとした時にふさわしくないのだろう。同様に手を抜くという行為も自殺ほどではないにしろ神の使いに相応しくない何かがあっても可笑しくない。


 そして、そもそもがエルフレッドが悩んでいる所はそこではないのである。


「それにだな。何はともあれ理由が有れば友を斬れると最終的に判断し実際にそれを成したことに一番の問題を感じているんだ。要はそんな自分に納得がいっていないから自身で解決しないといけないとーーだから、イムジャンヌが気にするようなことは何もないぞ?」


 結果的に彼を悩ませている一番の要因はそこなのである。理由が有れば罪人でもない友人を斬る事さえ厭わない自分は果たして正常なのかとーーそして、自身は納得していないのに行える、心に反した動きをした自分を疑っているのだ。報われぬと嘆き疲れた精神にとってあまりに多大なる衝撃を与える悩みだった。それだけの話であった。


「エルフレッド......」


 思うことはあれど言葉にならないと表情を歪めたイムジャンヌに彼の隣に居たリュシカが笑い掛ける。


「エルフレッドの話は私も聞いたが、きっと自身で解決してもらうしかないと思うのだ。だから、私達に出来る事は極力エルフレッドに別の負担を与えないことなのだと考えている。それに加えて少しずつでも負担を減らせるように出来れば、きっと状況は良くなっていく筈だ」


 強い意志の元、解決案を提示するリュシカに皆は確かにその通りだと思った。そして、今までの自分達の行動を省みる事にも繋がっていくのだった。


「わかった。これだけ良くして貰ったからには最善を尽くす」


「そうだね〜♪まあ、私は後一回くらい頼るかもだけど〜」


 と次々に同意の意見が飛び、そろそろカフェにでも向かおうかと皆が足を進め始めた時ーールーミャの腕に抱かれていたアーニャが思い出したように言った。




「それにしても、あの姉大好きなイムジャンヌが姉離れ出来るなんてミャア♪驚きミャ♪」

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