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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(下)
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 アーニャを救ったエルフレッド。友人達は多少形は変わってしまったが日常が帰ってきたことに安堵していた。しかし、その現状は仮初めのものでしかないことに気付く者は居ない。アーニャとの約束を守り、姿を消したエルフレッドはしかし、自身に課せられた護衛の任務を果たさなければならない。そして、周りはアーニャの状態をよくすることには必死で彼の心情には全く気付いていなかった。小さな皹は小さな破片となりポロポロと崩れていく。奇しくも蛇の願った崩壊は別の所から始まっていた。

 最近のエルフレッドはよく図書室で過ごしている。学園内で過ごせばリュシカの魔力は解るので異常が有れば気付く事が出来るからだ。どうも蛇と呼ばれる常闇の巨龍は多くのところで暗躍しているようで今回のような事態を招かぬ為にも少しでも正体に気付く必要があった。


 ーーのだが。


 溜息と共に本を閉じたエルフレッド。情報が少なく、そして、彼自身も気がそぞろだ。最近、何事にも身が入らない。自身が頑張る意味を少しづつ見失っているのである。無論、蛇の狙いは自身であろう。そして、蛇の側につく者達は自身の周りを狙っている。しかし、最近の自分はその輪には居らず、彼等はどう感じているかは解らないが物理的に距離が出来るばかりだ。


 放課後などは時間があるハズだが特に会う話にもならない。そう考えると自身との関係はその程度のものだったとーー。


(如何な。何事もマイナスに考えるようになっている)


 情報が少ないだけで実は皆も放課後は忙しいのかもしれない。例えば闘技大会に急遽出る事になったリュシカはそれに向けた練習があるだろうし自身は本調子ではない為、教えることは難しい。そして、他の友人達も基本的にはそのメンバーに含まれて含まれていないのはアーニャと自身だけ。アーニャとは相変わらずであるし、そう考えれば今の状況も納得出来るは納得出来る。


 だが、納得出来る事は出来ても連絡の一つもない現状というのはどうなのだろうか?無論、去年のことを考えれば闘技大会のグループを作って其方でやり取りしているのだから、今年は参加していない自身には連絡はこないだろうが、その事すら忘れられているのか、と思えばそれまでのような気がする。


 何を考えても悪い方に考えてしまう。しかし、リュシカが学園にいる以上あまり離れる訳にもいかない。気晴らしが出来ず、然りとて会いに行くことも躊躇われる。この現状はあまりにも良くないものであった。溜息を漏らしたエルフレッドは本を仕舞いコーヒーでも飲みに行こうと考えた。無論、学園内のカフェではあるが同じ場所にいるよりは気が紛れるというものだ。


 席を立ち、背伸びをしているとこちらを不思議そうに見ている女生徒の姿が目に入った。見覚えのある顔に一瞬考えたが思い出した彼は少し慌てた様子で身嗜みを整えて彼女へと頭を下げた。


「これはこれはカーネルマック公爵家御令嬢、カターシャ様では御座いませんか。気付くのが遅れて失礼な対応を取ってしまい真に申し訳ありません」


 女生徒、カターシャ=ルナミス=カーネルマックは少しキョトンとした後にクスクスと笑いーー。


「ここは学園ですから、そのような言葉遣いは不要ですよ?()()()()()()()()。いつも兄のサンダースがお世話になっております」


 丁寧に頭を下げながらそう言った彼女はホーデンハイドの血筋ということもあって彼の心情を察しているようであった。


「ハハハ、カターシャ様に先輩と呼ばれるのは何だか不思議な気分ですね」


 そう言って微笑む彼に「確かに学園で声を掛けたのは初めてですから」と微笑んだ後に困惑した表情を浮かべてーー。


「それは良いのですが.......最近、私が図書室にいる度に入り浸って居られますし、どうかなされたのですか?兄同様の能力で申し訳無いのですが、あまり元気が無いように感じましたので声を掛けさせて頂きました」


