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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(中)
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「私の親友が魅力的じゃない訳がないではないか。レーベン王太子殿下は流石だと思うぞ?」


 そして、リュシカはそれが当然だと言わんばかりの表情だ。何せ、この親友は自身を何度となく救ってくれた心優しき存在である。リュシカが知る中で誰よりも頭が良いにも関わらず、時に道化を演じ、時に無茶苦茶な事でも自身の為にしてくれると言い放つ、本当に素敵な少女なのだ。ーーまあ、エルフレッドに対する対応には思うところもあるが、それはそれ、これはこれだ。


「そうかニャア?嬉しいような、恥ずかしいような感じミャア?」


 ニハハハとはにかんだ彼女を見ながらリュシカは思うのだ。一般的に学園生活は二年生が楽しいと言われている。それは様々な理由があるが友人グループが出来て進路を悩むには時間が多く有り、充実した日々を過ごしやすいという部分が大きいだろう。


 階段で二階へと登り、換気の為に開けてある窓から秋らしく冷たい乾いた風を肌で感じながら考える。


「教室が見えてきたな。今日はリュシカとの鍛錬の日だから放課後は集まれない。他の友人に聞かれたらそう伝えてくれ」


 愛する人の声がした。かつては何よりも最強になることを目指していた彼だったが今では自身のことを何よりも優先してくれている優しい人だ。


「了解!入れ違ったらあれだから極力こちらから伝えるようにするよ!」


「は〜い♪オッケー♪私も伝えるようにする〜♪」


「妾は婚約式が終わるまで何方にしてもいけないミャア。何か聞かれた時は言うようにするミャア」


 親友と友人達の声がする。身分関係無く、意見を言い合える友人を作りたいと願った自身が今ではその願い通りの友人達を作っている。エルフレッドに始まり、元から仲の良かった双子姫は獣人だ。今でこそ子爵予定のアルベルトは世界政府府長の息子という特殊な立場だが、平民の友人である。そして、剣聖の末裔のイムジャンヌは元々部下のような関係にあった男爵令嬢。ノノワールなどは名門伯爵出身ながら男女の枠に入らない性別を持つ人気舞台女優だ。更に最近仲の良いメルトニアさんやアルドゼイレンなども加えれば、Sランク冒険者に天空の巨龍まで居る。


 特殊な立場の公爵令嬢の当初の願いは全て叶ったと言ってもいい。荒唐無稽と心で笑った人々もいたことだろう。世間知らずの姫が考えそうなことだと。しかし、達成出来た。そう考えると一般論のそれとは多少違うかも知れないが充実した二年生というのは正しく今の事を差しているのだと思えるのだ。


「ああ、よろしく頼む......どうした?リュシカ?」


 愛する人が不思議そうな表情でこちらを見ている。確かに突然、話の輪から抜けて黄昏ていたらそんな表情にもなるだろう。心配そうな表情の友人もいる中で彼女は「SHRまであまり時間がないから手短に言うが」と微笑んでーー。


「入学式の時に言った身分関係ない友達という夢が叶ったと急に考えてしまったのだ。何だか凄く幸せな気分になったのだ」


 彼女の言葉に顔を見合わせた皆は微笑んでーー。


「そんな事言ってたミャア♪叶って良かったミャア♪」


「あのエルちんが泣かした時のだね♪懐かしい〜♪」


「そういえばそうだったね‼︎僕なんかは闘技大会までこんな風になるとは思ってなかったよ‼︎」


 笑いながら口々に気持ちを述べる皆の横で「泣かしたとか嫌な覚え方をしているな......」と苦笑したエルフレッドは、その表情を楽しげな笑みに変えた。


「それにしても言う通りになったな。大それた夢ではなかったが、実現するかと言われれば際どいラインの話だった。そう考えるとやはり叶わぬ夢というのはないということだろう。さて、そろそろ行こうか?」


 エルフレッドがエスコートの手を差し出した。チャイムまであまり時間はないが教室の目の前であるから遅刻することはない。皆と自身の夢について話す事が出来て良かったな、と朝から幸せな気持ちが溢れてくるリュシカ。


「ああ、行こう」


 友人の暖かな視線に包まれながら愛する人の手を取って、とても充実している学園生活の中心である教室へーー。なんとも贅沢な朝になったなと彼女は胸一杯に幸せを受け、満面の笑みを浮かべるのだった。












○●○●













 鍛錬続きの毎日だが、充実した日々を送るイムジャンヌ。未だに鍛錬中に刀を触ることはないが、少しづつ自身の身体に変化が表れていることに気づいた。前に比べて無駄な筋肉が落ちた。身体が軽く感じるようになり俊敏性が増した。女性としても魅力的な部分が増えて、尚且つ力は以前に比べても増している。


 柔軟性のあるしなやかな筋肉に変わったことでタメやバネがしっかりと作れるようになった結果、威力が増しているのである。そして、魔法という面でも身体強化の効率が非常に上がっているのである。身体強化の強化する部分がより緻密で繊細になったことで魔力が隅々まで行き渡り、より多くの力を発揮しているのである。アルドゼイレン曰くーー。


「魔力を運ぶ物は何か?答えは簡単で実は血液が魔力を運んでいるのだ‼︎魔力の放出は誠に微量ながら血液を使っているのだ‼︎では、そんな魔力が含まれる血液が身体の隅々まで行き渡り、人体全てに巡っているそれを強化することが出来ればどうなるか?そうだ‼︎全てが強化されるということだ‼︎」


 その為には血液の循環が滞ることのない身体作りが必要で、毛細血管まで張り巡らされている魔力の感知が必要だということだ。そんなことが人間に出来るのかと問えば「本人にその意識は無いだろうが、エルフレッドはそれを為している。魔力の操作の練習などで全身の力を扱うようなことがあるのあろうな‼︎」と笑った。


 その話には苦笑せざるを得ない。自身が止める可能性がある相手は既に自身が習得して強くなった先にいるという訳だ。まるで背中が見えてこないのである。アルドゼイレンはきっと自身がエルフレッドと相対し、この優しくも気高い巨龍との戦いを阻止しようとしているとは思っていないのだろう。リュシカと戦い、良い勝負がーーあわよくば勝てればよいくらいに思っているに違いない。


(でも、それだとアルドゼイレンが......)


 今こうして目を閉じて魔力を活性化させていくと自身の身体の隅々に魔力が行き渡っているという意味が解る。血液があるところに魔力有りーー、自身の体内はどうなっているのか解る。ただ鮮明なイメージという程ではない。このイメージが鮮明になればなるほど、より強化が行き渡り強くなっていくのだと教えられている。


(私じゃあ助けられないのかな......)


 心が弱気になってしまう。仲間として見たエルフレッドは本当に強く頼りになる存在だが、相対する相手として考えた彼はあまりに隙が無さすぎて恐ろしい存在なのだ。仲間達の内で彼と本気で戦いたいと思う人物はアーニャ・ルーミャの双子姫くらいだろう。それも神化という人類には成し得ない神業を持ってこそだ。リュシカはもしくは才能的に良い勝負をするかもしれないが、あの二人が本気で戦うという事態は想像出来ない......そうなった時は二人の関係に何らかの危機が訪れた時だろう。


 秋の冷たい風を受け、少し身体が悴んできた。魔法の才能が圧倒的に足りないイムジャンヌに取って、魔法の膜を使って体を外気から守るという手段はあまり長く使える手段ではない。この身体強化の練習によって、どれほどまで魔法の扱いが上手くなるかは解らないが、今は自由気ままな風に吹き曝されるのみである。

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