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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
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「まっ、そういう方法もあるから心配すんなってこと!!俺も勉強は割と大変だけど来年くらいまでは全然時間作れるしよ?もっと気軽に連絡入れてくれよ?まあ、あの世界大会に出たメンバーは何らかの形で恩返ししたいって今でも思ってるからよ‼︎」


 あくまでも軽い調子だが本心から告げていると解る瞳の色にエルフレッドは心から感謝の念が湧いてきた。こういった恩返しをしたいという気持ちを伝えて貰えるだけで全く心の有りようが変わってくるのだな、と彼は思うのである。


「有難うございます。それにしても本人に何かした訳でもないのにカターシャ様にはお世話になってばかりで何だか申し訳ない気持ちもありますね。方法は考える必要がありますが何らかの形で恩返しせねばと思ってはいるのですが......」


 今こうしてサンダースと会い、話を聞いて貰ったりアドバイスを貰えたりするのは図書室で会って以来、様々なところで気遣ってくれているカターシャのお陰である。自身が受けた恩は絶対に返したいと考えるエルフレッドからするとこのまま何もしないというのは有り得ないことだ。しかし、サンダースは何処と無く微妙な表情を受かべて頭を掻くと「俺が言うのも何だけど何つうか......」と歯切れ悪く前置いてーー。


「カターシャはちょっと変り者って言うかよぉ。偶に居るじゃん?良いことをして名乗る程の者じゃないみたいなこというタイプ。あんな感じのに憧れててカッコいいと思ってる感じなんだよなぁ。だから無理に恩返しされるより、今の状況を脱して貰って幸せそうな表情になったら、きっと図書室の隅から見つめて、よかったよかった幸せになれたようで良かったぞ、若人よ、みたいな感じで勝手に喜ぶと思うから、あんまり気にしないでいいぜぇ?まあ、それでも気になるんだったら、何か二人のラブストーリーが聞きたいとか言ってたから惚気話でも聞かせてやってくれたらそれでいいと思うぜ」


「......なるほど。それにしても自分の周りには何故か惚気話を聞きたいという特異な人が多いようで何だか不思議な気分です......」


本当に微妙と言わざるを得ない表情のエルフレッドに「そりゃあ微妙だわなー、その割にカターシャなんかは俺の惚気は駄目何だとさ。お兄様に惚気られるとキモいですって真顔で言ってくるからなー、身内のは駄目って人多いけど、あれ何なんだろうなー」っと同意を示しながら自身の愚痴も入れるサンダースであった。













○●○●













 サンダースと話したあの日から事態は少しずつ好転し始めた。世界大会の優勝を手土産に戻ってきた友人達は思うことがあったのか、周りから話を聞いたのかエルフレッドとの交流を今まで通りの形にしつつあった。特別に気を使って欲しい訳ではなく、あくまでも今まで通りの付き合いをと考えていた彼にとっては今までの悩みはやはり杞憂だったのか、と思える程度のものであった。


 何よりも良かったと思えたのはアーニャの対応が少し変わって来たことだ。今まではエルフレッドが気を使って避けるようにしていたのもあるが、本当に視界に入らないように気をつけねばいけない程の状態であった。しかし、それが態々そこまで気を使う必要はない、と彼女自身から申し出があり必要が有れば日常会話程度ならば行えるくらいにはなってきたのである。


 詳しくは語らなかったが彼女はポツリと「エルフレッドの言う通り、希望が見えてきたかもしれないミャア」とレーベン王太子殿下の状況が改善されつつある事を告げ、しかし、まだ低い可能性なのだろうーー完全には友人関係に戻るには至っていない。


 ーーそれは致し方ないことである。互いに違う意見の元でぶつかりあって一度は道を違えたような形になったのだ。そして、もし今のまま状況が好転し続ければ良いものの悪い方へ転がれば彼女がエルフレッドを許すことは完全に不可能になるだろう。そういう現状を踏まえて考えれば今の状況は互いにとって最大限に譲歩した形であるとも言え、最大限に最良の形とも言える。


 何より婚約式の一件で時期がずれた文化祭に向けた活動が活発化していく中で今までの状態であったなら、友人達は愚かクラス全体としても気を使わなければならない状況になっていただろう。そんな状況はエルフレッド、アーニャは愚か友人達の誰一人として望んでいないのである。


 話し合いに準備ーー放課後を使ってメニューの考案。料理担当者にてシフトの作成などなど様々な事をこなしていく中で、共に料理班の班長となったアルベルトは寒い時期にも関わらず忙しさから額に浮かんだ汗を拭いながらエルフレッドへと話しかけた。


「ハハハ!予想通りとはいえ目が回る忙しさになったね!エルフレッド君!」


 予想通りとは想定していた中で最も残念な方であり、ジン先生は料理不可。料理経験者も希望者も極少数、メインはエルフレッドとアルベルトに任されるという形である。アルベルト程では無いにしろ疲労の色が隠せないエルフレッドも若干高めのテンションで「そうだな!まあ、予想の中で最も苛酷な方に転んだからな!仕方がないといえば仕方がない!」と手を動かしながら笑うのである。


 今日は揚げパン含む調理物の試作と試食の日である。料理班全員で取り掛かっているが一口分とはいえクラスの大半の人間で試食予定という事もあって意外と手間が掛かっている状態だ。


「まあ、それにしたって任せっきり過ぎるとは思うけどね!文化祭って生徒主導だから間違っちゃいないんだろうけどさ!料理したことがないクラスメイトに零から料理を教えるとかってさ!何だか、その初歩初歩くらいは調理の先生が教えてくれても良いいと思うんだ!僕はーー」


「確かにな!まあ、俺達の料理の腕を見込んでとプラスに捉えるしかないだろうな!」


 アルベルトが任せっきりと言いたくなるのも仕方がない。料理経験者が殆どいなかった為、希望者メインで始動となった料理班だったがーーまあ、この料理が出来ないというレベルがもう想定の範囲を越えていた。流石に包丁を変な持ち方で持とうとする者は居なかったものの野菜の水を切って、と言われて水道の蛇口を捻り、出てきた水を包丁で切り始めたクラスメイトを見て、お前は何で料理班に入りたいと思ったのだと心の中で嘆く程の腕前からのスタートだったのだ。


そのレベルの人間の始動もこちらでするとなるともう文化祭の準備どころか、半ば料理教室のような状態からのスタートになり並行して文化祭の準備をするということもあって、正しくてんてこ舞いーーそれでも教師陣は手伝わないというのがルールだと言われてしまえば妙なテンションにもなってしまうと言うものだ。


「確かにね!なんか衣装班も話が盛り上がり過ぎて大変なことになってるみたいだし!四の五の言わずに手を動かさないと!」


 ありがちな話だが衣装は基本的に自由にした結果、ああしたい、こうしたいが盛り上がり、なら作っちゃえ!と見切り発車したのだが服がそんな簡単に作れる訳もなく、一部生徒は衣装作りに四苦八苦している状態だ。


 無論、オーダーメイドや自前で済ませている生徒は簡単な作業を手伝いながらも片手団扇で優雅な一時を過ごしているのだがーーエルフレッドの友人達の大半はこのグループに所属しているーー二年Sクラスは全体的に大忙しの様相を呈していた。

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