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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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「ーーな、何を馬鹿なことを言ってるんだ!!母さん!!いくら何でも異種族を好きになるなんて、そんな話がある訳ーー「アンタ様は黙っとくさね。私はイムジャンヌに聞いてるのさ。それによく見てご覧よ、この状況を。騎士団の同僚との麻雀で私とのデートをすっぽかして怒られてるアンタ様にそっくりじゃないか」


「父よ。そんな馬鹿なことをしていたのか?」と軽蔑した視線を送るイムリアに「か、母さん!!それはもう何度も謝ったじゃないか!!何も娘達の前で言わなくてもーー」と大慌ての現騎士団長である。


「今のは単なる例え話で言っただけさね?ーーそれよりもイムジャンヌ。どうなんだい?」


 と真剣な表情で告げる母親にイムジャンヌは少し悩んだような表情を見せたがーー。


「うん。そうだよ」


 と頷いた。


「随分、あっさり白状するんだな......」と大きな溜息を漏らしたイムリアに「そして、イムリアは知っていた。と随分仲良くなったもんだねぇ。あんた達」と母親は呆れた様子でぼやくのだった。


「私とお姉ちゃんは愛し合ってる」


「それは流石に語弊がありすぎるぞ?妹よ」


 当たり前の様に告げるイムジャンヌにビシッと裏手を見せてボテボテのツッコミを入れるイムリアを見て「本当に仲良くなったようで一安心ではあるがねぇ」と眼前に発生している別の問題に頭を押さえるのだ。


「ーーちょっと待て!!イムジャンヌ!!本当か⁉本当なのか⁉巨龍だぞ!!巨龍!!性別とか、そういうところを超越してる存在だぞ!!そもそも人ではないのだぞ!!」


 思考や理解が追いつかず暫しポカーンとしていたコーデリアスは再起動しかと思えば、尚も混乱した様子で捲し立てるように訊ねた。イムジャンヌはあれ?父さんってこんな感じだっけ?と首を傾げながらーー。


「うん。本当。コーディネートしてくれて可愛いって言ってくれた。一緒に訓練してる間にもっと好きになった」


「あ〜、そういうことだったのかい......こりゃあノーマークだった......にしても、もっと好きになったってアンタねぇ......」


「好きになったって......イムジャンヌ!!相手は人間じゃないのだぞ!!解っているのか!?」


 イムジャンヌは何だか少し可笑しく感じてしまう。父であるコーデリアスは娘に無関心だと思っていたがどうにもそうではないらしい。こうやって、ちゃんと向き合って話し合えば意外にも自身の家族は自身のことを考えてくれているのだ。


「うん。解ってる。私も変だと思ったけど好きになったのだから仕方無い」


 とはいえ、彼女の気持ちが変わることもないのだがーー現状どう思っているのかをハッキリと告げれば「変という自覚はある訳かい?う〜む......」と母親は更に難しい表情を浮かべた。


 そんな娘を見ながらコーデリアスは「こんなことになるならば随所で縁談を進めておくべきだった!!ああ、娘可愛さに渋ったせいでーー」と実は単なる親バカだったことを露呈しながら頭を抱える。


「だ、だがな!!イムジャンヌ!!お前は貴族だ!!次女だから、なるべく自由に恋愛させたいとは思っていたが、いくら何でも巨龍というのはなーー」


 跡継ぎである兄、そして、長女であるイムリアは既にそれなりの縁談が決まっているので次女であるイムジャンヌは割と自由に恋愛が出来る立場にある。とはいえ、平民であったとして人間の男性を連れて来るならば、まだ良かったのだが、いくら何でも巨龍となると大きな問題が生じる。それはーー。


「イムジャンヌ。別にアンタが幸せなら基本的には反対しないつもりだったがねぇ......流石に巨龍となると......まあ、家はエイガー家だし剣聖の直径では無いから、とやかく言われることは無いかもしれないけど、やっぱり、何かあった時に子供の有無を突かれる可能性があるさね。そうなってくると私等も流石に庇い切れない。考えてはくれないかい?」


