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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
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 そうして迎えた一人での休日ーー珍しい人物に呼び出された彼は第三層にある貴族御用達の敷居が高いカフェでその人物が現れるのを待った。


「よっ‼︎英雄君‼︎婚約式以来だな‼︎なんかウチの妹が心配しててな?話を聞いてあげてくれってしつこくて......英雄君なら心配ないって思ってたけど、どうやら今回は妹の方が正しかったみてぇだな‼︎」


 にへらと軽い調子で笑い楽し気な表情で手を上げる彼の姿を見て、エルフレッドはそういうことだったのか、と目を細めて苦笑した。


「サンダース先輩お久しぶりです。カターシャ様にはどうやらご迷惑をかけてしまったようで申し訳ないです」


 大学に入り一年も近くたったせいか、高等部の頃より大分大人びた様子になっているサンダースに対して申し訳なさそうに謝れば彼は「いんや。うちの妹も恩人だから力になれて嬉しいって感じ?だから気にするこたぁねえよ!しかもそれを言うなら恩を受けたのは俺だし‼︎」と彼は全く気にした風もなく笑いながら席に着いた。


「まあ、どうした?って聞くのも変な話だわなぁ。要はアーニャ殿下の婚約式以来、友人関係が微妙になってきてるんだろう?距離感じているっていうかさぁ」


 彼がコーヒーを頼んでテーブルに肘を着きながら言えば、エルフレッドは少し悩むような素振りを見せてーー。


「いや、今の段階では自分がそう感じているだけかもしれません。単純に今までが会わない日が無い程に集まっていたので、急にそれがなくなって妙な疎外感を感じているというか......それでクレイランドで休暇を貰った際にジャノバさんにアドバイスを貰ったら逆に連絡を断つくらいした方が互いの為になると言われてですね。正直、否定が出来なかったんですよ」


「ふーん。まあ、一理有るわな。それで?」


 彼が先を促すように言えばエルフレッドは自身の思考を纏めるように額を軽く小突いてーー。


「それで実際に実行しようかと考えれば無理があるな、と。自身が学生である以上は完全に関わりを断つことは不可能でして......それにこの闘技大会の世界大会が終われば状況も変わってくるかもしれない。ならば、それを見てから考えようかなぁと考え始めたところで今日を迎えました」


「ふむふむ。それが一番かもしれねぇけど......ってことは最悪変わらなかったらどうしようかって悩んでるわけだな」


「ええ。とはいえ杞憂で終わる可能性も高いので無理に頭を悩ませる必要は無いのですが、どうも落ち着かなくて......図書室で悩んでいるところをカターシャ様に見られてしまったのでしょうね」


  届いたコーヒーを一口ーーその後、手を温めるように両手で持ったエルフレッドに「そりゃあ、悩むわなぁ」とサンダースは同意を示す。


「俺も基本的にはジャノバ大公と同意見だけどよ。あれだったら普段はあまり参加しない社交の場に出てみるのはどうだ?きっと英雄君なら引く手数多だろうし......まあ、そりゃあ擦り寄ってくるヤツもいるかもだけど、新たな人間関係を築くってのも一つの手だぜ?」


「......社交の場ですか?今までが忙しかったのもありますが顔を出す前に婚約者も出来ましたので考えた事もありませんでした」


 社交の場と聞けば、どうも男女の出会いを想像してしまうがサンダースは「そういう一面もあるけどな」と笑ってーー。


「まあ、別に学園内で友人関係を広めるのもありだけどな。同じ学園でってなると何かと面倒な面も出てくるかもしれないだろう?逆に年齢も違って普段と出会う場所も違うなら、より気軽に友人付き合いが出来るかも知れん。ま、俺の実体験を話すと元三年Sクラスの俺らって今でこそ仲良しだけど初めはそうでも無かったんだぜ?」