 兄同様の能力と聞いてエルフレッドはピンと来るものがあった。即ちそれは相手の感情が手に取るように解る能力でホーデンハイド公爵家の血筋に現れるとされる能力だ。一日二日というわけではないのだろう。来る度に入り浸っているとまで言われては何度となく自身の不安げな感情を見られ、居た堪れずに声を掛けてきたという所かーー。


「そうなると隠し事は出来ませんね。実はですねーー」


 カターシャの椅子を引き、向かい側の席に座り直したエルフレッドは最近の状況について話し出した。現実、どうしようもない問題が立て込んでいて友人達と連絡が取りづらい状況の上、自身はアーニャとの約束があって顔を出しづらい状況にある。しかし、レディキラーのことを考えるとリュシカの側を離れる訳にもいかないので、こうして図書室で時間を潰していた。しかし、それも流石に疲れてきたのでカフェにでも行ってコーヒーでも飲めば少しは気持ちが変わるのではないか、と思っていた所だとーー。


 彼女は云々頷いて相槌を打っていたが暫くして「難しい問題ですが......連絡を取り合う必要はありそうですね」と顎下に曲げた人差し指を置きながら言った。


「今の現状ではエルフレッド先輩が辛いだけで何も解決しないでしょう。勿論、アーニャ殿下の問題は深いですがメッセージを送り、連絡を取り合うだけで心のわだかまりは溶ける部分も多いでしょうからーーとはいえ、確かに先輩が連絡をしなければ誰もその状況に気付かないというのは何だか困った話ではありますが......」


 困った話と濁したがカターシャは少しだがエルフレッドの事を不憫に感じていた。多分だが彼はあらゆる部分が強すぎるが故に周りから放って置いても大丈夫だと思われている節がある。それはきっと無意識によるもので何も彼を適当に扱おうと思ってのことではない。目の前に壊れそうなアーニャがおり、其方に気がいってしまい誰もが無意識の内に安パイだと思っているエルフレッドの強さに甘えているという状況だ。


「確かに連絡を取った方が良いのでしょうが......恥ずかしながら私から連絡を取る理由がないと言いますか......安直な言い方をすれば現状自身が寂しがっているだけとも言えますし、それをメッセージに馬鹿正直に書く訳にはいかないでしょう。最近はどうか?と聞くのも闘技大会で忙しく、アーニャの事で大変なのは既に解っていること......改めて聞くには当たり前過ぎると言いますか......」


 そこが更に問題であった。エルフレッドは友人達が忙しい理由を元から把握しており、改めて聞く必要が無い。そして、忙しい理由が理由なだけに安直に日程や現状を聞き出すのも躊躇われる。リュシカくらいならば病気の治療の件で連絡を取ることも可能だろうが、彼方から連絡が無い所をみると何となくだが実家で治療を受けているのではないか、と思うのだ。


「うむむ......確かにですね。それに多分ですがエルフレッド先輩の考えは合ってますよ?彼方は彼方でエルフレッド先輩が本調子ではないことを知っておりますから無理に治療をさせることを躊躇っているのでしょう。でも、その位しか連絡がしようがないというか......いや、別に友人や婚約者なので用がなくても連絡しても良いとは思うんですけど......そうなると現状が......」


 結局の所、何処かに何かが引っ掛かるのである。それもそれでおかしな話なのだが現状自体が真っ当な状況とは言えない。しかし、カターシャとしては無理矢理でも連絡を取った方がいい事は解っていた。


「なら、私が少し聞いてみましょうか?この通り、結構暇しておりますので先輩との連絡は取りやすいでしょうから......それとも女性の連絡先が増えるとリュシカ様が嫌がりますか?」


 エルフレッドは少し考える。今までの経験上、彼女が嫉妬して見せたのはノノワールの件くらいで連絡先交換にどうこう言われた事はなかった。とはいえ、割と嫉妬深い方なので嫌がるのは嫌がるかもしれない。


「うむむ......いや、やっぱり連絡先交換は辞めておきましょう。暫くは図書室に出没しようと考えてますので、その時に聞いた話を話すという事で......」


「そう......ですね。何から何まで配慮してもらって有難うございます。それにしても、このように時間を頂いても宜しいのでしょうか?」

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