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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(中)
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17

 その瞬間、エルフレッドは渋い表情をした。言うべきか言わぬべきか迷った表情の末にルーミャならばと彼は口を開くのである。


「実はな。聖国からの神託で常闇の巨龍の影とレディキラーが接触しアードヤード国内に進入した可能性があると報告があったんだ。常闇の巨龍の影は神でも正確な居場所は掴めない故にレディキラーの居場所とされる我がバーンシュルツ領を中心に緊急調査に出向かねば行かなくなったのだ。ある程度目星がついたら途中から護衛として参加するが両国はそちらの方が緊急性が高いという判断だ」


 凶悪犯罪者と最古の蛇の接触と共闘の可能性ーー要らぬ入れ知恵は巨龍のものだと判断出来るが故に協力体制が組まれている可能性は否定出来ない。その凶悪な協力体制が婚約式にて凶行に走る可能性を考えると、そちらに最大戦力を向けるべしという判断はやむを得ないと言えよう。


「それはやばいねぇ......それに下手したら巨龍と戦うことになるってことかぁ......それはエルフレッドしか対応出来ないねぇ」


「そういうことだ。しかしながら、俺としてもなるべくはレーベン王太子殿下、アーニャ、リュシカの三人の側を極力離れたくはない。問題が無いと判断出来た時は可能な限り最速で戻ることを約束しよう」


 王命であり両国の決定である命令にエルフレッドが背くことは出来ない。心情は多少複雑だが、これも先の三名を守る為である。そう考えて割り切る他ない。よって巨龍が出現しない限りは手早く済ませて最速で戻るというのが彼に取れる最善の行動であった。


「うん。お願いねぇ。両国の最高戦力を集めるとは思うけど......やっぱり、心配だからぁ」


 今の情報を聞いてより不安になったのかルーミャは不安げな表情で言った。


「エルフレッドは約束を破らない。だから、そう不安そうな顔をするな」


 落ち着かせるように肩を抱くリュシカに彼女は少し凭れかかって頷いた。不安な気持ちも複雑な気持ちも解るが、彼等に出来ることは何もないのだ。今はただ学生の本分に勤しむのみ。彼等にとって領地経営学の授業は学園で受けるどの授業よりも最も重要かつ必要な授業なのだからーー。












○●○●













 そして、婚約式の当日となった。スケジュール通りに言っているのであれば、今は婚約式会場に向かうパレードが行われている所だろうかーー。自領、港より調査を開始したエルフレッドは呆れるほどに穏やかな海と秋とは思えぬ程に暖かな日差しを放つ太陽に目を細めながら、変わった魔力の存在が無いかを探知するに努める。


「我が国の英雄、エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツ殿。本日は貴殿と共に行動することになる騎士団副団長のコーデリアス=エイガーだ。娘がいつも世話になっていると聴く。よろしく頼む」


 握手を交わし、簡単な自己紹介を済ませた後に副団長以下一小隊数名と共に手分けをして任務を遂行することになっていた。


「こちらこそよろしくお願い致します。イムジャンヌ嬢とは特に親しき友人の間柄ーー、今後とも友好を深めていけたらと願うばかりです」


 彼がそう告げるとコーデリアスはこれは判断しかねるぞ、と少し難しい表情を浮かべて「ーーして、一つ懸念事項があってだな。任務遂行の邪魔にならぬように手早く解決しておきたいのだが良いだろうか?」と神妙な表情で告げるのだ。


「......何か御座いましたか?無論、私で解決出来ることならばなんでも協力いたしましょう」


 今回の任務はとても重大な任務である。少しでも懸念があるのならば即座に解決して、クリアな状態で任務に当たる必要があった。エルフレッドの言葉にコーデリアスは表情もそのままに絶対に確認しなくてはいけない事だと言わんばかりの口調で確かにこう言った。




