表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
303/457

18

 きっちり時間通りに城門へ向かうと既に彼女が待っていた。エルフレッドが待たしてしまったことに頭を下げれば「自分で十分と言っておきながら五分も我慢することが出来なかったのだ」と彼女は笑った。


「それは流石にこちらではどうしようもない」


 と彼が笑い返せば「無論、理解している。だから気にするな」と彼女は微笑んで彼の手を握った。使いの者より案内を受けて皇城内の応接室へと向かった二人は紅茶を嗜みながら二人を待っていたコルニトワへと頭を下げた。


「本日はお招き頂き真にありがとう御座います。コルニトワ正妃殿下」


「叔母様、エルフレッドと一緒とは思いませんでしたわ。本日は如何なさいましたか?」


 二人がそういった言葉で挨拶をすれば「......よく来てくれましたね......愛しき我が子......そして......ユーネリウス様......」と彼女は小さく頷いてーー。


「......最古の蛇が相手と聞いて......一度確認したいことがありました......ですが......()()()()()大丈夫のようです......」


「見たところ......ですか?叔母様?」


 不思議そうな顔でリュシカが告げれば彼女は小さく頷いてーー。


「......ええ......見たところです......私の()()()()()()()で見たところ......蛇の残滓はありますが......呪いなどはありません......」


 さて可笑しなことになって来たぞとエルフレッドは思った。コルニトワの異名は水の聖女であり、何らかの特殊な能力を持っているような話を今まで聞いたことがない。そして、リュシカも初耳だったのだろう。


「聖女としての力.......?」


 と不思議そうに首を傾げて叔母が何を言ってるか理解しようと努めていたが、全く解らなかったと困った様子で彼を見た。当然リュシカが知らないコルニトワの秘密をエルフレッドが知るはずも無く、お互い困惑した様子で首を傾げていたがーー。


「失礼ですがコルニトワ正妃殿下。正妃殿下の仰られている聖女としての力というのは水の魔法の巧みさを示すものではないのでしょうか?」


 代表して訊ねると彼女はゆっくりと横に首を振りーー。


「......いいえ......違います.......私の能力はユーネ=マリア様の目となる能力です......確かに蛇は神さえも欺く......しかし......直接神眼で見る事が出来れば......その悪しき力を見ることも可能です......」


 彼女曰くユーネ=マリアが世界を見渡す際にピンポイントで一人の人間を見つけることが出来ないのは、その力が微々たるものだからだそうで、広域に力を及ぼすような存在でなければ解りようが無いのである。例えば人間ならばエルフレッドのような莫大な魔力を持つ者は確認することが出来るがレディキラーのような存在は探す事が出来ないのである。そして、元来、巨龍という存在は見る事が可能なのだが、例えば常闇の巨龍のように隠匿に長けた者を見ることは不可能なのだという。


 そこでコルニトワの出番となる。彼女の瞳や思考は一時的にユーネ=マリアと一体になり、人の身でありながら神としての能力を発揮する事が出来る。彼女が見たものはユーネ=マリアと共有され、ユーネ=マリアは彼女が見た者をピンポイントで探る事が可能になる。視界は人一人分になるが正しく神眼ーー見抜けぬものは無いのだ。


「......ですが......思考をも共有しますので......時に自身とユーネ=マリア様の思考が混ざってしまい.......混乱してしまいます.......その為......物事を思考し話すまでに......時間が掛かってしまうのです......」


「......なるほど。そういった能力をお持ちだったのですね。疑問が解決しました」


 エルフレッドは何故彼女がこのような話し方をするのか疑問を抱くことが多々あった。しかし、今の話を聞けば納得である。要は彼女は時にユーネ=マリア神の思考と自身の思考がごちゃ混ぜになり、それが正しく自身の考えなのかを認識するまでに時間が掛かるということらしい。


「......叔母様。何でそんな大事なこと黙っていたのですか?」


 少し不満げな表情でリュシカが告げれば彼女は首を傾げーー。


「......言ってませんでしたっけ......?」


「はい。聞いてません。もしかして愛しき我が子というのはーー」


 彼女は顎の下に人差し指を置いて考えた後、リュシカへと視線を向けてーー。


「......それは......リュシカちゃんは超絶プリティーで......愛らしくも美しい......妹がプレゼントって言ってたと勘違いした時はありましたが......思考が混ざって......?」


 とそこまで言って彼女は首を横に振った。


「......何でもありませんーー「いえ、正妃殿下。そこまで言ってしまったら、もう隠すのは不可能ですよ?要するにリュシカはユーネ=マリア様と何らかの関係があるということですよね?それもかなり近しい存在だということですよね?」


 エルフレッドが真顔で告げれば「......私......そんなこと言いましたか......?」とあくまでも白を切ろうとするコルニトワである。


「......そういうことだったんですね......通りでお母様が何も言わなかった訳です。叔母様はきっとお母様にその能力の話をしたのでしょう。そして、最古の蛇がレディキラーを唆して何かをしようとしたのもそれが関係してーー「......急用を思い出しました......失礼します......」


 遂に話し方に似合わず、機敏な動きで逃げ始めたコルニトワーー「あ、叔母様‼︎待って下さい‼︎話は終わってません‼︎」と呼び止めるリュシカを無視してすたこらさっさと応接室から逃げてしまった。


「......謎が解けた結果、余計に困ったことになりそうだ。要はリュシカもどの程度かは知らんがアマテラス神の血を引くライジングサンのイングリッド王家のような神の何かがある存在だったというわけだな......」


「私も信じられんがどうやらそうらしい。ふむ、もしかしたら、それもあってアーニャやルーミャに強い親しみを覚えていたのかもしれんな......」


 真相を知るコルニトワはユーネ=マリア神から口止めでも喰らったのか今後は確実に白を切る気満々だろう。そこまで話しておいて態々隠す理由は何なのか解らないが憶測は出来ようと真相は闇の中である。


「今日は何だか驚き過ぎて疲れてしまった。頭の整理も必要になりそうだから一旦解散しても良いだろうか?」


 叔母の聖女としての能力、自身の秘密ーー確かにいきなり降りかかって来て整理するには時間が掛かるというものだろう。エルフレッドもそういった線ならば考えなくてはならない事や護衛を任せている人物達に対する共有など、多くの対応が必要になる。


 今日の所は解散して集まって遊ぶなり何なりする場合は明日以降に回した方が良いだろう。


「そうだな。俺も護衛の件など、より厳重に考える必要が出て来たからな。まあ、休みはもう少しある。クレイランド観光にでも行きたい場合は明日以降にすれば良い」


 彼がそう言って微笑めば「そうだな。ありがとう。エルフレッド」と彼女も微笑みを返した。衝撃の事実にその情報の重要性の吟味ーー結局、休暇ながらやる事が満載になりそうだと心の中で苦笑せざるを得ないエルフレッドだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