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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
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 一転してイムジャンヌが攻勢を取った。身体強化と元の怪力を持ってすればエルフレッドとも打ち合える程の力を持つ彼女である。ホールドユグドラシルで全てが強化され回復まで付与されたとなれば力だけならばエルフレッドにも勝る。


「まさか上級魔法まで使えるようになっていたとはな......」


 受け止めればダメージに繋がりかねない一撃をどうにか流すことで対応しているエルフレッドに対して彼女は「こうでもしないとエルフレッドには届かない」と阿修羅の如くの勢いで刀を繰り出しながら攻め立てる。エルフレッドは彼女の態勢が崩れたところを見計らって上級無属性魔法リミットブレイクを発動、覚醒と能力上昇を持って対抗しようとするがイムジャンヌのそれには届かない。


「その特殊な体質こそが天賦の才という訳か」


「どうだろうね。私の周りには天才ばかりだから、あんまり実感は沸かないかな」


 一般的に見れば大柄且つ筋肉質なエルフレッドに見た目こそ小柄なイムジャンヌが魔法有りきとは言え、力で優っている状態だ。無論、無属性魔法の能力強化と有属性魔法の能力値強化にはそれなりの差が生じるのだが、それにしても男女差、体格差を超越したそれは正に天賦の才と呼ぶのに相応しいと言えた。


 シュラリ、シュラリと鋭く荒々しい剛剣がエルフレッドに襲い掛かる。重さに相応しい速さを持って頬を掠める突きの一撃にエルフレッドの額には冷や汗が浮かんだ。速さは俺の十八番の筈なんだがな、と風の補助を使ってどうにか対応する彼ーー出来ることならばウインドフェザーを唱える隙を作り、更なる自由度と地の利を持って戦いたいところだがイムジャンヌとてそれは解っている。隙を作らぬように攻め立ててはエルフレッドの意識を奪わんと急所を狙った本気の一撃を繰り出し続けるのだ。


 三度目の危険な突きが頬を掠めた頃、エルフレッドは横から迫り来る刀を何とか受け止めて苦笑いを浮かべた。ビリビリと痺れる腕に力の拮抗が途切れれば即座に襲い掛かってくるであろう凶刃を受けながらーー。


「こんな一撃を貰ってはアルドゼイレンと戦う前に死んでしまいそうだ」


「嘘ばっかり。どうせ上手いこと急所を外すに決まってる。私は解る」


「そんな信用のされ方をされてもな。死んでしまっては元も子もないぞ?」


 ギリギリと鍔迫り合って近付いてくる刀を風の力で押し返し、体を当てて距離を作ったエルフレッドは満を持してウインドフェザーを唱えると上空へと飛び上がった。


「空を飛ぶのは反則だと思う」


「ある意味で存在自体が反則なイムジャンヌには言われたくないなぁ」


「......存在自体が反則なのはエルフレッド。私はか弱い女の子」


 上空から攻め立てる形で飛来し風の刃を飛ばしては距離を詰めての剣戟を繰り出しながら「か弱いという言葉の意味を辞書でちゃんと調べた方が良いと思うぞ?」と告げれば「......煩い。今のは本気でイラッとした」とイムジャンヌは蚊でも追い払うかのような仕草で刀を振るって怒りを露わにする。


(それにしてもホールドユグドラシルというのが厄介だな)


 回復量や能力値上昇の厄介さは言うまでもないが、オールリヴァイヴァルの様に魔力を使い続ける訳ではない。苗木を消されると効果が無くなるという欠点は逆に捉えれば苗木さえ壊されなければ効果は永続するという利点でもあるのだ。苗木の耐久力はそれ程でもないが、それを解っているイムジャンヌが上手く立ち回らぬ訳がない。


 魔法が得意ではない彼女がこの上級魔法を唱えられるのは一回切りだろうが、その一回の利点が彼女に大きな力を与える点はある意味、彼女に最適な魔法で有り属性であると言えた。


