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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(中)
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「全く......ここまで強いと悔しくもならんな」


 曲刀を振り下ろした態勢に突きつけられた大剣ーーリュシカは肩を竦めると降参と両手を上げた。


「そもそも俺を倒すことが目標ではないだろうに......正直、驚くべき強さだった。戦った人類の中でも上の方だろうな」


 大剣を鞘に入れ伸びをしたエルフレッドに彼女は微笑みながらーー。


「その上にはルーミャが居るのだろう?そして、未知数のアーニャはルーミャよりも強いそうだ。一度本気でやり合ってみたらどうだ?」


「その次は全快した人類最強の可能性が高いシラユキ陛下か?全く、王族でなければ挑戦してみたいものだが......神は別枠とでもした方が良いのだろうか......」


 人類最強ーーそして、最強の生命体。巨龍を倒した時点で成されると思っていた目標はあくまでも暫定最強が限界のようだ。属性で不利な上に王族ということもあって殺し合いは出来ない。ともなれば機会を見てルール有りの戦いでも繰り広げる他ないのだ。


「実績ではダントツなのだろうが......そうなるとあの時のシラユキ様が全盛期でなかったことが悔やまれるなぁ」


「いや、どうだろうか?確かに最強を決める戦いとしては惜しい部分もあるが賭けられていたのがリュシカとあってはな。あまりにリスクが高すぎる。無論、勝つ気ではいるが......」


「ほう?最強にしか興味がなかったそなたがな。まさか、私のことが惜しくなったか?フフフ、それは嬉しいことを言ってくれるじゃないか?」


 冗談めかして笑う彼女に「自分でも驚いている」と彼は肩を竦めた。


「巨龍全制覇を成し遂げれば目標達成には違いない。もし、学園に入る前ならば俺はシラユキ様やアーニャにも戦いを挑んだであろう。だが、今となってはそこまでする必要をまるで感じないんだ。巨龍討伐で神との約束を果たし、仲間達と学園生活を楽しむ。学園生活が終わればリュシカとの生活が待っている。そこに幸せを感じている......こんな男になってガッカリさせたか?」


 彼は自身の現状を語る。巨龍討伐が終われば、もう目立った功績を上げることはないかもしれない。今までは凡庸ながら功績を挙げることで自身を高めてきた。たが、それがなくなると考えた時、リュシカと自身で釣り合いが取れるのだろうか?という不安がある。しかし、穏やかで仲間達と共に過ごす生活に憧れを抱き始めた今、無理に功績を作る意欲もない。そんな姿にガッカリしたのでは無いかと思ったのだとーー。


 リュシカは少し吹き出して笑った。「すまん!全く考えていなかったことだから、つい笑ってしまった!悪く思わないでくれ‼︎」と笑い涙を拭った上で少し青々とした空を見上げ、深く呼吸をした。澄み渡る空気を胸一杯に吸い込み、落ち着いた彼女は長く息を吐いた後に微笑んだ。


「そなたが本音を語ってくれたならば私も語らねばなるまい。ハッキリ言えば私は安心している。夢を応援すると言っておきながら死ぬかも知れない戦闘ばかりに精を出すそなたに心落ち着かぬ気持ちがあったのだ。寧ろ、私の方こそ、実際は巨龍討伐すら反対したいと思っているのだぞ?まあ、そなただけの問題ではないから実際には反対しないがな。そなたの夢を応援すると言いながら、実は止めて欲しいと願っている。私はそんな女だ。エルフレッドこそガッカリしたのではないか?」


「なるほどな。今の話を聞いて納得するところはあれど、全くもってガッカリなどしてないさ。寧ろ、その心労を掛けさせている分については何れ返さねばならないと考えたくらいだ」


