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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
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第五章(下)エピローグ


 夢を見ているようだった。


 死闘の後ということもあって確実に生きているという自信さえない状態である。


 そんな中で暖かな布団の中にいて、懐かしきライジングサン料理の香りが漂うーーこの光景にエルフレッドは見覚えがあった。


 デジャブというには余りにも酷似しすぎている状況に友を殺めたショックから昔の夢でも見ているのだろうか?それとも自身も結局は命を落とし、こうして楽しかった時を彷徨っているのだろうか、と彼は不確かな現に思考を巡らせた。


 緩慢にしか働かない思考。ぼんやりと霞掛かり時に痛みが走る頭に聴き覚えのある声が掛かった。


「目覚めたか?人族の英雄よ」


 懐かしい呼び方だと思った。そう初めて住処で目覚めた時、あの巨龍は自身の事をそう呼んだ。となればやはり、これは都合の良い夢なのだろう。


 このような夢を見るとは自身は余程後悔しているのだと思った。それはそうだ。友自身が望んでいたとはいえ、悩み苦しんだ上で遂にはこの手で自身の友をーー。




「......これは......夢か?」




 ガバリと起き上がり布団を捲り上げたエルフレッドは自身の視覚が訴えかけている物が信じられず、恐る恐る声を漏らした。ガラガラの声、痛む身体、そして、五感の全てが告げている。今目の前で起こっている事象はーー。




「確かに我は生を終えた。そして、それで終わりで良いと考えていた。だが、可能性を捨てた訳では無かったのだ」




 彼の前では何時ものようにエプロンをつけてお玉を持った大きな体躯を持つ友が笑みを浮かべながら語っていた。




「我は意味が欲しかった。故に司る者として生まれ変わる可能性を見出した。だが、それは獣人族に伝わる輪廻転生の秘術ーー故に巨龍にも適応されるのかは解らなかったのだ。故に期待させる訳にもいかず話す事はしなかった」




 漸く事態を飲み込み始めたエルフレッドは立ち上がり歩み始めた。不調からか歩き辛く感じてフラつくも、大地を踏み締めた足の感触が現実であることをより一層強く感じさせた。




「そして、それは正しかったのだ。我は零から生まれ死を繰り返すだけの巨龍という存在を抜け出しーー」




 走り出したエルフレッドの頭に言葉の半分も届いていなかっただろう。確信が欲しかったのだ。ただ、本当にこれが現実なのか、それだけを確かめる為に駆け出した彼はーー。













「我はユーネ=マリア神の使いにーーグボォォ‼︎」













 満足げに語る友人ーーアルドゼイレンの頬を思いっきり殴り飛ばした。


 何が獣人族の秘術故に期待させる訳にはいかなかっただ‼︎である。


 当然の如く怒り狂い「巫山戯るな‼︎俺がどんな思いでお前を殺めたと思ってーー」と怒鳴り散らすエルフレッドの前で吹っ飛ばされた衝撃で仰向けに転がり、口から半分くらい魂を飛ばしていたアルドゼイレンは「我が......生涯に......一片の悔い......無し......」と漏らすと白目を向いてコテリと意識を失った。


 暫くして意識を取り戻したアルドゼイレンだったが怒りが収まらないエルフレッドに延々と説教を喰らう羽目になったのだった。



 

 神々の住まう天上の地、エデンーー。


 その中で人々が暮らす星を任された神々が住まう場所より彼等の様子を眺めて爆笑している存在ーー創世神が一柱、ユーネ=マリア神は彼等のやりとりを笑い転げ回る程に楽しみ尽くした上で涙を拭いながら満足気に頷くのであった。


「やっぱり、この掛け合いはやめられないわ〜‼︎アルドゼイレン君を使いにして本当に正解だった‼︎キャハハッ☆」


 真剣に悩んでいたエルフレッドやアルドゼイレンが馬鹿らしく思える程にどうでも良い理由で神の使いを選んでいたユーネ=マリア神である。ここまでくると最早獣人族の秘術が関係があったのかさえ定かではない。


 その結果、アルドゼイレンは新たな生と使命を受けた。この事に多くの人が喜び、救われる事になるのだが、どうにも納得がいかないと言うか腑に落ちないというかーーとても、微妙な気持ちにさせられる話である。とはいえ、本当にそんな巫山戯た理由だけで神の使いを選んだのかを確かめる術は何処にもない。愛を司り、幸を望み、時に平等を信条とする神なのだから、彼等を取り巻く状況を憂い、救いの手を差し伸べた可能性だって考えられるのだ。


 そう全ては正に神のみぞ知る。創世神ユーネ=マリアの御心はユーネ=マリア本人以外には誰も知りようがないものなのだからーー。













 キャハハッ☆

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