 剣聖イヴァンヌの直径は子宝に恵まれるが女性比率が圧倒的に高い。エイガー男爵家に嫁いだイヴァンヌ直径の母からすれば、可能性が零に等しくても万が一をその事を突かれれば庇うのは難しくなる。


 要は恋愛結婚で男爵家に嫁いだというのに娘が子を成せぬ婚姻をしてはエイガー男爵家を潰す為に嫁いだのか?剣聖の名を汚すのかと言われる可能性が零に近しいながらあるということだ。


 無論、息子とイムリアに問題が生じなければ特に問題はないのかもしれないがーーまあ、息子が武者修行から顔合わせ程度にしか帰って来ないせいもあってか、そこら辺の信頼性が乏しいのは言うまでもない。


「お母さんの言うことは解った。でも、好きになったから仕方無い」


 話を理解した上で事情を汲むかとどうかと言われれば否だ。ハッキリとノーを告げる彼女に何だか両手でバッテン印を作ってブッブー!!と鳴らすイムジャンヌの姿が頭に浮かんだエイガー一家である。


「あまり話すタイプで無かったから解らなかったが頑固というか、芯が通っているところは母さんそっくりだなぁ......」


「アンタ様は黙っときな......と言いたいところだが思い当たる節しかないねぇ。というより家の子達は総じて、そういうところがあるからイヴァンヌ様の血なのかねぇ......」




「あ〜、一つ良いだろうか?」




 家族の話し合いの場と化していた庭に半ば忘れられていた巨龍の声が響いた。寧ろ忘れられていた方が良いと気配も消していたのだが、ここでイムジャンヌの援護をすれば怒りから逃れられるかもしれないと打算的な気持ちが働いた巨龍である。


「......何?今まで居ないフリしてた癖に」


 どうやらイムジャンヌにはバレていたらしく絶対零度の表情で見詰められてタジタジ、ガクブルのアルドゼイレンは「ち、違うのだ!!当事者ながら家族の話し合いの間は邪魔しない方がとーー隠れてた訳ではない!!」と言い訳をした後にーー。


「先程から話を聞いていると我とイムジャンヌの間では子を成せぬという部分に問題を感じてられるようだな?」


 確認するように訊ねるアルドゼイレンに母親は「まあ、問題はそこだけじゃあないんだけどねぇ。アルドゼイレンさん。一番大きいのはやっぱり、そこかねぇ」と悩まし気な表情を浮かべた。


 エイガー男爵家が抱える諸問題が関わっていることもあって一番大きな問題となるのはそこだろう。そもそもが巨龍に好意を抱く娘という部分に多少問題を感じているのは確かなのだが、そこはとりあえず置いておく。


「ふむふむ。であるならば、その件については問題無いと言っておこう」


「問題無い......ですか?」


 巨龍相手にどういう対応を取ったら良いのか解らず、とりあえず敬語で返したコーデリアスに対してアルドゼイレンは頷いて、平然と言い放った。




「我とイムジャンヌとの間に子を成すことは可能だ。故にその点については全く問題無い」




 ......。




 完全に静寂に包まれたエイガー男爵家。ハッとした様子で何かに気付き顔を真っ赤にしながら問いかけたのはイムリアだ。


「し、しかしだな!!アルドゼイレン殿!!確かに可能かもしれないが、い、妹はこの通り身体的に......そ、その受け入れられるかどうか......」


 あたふたとしながら問い掛けるイムリアを見て「......どうやら家の娘達はそういう素質があるようだねぇ......」と悍しい物を見るような目でイムリアを見る母親であった。


 それを聞いたアルドゼイレンは一瞬キョトンとした表情を浮かべたがグワッハッハーーと笑いながら「ああ、済まない!!そうか!!人族が巨龍の生態を深く知る訳が無かった!!」と前置いた上で言い放った。




「安心されよ!!イムジャンヌに産ませる訳ではない!!()()()()()()()()!!」

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