「えっ?そうなんですか?」


 ともすれば自分達より仲良く見える彼等にそんな時期が会ったことが信じられず驚きを隠せないでいる彼に対して「まあ、個人的に仲の良い面子は居たけど、俺はカーレスの事をいけすかねぇって思ってたし、レーベンは王太子として皆と平等に仲良くしているだけ......エルニシアなんて初めは猫被ってめっちゃ聖女っぽく振舞ってたから今となってはあん時のアレは何だ?みたいなーーってこれは話した事内緒な?」


「ハハハハ、俄かには信じられませんが、そうなんですね」


 少し聖女っぽく振舞っているエルニシアを想像して笑ったエルフレッドに「しかも、俺心読めるからバリバリ猫被ってるの丸見えな訳よ‼︎面白過ぎるだろう?」と付け加えた後ーー。


「でも、一年Sクラスで代表に選ばれて、チームとして強制的に活動しないといけなくなったわけさ。それで初めから上手くいけば良かったんだけどよ。まあ、そんな状態だと上手く行かないわなぁ。皆、高位貴族とか王族だから表面上は取り繕ってたんだけど......俺とカーレスの意見がバチバチぶつかって大喧嘩ーーそれから一ヶ月は口聞かなかったなぁ」


 懐かしがりながら思い出すように話す彼に「気遣いをさせたら誰よりも上手いサンダース先輩とあのカーレス先輩が喧嘩するとは本当に想像出来ませんがねぇ.......」とエルフレッドは顎下を摩った。


「まあ、悪いのは俺なんだけどな。完全に実力の差を見せ付けられた上に正しい事しか言わねぇ。劣等感とか嫉妬とか積み重なってな......っても、アイツも頑固で融通が効かないところあるからな。優勝するならこれくらいしないとって結構無茶な練習をさせたりしてたんだわ。その結果が大喧嘩。んで、俺は極力学園に寄りつきたくなかったから放課後は色んな貴族のお茶会やらパーティーに参加して気を紛らわせていた訳よ?そしたらな。学園の友人より人生経験豊富な友人っていうか、先輩っていうかは解らねぇけど十も二十も離れた人達と仲良くなってな。飲みに連れていってもらったり話聞いてもらったりしてる内に自分がどんだけ餓鬼だったのか思い知らされて何だか恥ずかしくなってなぁ。そういう人達に助けて貰いながら謝ったり、謝られたりしている内に今の仲良しグループになったわけ」


 昔のエピソードを話終えたサンダースは「別に俺や元三年Sクラスを頼ってくれても良いが、俺以外は割と忙しくて会いづらいしレーベンは......相変わらずだからなぁ......」と何処か寂しげな様子で言ってーー。


「それに引き換え社交の場にいる人々ってのは良くも悪くも時間のある人物ばっかりだ。遊び呆けている奴もいるが、もう財を築いて本人は何もしなくてもいいって凄ぇ人間もいるし、同年代では経験できねぇ様な体験をさせてくれる人だっている。まあ、英雄君の場合は俺みたいに餓鬼って感じじゃないけど、周りも類友で凄い人ばっかだから気軽に会えない相手が多いだろ?だから、気軽にあって話が出来るそういう人と出会おうとするのは有りかなって思うわけさ。しかも、そういう人達は学園を卒業してからも結構会える人が多い。俺も今はアイツらとは中々会えないから大学やその時出会った友人達と楽しく過ごしながら久々にアイツらと会った時により楽しく時間が過ごせるようにしてるのさ。何だったら俺が良さそうなパーティーとか連れてってもいいと思ってるぜ?英雄君なら変なことはしねぇだろうし」


「一応マナー面などは問題ないとは思いますが......そこまで評価して貰える程とは思えません......」


 彼がそう言うとサンダースは大笑いして「いや、王族とか他国の皇族のパーティーに出てる人間が出来ない訳ないって‼︎それは流石に心配し過ぎ‼︎」と腹を抱える。

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