「ならば挑発としては素晴らしいということだ」


 上空から大剣を振るい攻めるタイミングを失わせて風の刃で後ろの苗木を狙う。そんなエルフレッドの攻撃を冷静に樹の魔力の障壁を使いながら防ぐ事で苗木を守りつつ攻撃を弾くイムジャンヌは高さがあって攻撃が当たりづらいことにやりづらさを感じながらも跳躍してはエルフレッドへ攻撃を当てようとする。


  草花が乱舞してエルフレッドへと襲いくる様はとても華やかだ。花弁を飛ばす初級樹魔法”フラワーショット”を撃って、どうにか地上戦に持っていきたいイムジャンヌにエルフレッドは冷静に空中を旋回することで対処にしている。その間にもイムジャンヌは回復し、身体的には全回復したと言っても過言ではない。だが、空中戦に対する打開策がない為に攻勢に転じることが難しい。エルフレッドとてまともに打ち合うのはあまり宜しい状況ではなく、どうにか苗木を処理してイムジャンヌの意識を奪いたいのだが今の時点ではそこに到るまでの道筋は立っていない。


 気付けば完全な膠着状態へと陥った今の状況にイムジャンヌは憮然とした表情で告げるのだ。


「......やっぱり空を飛べるのは反則だと思う。正々堂々戦って」


 上空から風の刃を放ちつつ嫌がらせのような攻撃を繰り返すエルフレッドはそれを止めると肩を竦めてーー。


「俺としても打ち合うのは勘弁だな。寧ろ、俺にここまでさせたことを誇るといい。実力は騎士団でも上の方にいけると思うぞ?地上戦なら俺とでもやり合える」


 そう軽口で告げる彼に「今日のエルフレッドは嘘吐き。地上戦をしたって十中八、九は勝てると思ってる癖に。本気を出せればね」と口角を上げて笑った。


「......俺はいつでも本気だ」


「本気だとは思うけど殺す気ではない。打ち合いを嫌っているのは誤って私を死なせてしまう可能性を考えてるからでしょう?私はエルフレッドなら致命傷を避けると思ってるから殺意有り気で戦ってるけどエルフレッドはそうはいかない。私はそこに勝機を見出しているからね」


 自身は殺意有りの完全な本気で戦える。しかし、エルフレッドはそれが出来ない。地上戦をしても勝てる自信があるのは本当だが、それは彼女の言う通り相手を死に至らせる可能性を入れての話だ。今のように泥仕合のような戦い方になっているのは万が一にもその可能性を起こさない為である。あくまでも意識を失わせるなどして行動不能にしたいという戦い方ーー故に彼女の意見はエルフレッドの考えを完全に見抜いていると言える。


「それは困ったな。それにしても、まさかイムジャンヌが俺を殺す気でいるとは驚きだな。友人を万が一でも死なせる可能性がある戦い方は是非ともやめて欲しいものだが......」


 遂には傲慢な風を纏い牽制の威力を高めつつ嘆くように言うエルフレッドに彼女は冷静な声色でーー。


「そのくらいしないとエルフレッドには勝てないからね。それに何とも言えない話だけど私が幾らそういうつもりで戦っても実際にエルフレッドを死に至らしめることは実力的に不可能。だから、安心して本気が出せる」


 彼女は自身とエルフレッドの実力を冷静に加味して考えていた。ある意味ではとても良い塩梅の実力差であり、彼女が勝機を見出せた大きな理由とも言えよう。手心を加えないといけないエルフレッドと一切加えなくて良いイムジャンヌーーエルフレッドからすれば非常に厄介な状況であった。


「ならば、こうして空中に居るしかあるまい。何方にせよ、魔力が尽きれば苗木を守ることも難しくなるだろう。俺は持久戦は得意だからな。ゆっくり戦わせて貰うさ」


 風の刃でチクチクと障壁を削りながら地上戦は有り得ないな、と言外に告げる彼に「本当に空を飛べるのは反則。嫌になる」と心から辟易している様子で告げるイムジャンヌであった。

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