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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
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「事の発端がアーニャ殿下だと思うと何だか作為的な物を感じるけどね!」


「あのヒラヒラの巫女服とやらをお披露目したことか?有り得るな!」


 衣装班が可愛い衣装にしようと言い出した理由ーー、それはアーニャがルーミャを伴って実際に着てみせたライジングサンに伝わるアマテラスと五人の聖女が着ていたとされる巫女服にあった。


 救済神話を読んだエルフレッドは正しく和装アイドルの衣装だなとしか思わなかったが、二人の可憐な容姿も相成って多くのクラスメイトの視線を攫ったそれが女性陣のファッション魂に火を着けたと言っても過言ではない。


「これじゃあ如何わしいお店になっちゃいそうだけどぉ.....」


何処となく気恥ずかしそうにしているルーミャの横でーー。


「クフフ......皆、良い目をしているミャア......これは面白いことになりそうニャア......」


 と何やらな表情で身悶えしながら、これから起きるであろうクラスメイト達の苦難を想像して浸っているアーニャーー有り得るというか確実に作為的だった。


「アーニャ......戻ってきたねぇ......歪みが」


 ジトリとした視線でポツリと漏らしたルーミャの誰にも聞こえていなかった呟きこそが、事の真相の答えだったのだが誰にも聞こえていないのだから知る由もない。そして、その時の事をテンション高々に話している料理班班長二人は揚げパンを揚げたり、クラッカーを盛り付けたり、時にはドリップしたコーヒーのカップを確認したりと一人辺り三人分の働きである。


「まあいいや!他の班の話をしている場合じゃないしね!僕達がやるべきはただ一つ!」


「そうだな!俺達がするべきはただ一つ!」


 二人は向き合い互いの手を打ち鳴らす。


「「試食を完成させること!!」」


 大笑いをして、さーて、頑張るぞ!!と袖を捲くった二人を眺めながら料理班になった他のクラスメイト達はヒソヒソ、ヒソヒソーー。


「ねえ。ウチらの班長達、朝からずっとあのテンションだけど大丈夫なの?」


「何か聞いた話によると試食の打ち合わせやら文化祭の仕事やらで、ここ最近殆ど寝てないらしいよ」


「......マジ?ここ最近ってどの位の期間の話?」


「一週間くらいだって。あんまり寝なくて大丈夫なエルフレッド君が昼休みに爆睡してたからリュシカさんに聞いたら、そんなこと言ってた」


「うわぁ......だから最近、ちょっと疎遠なアーニャ殿下の話も普通にしてるって感じかなぁ。そういえば何だか目元がヤバい気がする」


「結構な割合で俺達のせいな気もするけど.....とりあえず、文化祭が終わったら何か御礼とかしないとなぁ」


 コソコソ話から発展ーー顔を見合わせて話し合う班員達。本人達はあくまでも爽やかに今後の展望について話しているつもりなのだろうが周りからすると普段のテンションでは考えられない高めのテンションでひたすらに当たり前の事を話しては手を打ち合わせて笑い合う二人ーーハッキリ言って異様な光景であった。


 水道の水を包丁で切って二人を愕然とさせた男子班員は自分の責任だと重く捉え、文化祭が終わった暁には謝罪と御礼と労いをすることを心に誓い、それまで頑張ってくれと祈りながら二人に向かって十字を切るのだった。


 アーメン。













○●○●













 文化祭当日ーー二日間に渡る日程の一日目である。メルトニアの都合から一日目を休みにしたいというアルベルトの希望を組んでエルフレッドは料理班の班長を担当ーー指示を出しながら自身も調理を担当する。


