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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
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 夜になり自身の寝室でコルニトワは聖女としての能力を発動させた彼女はユーネ=マリアとの"対話"を始めた。意識的に互いの思考の分離し会話するーーそれは一見して神託より便利なように思えるが魔力の消費から長くは使えず如何に意識しようとも考え全く混ざらぬ訳ではない。


 ケースバイケースだがほぼノーリスクで使える神託の方が良い場合が多い。


 それでも彼女がその能力を発動させたのは言うまでもなく昼の一件である。自身の思考と混ざったユーネ=マリアの目的の()()()になるようなことを話してしまった。


 その謝罪と今後の対応をと思ったのだ。


(申し訳ありません。ユーネ=マリア様)


 と自身の思考の中で考えれば"あちゃ〜、喋っちゃったねぇ〜。まあ、どんなに能力が高くても半分はうっかり聖女ちゃんの娘だから仕方ないか〜"と何とも軽い感じの答えが返ってくる。


(母に似てると言われるのは嫌です。それで私のミスで申し訳無いのですが今後はどう対応すればいいのでしょうか?)


 バシッと告げると"どんだけ娘達から人望ないのよ!カシュミーヌちゃん!!"と笑った後にーー。


"まあ、思考が混ざっちゃうのは仕方ないしね。それにあの子達は答えに辿り着かないよ。あの子達はあくまでも()()()。ミミコちゃんのところとは違う"と苦笑した。


 その後、おちゃらけた様子で"それに思考混ざってるなら私の方に似てるから安心しなよ!"と告げると彼女は心の中とは思えない程嫌そうにーー。


(ユーネ=マリア様に似ているのはもっと嫌です)


 吐き捨てた。


"何......だと......?その言い回しにはキリンさんとゾウさん以上に私が驚きを隠せない......"


(ユーネ=マリア様を慕っているのは本性を知らないメイリアと母位です。まあ、そんなことはおいといて今後の対応の必要はないと?)


"え、いや、そんなことって......神は信仰の為にイメージが大事ーー"と狼狽える彼女の思考を無視し続けると彼女は諦めた様子で告げる。


"蛇に知れるのは良くないけどリュシカちゃんに関しては既にバレてる節があるから。あのテロリストが起こした連続婦女暴行事件も今考えれば奴が関わってる気がするんだ。レディキラーはテロリスト側が用意したのか、その存在を知らなかったようだけど、単なるテロリストに公爵家の護衛が倒せる訳がないからね〜"


(ならばユーネリウス様にリュシカを守って貰い、本人は本人でその身を守って貰うと?それ以上の方法が無いと言う訳ですね?)


 彼女が確認するように告げれば彼女は頷くような思考を送ってくる。


"簡単に言えばそういうこと。私も悲願達成の為に全力を尽くしたいけど、変に護衛つけたり真実を告げるより彼は自由に動けた方が力を発揮出来る。それに私は愛に関してはどんなに悲願達成が重要であっても平等で無くてはならないからね〜。神が自分の為に恋愛感情弄ってたら愛ってなんだ?って話になるし"


 神も意外と面倒臭いのよ〜と溜息を漏らす彼女にコルニトワは(ですが今回は諦めたくないと?)と首を傾げた。


"そりゃあそうだよ。これだけ相性抜群で既に婚約まで辿り着いてるなんて本当に奇跡みたいなもんだからね?しかも、時代が違えば即くっついていたような相性ヤバい娘達を振り切ってーーこりゃあ蛇なんかには邪魔されたくないよ〜"


 とメラメラ炎を燃やすが"まあ、もう祈るしかないんだけどね〜。神なのに"と彼女は笑うのである。コルニトワは(解りました。ありがとうございます。ではそろそろ魔力も限界なので切りますね?)と言って能力を止めた。


 暫し混乱していたが思考が漸く安定してきた頃、彼女は思う。偉大なる神の意思ーー悲願達成の可能性は全世界に大きな幸せを齎すであろう。それが"ユーネ=マリア神の"と付くだけでどうしてこれ程までに微妙な気持ちになるのだろうか?


 もう少し創世神らしく振る舞えば良いのにと思わず首を傾げざるを得ないコルニトワだった。













 ○●○●













 冬休みも終わり仲間達は世界大会へと向かっている。特に今回は何の役割も無いエルフレッドは通常授業の真っ只中ーーぼんやり空席を眺めては物思いに耽っていた。


 今回の世界大会はクレイランドで行われている為にリュシカの護衛はジャノバが担当している。最近は定期的にこうして一人の時間を作って貰えて感謝の気持ちもある反面、仲間達との距離というのは少しづつだが、更に離れていっているように思えた。


 最近、よく頭に過ぎる事がある。それはジャノバの言葉である。




 最低三ヶ月くらい家出したらどうだ?




 無論、それを望んだところで実際には学業などを考えれば不可能なのだが、そのくらい明確に距離を取った方が自身にとっても皆にとっても良いような気がしてならないのだ。ジャノバの言った言葉が全てだとは思わない。友人達が自身に甘えてこういった状況を強いているーーそういった面がないとは言えない反面。話に参加出来ないような状況にあるから気を遣って態とそういう場には呼ばないようにしているとも考えられる。アーニャの件が解決しなければーーという状況は何時になっても変わらずだが単純にそれだけではないことは理解出来るのだ。


 そういった意味でも互いに気を使う形を無理にキープするよりはいっそ一回フラットにしてお互いに蟠りなく会える時を考えてみるのも良いのでは無かろうかと思うのだ。となれば現実問題、どの時期にそれを実行するのが良いのか?という話になってくるとまた難しい。


 変な話だが少し期待している面もあった。この闘技大会が終わり放課後の時間が出来れば皆の状況が変わってくるかもしれない。次の大きなイベントは文化祭だが、その準備は闘技大会のように固定のメンバーで行うものではない。友人達全員がアーニャと必ず接せねばならない闘技大会のように時を同じくする必要はまるでないのである。となれば、何人かがアーニャを、何人かが自身との時間を作ることが出来る筈なのだ。


 そうなれば以前のような友人関係が少しずつ戻ってきて態々今のように悩む必要が無くなるのかもしれない。


「さて、珍しいことに真面目な生徒がまた思考の渦に巻き込まれているようだ。私の記憶が確かならば一年生の時にも一回だけこのようなことがあったような気がする」


 そうすれば関係をフラットになんて考えずとも良い。自身の中の蟠りも解けて全てが円満に解決出来る。それに越した事はない。


「きっと普段仲良くしている友人や婚約者が闘技大会へと出ている事が気が気でないのだろう。17歳となった今でも彼の忙しい状況は変わらない。きっと悩みも多い筈だ。私は少し心配になってしまうな。教師として」


 問題はこの闘技大会が終わった時に今の状況が変わらなかった場合でーー。


 クスリ、クスリと周りの生徒の笑う声が聞こえてエルフレッドは周りを見た。顔見知りとなった生徒が「エルフレッド、前々」と笑いながら教壇の方を指差すのでそちらに視線を向けると世界史の先生が意味有り気な表情を浮かべている。


「それでは悩める生徒エルフレッド君。クレイランドの公務員制度における問題点を答えて貰えるかな?」


 ワハハハーーと堪え切れずに笑う生徒が居る中で慌てて立ち上がった彼は机に膝をぶつけて蹲った。そういえば、前もこんな事あったなと涙を目に浮かべながら彼は立ち上がり問題点について答え始めるのだった。

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