「エルフレッド殿は娘の意中の人をご存知だろうか?秘匿を続けるものだから疚しい事があるのではないかと心配で心配でーー」




 瞬間、場の空気が凍りついた。確かに懸念事項だろうが、それを今言うのかと部下達も焦った表情を浮かべている。対してエルフレッドは笑顔だ。もうとびっきりの何言ってんだコイツは?と言わんばかりの表情でバッサリと告げるのである。


「友人達も秘匿にされている状態ですから誰も知りませんよ。懸念が晴れた所でサッサと任務に入りましょう。副団長殿」


 有無を言わさぬ口調ーー、エルフレッドは時間の無駄だと言わんばかりに魔力を張り巡らせると急ぎ探知に努めるのだった。




 アイゼンシュタットの通りは尋常じゃない数の人々に溢れ、今日という日を迎えるのである。第一層防壁付近から屋根のない馬車に乗り周囲に笑顔を見せるレーベンとアーニャ。和装と洋装の入り混じった特殊な礼服を身に纏い集まった人々の視線を釘付けにするのだ。


「貴族内には反対の人も居たと聞きましたが街の行く人々は皆、妾のことを歓迎して居てくれているようで良かったですミャ」


 アーニャは心からそう考えての言葉と微笑みだったがレーベンは少し申し訳なさそうに苦笑した。


「ごめんね。僕に力が無いばかりに......彼等の考えは主に僕の血筋が関わっているんだ。僕は母親を尊敬しているけど、周りは元騎士爵令嬢の母を良く思っていないから......王妃の生家として伯爵家になったことにもやっかみを覚えている者も多いんだ。そして、その子供である僕は相応しくないと思われてる。だから、獣人の見た目を理由に格式が最高位のアーニャが嫁いで来ることに恐れを抱いてる。本気でライジングサンに乗っ取られてる可能性を危惧しているんだよ」


 自身が王族として最低位だと思われていて時に公爵であるヤルギス公爵家に劣るとまで陰口を叩かれる心情を吐露し、それでも申し訳無いと言った。アーニャは少し吹き出し気味に微笑むとわざとらしく傲慢そうな表情を作りーー。


「人族は面白いことを考えますニャア。()()()()()()()()人族の位の高い低いなんてどうでもいいことですミャア♪」


 キョトンとした表情をでアーニャを見詰めるレーベン。真意が掴めず探ろうとする視線に彼女は微笑んでーー。


「そんなどうでもいいことより妾はレーベン様の御人柄を評価してますミャ。才知に優れ、努力を怠らず、問題解決に全力を尽くす。とても理想的な王太子では有りませんかニャア?それに政略結婚ではありますが、妾が選び、妾を選んでくれた御方ーーそれ以上が何処に御座いましょうかミャ?」


「......ありがとう。僕は君となら何処までも頑張れそうだと今確信したよ」


 心から湧き上がる感情に瞳を潤ませる程のレーベンはとても穏やかな表情で微笑んだ。そんな彼を見てアーニャも嬉そうに微笑んでーー。


「それでこそレーベン様ですミャ♪期待していますミャ、未来の旦那様♪」


 第一層の人々は城下町に住める程度には裕福だが極一般的な平民で、レーベンやアーニャの素性を知る機会が少ない。神の一族の王女が嫁いでくることは解っていても、どのような人柄か不安に思う気持ちがない訳ではなかった。だが今日のパレードを見て確信した。


 不安そうにしていた我らがレーベン王太子が彼女の冗談めかした何かで感動に打ち震える程に安心して微笑んでいる。その姿を見て、ああ、この二人ならばきっとアードヤードを仲睦まじい自身達のようにこの国を導いてくれるだろうと、二人の様子だけが根拠だが、第一層の人々にとってはそれ以上の情報は必要ないのである。


 幸せそうに寄り添い手を振る彼等に多くの幸福をーーと第一層の人々は歓声と大きな拍手を送るのであった。

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