 リュシカは自身の三十分のシフトを終わらせた後はアーニャと共に文化祭を回るそうだ。因みにアーニャは一日目はオフで有りヒラヒラの巫女服はルーミャが着ている。


「割と忙しいな。ひっきりなしという程でもないが客入りは上々だーーまあ、男性客が多いのはご愛嬌だな」


「ご愛嬌っていうかさぁ。完全に妾達目当てじゃん?なんで男って幾つになってもこうなんだろ......文化祭じゃなかったらひっぱたいてやるのにぃ」


 何処か不満気な様子で憤っているルーミャをニヨニヨとした表情で見詰めるノノワールは「仕方なくない?」と顔の下半分を手で多いながらーー。


「男はっていうか〜♪ルールーみたいなボインボインな美少女がそんなエッチな服着てたら見ちゃう見ちゃう〜♪寧ろ抱いて〜♪ジュルリ」


「......うわぁ。そこら辺の男よりヤバイのが友人にいたわぁ。てか、ノノ。あんたさぁ、もしかして顔半分隠してるの鼻血出したのぉ......?」


 心の底からドン引きした様子ながらハンカチを取り出し「拭いてあげるから手ぇどかしてぇ!!」と歩み寄る彼女に「御言葉ですがお姫様。お姫様が近づいて来ると寧ろ逆効果で御座います。私の瞳はお姫様のたゆんたゆんに釘付けで御座います。宜しければ下の方を拭いて頂いても宜しいでしょうか?」とナチュラルにセクハラをし始めた。


 見ていてゾワゾワと鳥肌立っているのが解る様子のルーミャはノノワールから三歩程の距離を取り「......マジ無いわぁ」とボヤいた後ーー。


「エルフレッド。浄化魔法」


「はいよ。残念ながら存在自体は浄化出来んがな」


 と中空に印を書いた。フワリと風が通り過ぎていき身奇麗になったノノワールは何か言いたげな表情でエルフレッドを見ていたが「......幾ら面倒見が良いからってルーミャは無理だろ?綺麗になったんだからさっさとオーダーを持っていてくれ。忙しいんだから」と一蹴する。


「ちぇ〜、行きますよ〜だ」


 皿を片手に三枚ずつ。片腕に二枚ずつ乗っけて計十枚のオーダーを持って客席側へと出て行ったノノワール。そんな彼女の後ろ姿を見送ったエルフレッドは溜息を漏らした。


「ルーミャ。ルーミャが悪い訳ではないことを前提に話すが時には厳しく接することも大事だぞ?どうせ、ちょっとやそっとじゃ効かんヤツだ。最近、仲良くしてるのは知ってるがあっちの狙いは完全に下心何だからな?」


「......だよねぇ。妾も解ってるつもり何だけど......駄目な子程可愛く見えちゃうっていうかぁ......はぁ。自分の周りが優秀な子ばっかりだったから、その弊害かなぁ」


「さっきの流石にマジで引いたけどぉ」と溜息と共に肩を下ろすルーミャに「不憫だな」とコーヒーを差し出してーー。


「ノノワールが全部持っていってくれたから出来上がるまでに多少時間がある。それでも飲んで気持ちを入れ替えてくれ」


「......ありがとぉ。エルフレッドぉ。はぁ。将来ダメンズウォーカーになるのかなぁ。妾......」


 額の辺りを抑えながらホットコーヒーを啜り「熱いの苦手ぇ.....猫舌だから......猫だけに」とボヤいてふぅふぅ息を吹きかけてコーヒーを冷ましていたルーミャーー。



「ねぇ、君一人?幾つ?何処の子?お姉ちゃんでも通ってるのかな?」


「ほぅ?それは妾に言っておるのか?冗談にしてはさして面白くないのぅーー」


「丁度良い温度」とコーヒーに口を着けた瞬間に盛大に吹き出した。


「......ルーミャ」


 ウガァ〜!!と頭を掻きむしるルーミャに憐れむような視線を送りながら浄化魔法を掛けたエルフレッドの前で彼女はカッと目を見開いて「いつの間に来たのよお母様ぁ!!ていうか!!何で隣国の女王の顔も解らないような奴が来店してるのさぁ!!」と怒り狂いながらーー。


「強制退店させて来るぅ!!」


 ドンと厨房のテーブルを叩いて半壊させて客席の方へと飛び出して行った。

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