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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第ニ章 氷海の巨龍 編
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9

 今週の週末は大忙しである。


 ベヒモスを倒したエルフレッドは余りの帰還の早さに驚かれたが、それ以上に驚き落胆している自分がいることから冷静に対応ーー魔石を置いて早々に帰還し就寝した。


 そして、迎えた本日は勲章授与の式典だ。その式典が終わると両親との会食が待っており、その後は夕方よりヤルギス公爵邸への謝罪訪問なのだが何故か一泊することになっている。それが終わると今度は学生寮の自分の部屋に一時帰還。準備を終え次第ホーデンハイド公爵邸へ家庭教師の仕事へと向かう。最後にホーデンハイド公爵邸にてカーネルマック公爵家の方々が合流するそうで同席にて顔合わせと会食という流れだ。


 それにしても功績を挙げたとはいえ、依然として一介の子爵でしかないバーンシュルツ家である。自身にとっては雲の上の人々と良くもまあこんなに繋がったものだと思った。スケジュールを見返しながらエルフレッドは全く持って気が休まらぬ予定に休日の意味を今一度問いたくなる気分だった。


 王城に到着してバーンシュルツ家に当てられた黒に青線の正装に着替えたエルフレッドは入場の際に一礼、そして、御前で深く礼をして片膝をついて頭を下げた。その胸にはキメラ討伐時のニ等勲章、ジュライ討伐時の一等勲章が輝いていた。


「勲章授与。エルフレッド=バーンシュルツ子爵子息殿。貴殿はアードヤード王国内に蔓延る大悪であった灼熱の巨龍を倒し、先の討伐を含めた結果アードヤード王国内全ての巨龍を討伐ーーその功績に加えて先日突如姿を現した大陸巨獣ベヒモスを討伐。以上の功績により大星勲章改め特級勲章を授与する!」


 湧き上がる拍手の中と歓声の中で自身の声が届くように高々と返答すると国王陛下より「面をあげよ」との声が掛かかった。立ち上がり、一礼をして顔を上げたエルフレッドに宰相より再度声が掛かった。


「その素晴らしき功績を讃えてクリスタニア=イヴァンヌ=アードヤード王妃殿下より直接の授与が行われる。心して受け取るように‼︎」


 会場が一瞬どよめいて爆発的な拍手へと変わった。王太子殿下からの授与等はあったが王妃殿下からの授与は当国では前代未聞である。カーテシーにボウアンドスクレイプで答えて胸に大星勲章がつけられるとエルフレッドは深々と頭を下げた。


「おめでとう」


「ありがとうございます。我が身に余る心遣い、恐悦至極に御座います」


 彼がそう答えると王妃殿下はくすりと笑った。


「そなたはそなたのお母様とはあまり似ていないようね?結構似ているという噂でしたけど」


「......真に申し訳御座いませんがなんと申せば良いか返答に困る質問で御座います」


 視界の端では授与者来賓席で誰も文句がつけようのない立ち姿で母レイナが手を叩いている。


「それはそなたのお母様に聞いてみると良いわ。勿論、私が言っていたと申しても良い」


「かしこまりました」


 エルフレッドがそう言うと王妃殿下は笑顔で頷いて席へと戻っていった。


「そのまま楽にすると良い。エルフレッドよ。そなたの働き誠に素晴らしいものである。よって褒美はそなたの希望に沿うものにしたいと考えている。嘘偽りなく応えよ」


 "あれば申せ”ではなく”嘘偽りなく応えよ”である。よって自身の持っている願いを絶対に口にせねばならない状況だ。エルフレッドは一瞬考える素振りを見せたが王の手前悩む時間はない。以前より考えていた褒美をそのまま口にすることにした。


「仰せのままに。私は将来領主となった際には自身の数少ない長所である個人としての戦闘力を我が国に役立てたいと考えております。引き続き功を立て伯爵位と相成った際はこの武力が活きる伯位を賜りたく存じます」


 エルフレッドがそう言うとリュードベックはその顔に深みのある笑みを浮かべて満足気に頷いた。


「その考え真に素晴らしく我が考えにも等しい。そなたは既に気づいておるだろうがバーンシュルツ領は北東の平原を越えると小列島からなる小国家群、北西に抜けるとグランラシア聖国の国境へと連なっている。共に国家間は正常が故に放置されていた土地ではあるが現在は海賊、山賊の温床と化しており天秤次第では国際問題の発生へと繋がりかねない場所だ。我はそなたが領主となった際には双方の討伐と平定を成し遂げて、その全てを領地とすることを期待している」


 その王の言葉に会場に集まった者たちがざわめいた。その言葉の意味する褒美が余りにも大きかったからだ。


「本日を持ってバーンシュルツ子爵を北方伯爵と任命する。そして、エルフレッド=バーンシュルツ領主任命後、北東北西問題平定次第"北方辺境伯"に任命する。心して掛かるが良い」


 その瞬間エルフレッドを讃える大喝采が鳴り響いた。


「リュードベック=クロス=アードヤード国王陛下に最大限の敬意と最大限の忠誠をここに誓います」


 膝を折り最敬礼で答えたエルフレッドにリュードベックは「そなたは欲が足らんな」と微笑んだ。


「本日、グランラシア聖国より神託が届いた!かの者は世界を救う救世主足り得ると![聖人大名鑑]より聖エルフレッドの名が追記され、ユーネ=マリア神の遣わし勇猛果敢の御子ユーネリウスの名を名乗ることを許された!よってエルフレッド=バーンシュルツ改め真名エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツとする!」


 それは世界最大の信徒を誇るユーネ=マリア教の御子として選ばれた瞬間である。そして抽象的なことだけではなく聖国との国境をエルフレッドは無条件に越えることが許された瞬間でもあった。


 湧き上がる熱気に頭が追い付かず「それが神託ならば私はユーネ=マリア様の御意を喜び慎みを持って賜ります」と頭を下げる。


「そして、冒険者ギルドより特Sランクは永久名誉ランクとしてエルフレッドの名と共に永劫語られることとなった‼︎以後かの功績を越えぬ限って与えられぬ物と心得よ‼︎」


「かの歴史ある冒険者ギルドからそこまでの図らい冒険者として最高の栄誉に万感の思いで御座います」


 これでは確実に七大巨龍の討伐をせねばならないな、と最大限に頭を下げることで顔を隠し誰にも解らぬように苦笑したエルフレッドであった。


「以上を持って勲章授与とする!そして本日、四月十七日をユーネ=マリア神の御意に則って英雄生誕の日とし祝日とする!」


「ユーネ=マリア様万歳‼︎」「リューベック国王陛下万歳‼︎」と万歳三唱が鳴り響く中で宰相の冷静な咳払いが届いた。


「以上を持って勲章授与を終了する!エルフレッド=バーンシュルツ子爵子息改めエルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツ伯爵子息殿、今後とも活躍を期待している!」


 その言葉に最敬礼で答えてリューベック国王陛下、並び、クリスタニア王妃殿下の頷きに最敬礼を返した。本日、この時だけ御膳に背を向けて退出することを許されたのである。


 父が満足気な表情で粛々と涙を流す様にエルフレッドは胸が熱くなり、普段はこういった場所では完璧な母が我を忘れて少女のように飛び跳ねて喜んでいる姿には思わず笑ってしまった。


 偶々視界に入ったリュシカはメイリア様が信心深いユーネ=マリア教の信徒であり大聖女であるからそうなっているのか歓喜感涙ーー、強く抱き締められているのか苦しげに、とても怠そうに拍手を送っていた。扉を潜り、客間に案内され、両親との会食までとティータイムに招待される。王太子殿下やまだ小さな王女殿下と話した後、一瞬だけ一人になったその瞬間エルフレッドは頭を抱えて呟いた。


「もう今日の予定は全てキャンセルしたい......」


 それが彼の心からの願いであった。しかし、それが出来ないことは重々解っているエルフレッドであった。

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