 エルフレッドが頭を掻きながら苦笑すればリュシカは悪戯っ子のような笑みを浮かべて「言ったな?」と彼に詰め寄る。


「では、終わった時はしっかりと対応してもらうぞ?ふふふ、今から楽しみだ」


「ああ、勿論だとも期待してくれ?......そろそろ行こうか。イムジャンヌ達も待ってるはずだ」


 彼が微笑むながら手を出せば、彼女はその手を取って微笑み返す。


「そうだな。彼方の鍛錬は如何様か楽しみだ」


 戦闘の反省点や指導の会話をしながらイムジャンヌ達が待つ岩山へと向かう二人だった。




「おお‼︎来たか‼︎二人共‼︎こちらも今日の鍛錬は予定通りだ‼︎早速、二人に手合わせしてもらおうじゃないか‼︎」


 坐禅を組み目を閉じていたイムジャンヌが二人の気配を察したように立ち上がり「宜しくね」と微笑んだ。刀を抜いた様子がない彼女に二人は顔を見合わせたが、精神修行系の鍛錬だったのだろうか?


「とはいえ、今の段階では二人には大きな差がある‼︎よって、本質魔法は使わずに戦って欲しいのだ?イムジャンヌもそれで良いな?」


「うん。アルドゼイレンが言うなら私、ちゃんと聞けるよ?」


「ハハハ‼︎そうかそうか‼︎それは師匠名利に尽きると言うヤツだ‼︎勝つ気で戦うのだ‼︎」


「勿論。負ける気はない」


 その様子を何だか微笑ましいものを見ているように感じてしまうエルフレッドが暖かな眼差しを送っているとリュシカは何かが引っかかっているような不思議な表情を浮かべている。


「......どうした?何か感じることでもあったのか?」


 心配げな表情で訊ねる彼を見てリュシカは「いや、何でもない。少し雰囲気が変わったように感じただけだ」と表情を改めて、イムジャンヌへと向き直る。


「今日は宜しく頼むぞ?」


「うん。こちらこそ」


 一度、握手を交わし距離を取る。互いの得物に手を掛けて開始の合図を待つ。


(......まさかな。流石に勘ぐりが過ぎるというものだ)


 曲刀を構えながら彼女は思う。確かにイムジャンヌの発言は捉えようによっては師弟のそれと考えても何ら不思議ではない。しかし、リュシカから見たイムジャンヌの表情はとても特別な物に見えたのだ。


「構え‼︎いざ尋常人‼︎勝負‼︎」


 何処から取り出したのか黒いを被ったアルドゼイレンが赤と白の旗を下げながら言った。リュシカは今まで考えていた事柄を忘れ、戦闘に没頭するのである。余りに荒唐無稽な考えが過ったことなど直ぐに忘れてしまったのである。だから、実はそれこそが真実だという事に彼女は気付くことは無かったのだ。


 全てを破壊する剛剣と一切無駄のない技術の柔剣ーー二つの剣技が交錯し、二人の戦いが始まったのだった。




「勝負あり!!まあ、初日ならこの位だろうな‼︎とはいえ、成長具合によってはイムジャンヌが追いつき、追い抜くことも全くもって不可能ではない‼︎だから、全く落ち込む事はないぞ!!」


 結果はリュシカの圧勝である。無論、手も足も出ない何てことは無かったが、上級魔法まで使える魔法力とバリエーションが増えて、余地強化された回転戦術はイムジャンヌの刀を弾き飛ばして降参を捥ぎ取るに至ったのだ。


「まあ、実際に戦った感想は見た目程の圧勝ではないのだがな?とはいえ、余裕が全く無かったわけではない。次回にはもっと良い勝負が出来ることを期待しているぞ?」


 イムジャンヌは一瞬悔しそうな表情をしたが頷いてーー。


「わかった。私の目標はまだまだ高い所にあるから。その内、リュシカも驚かせてみせるね」


 その言葉に満足そうな表情を浮かべたリュシカとアルドゼイレン。大きく頷いたリュシカは「ああ、宜しく頼む」と微笑むのだった。それからはエルフレッド、アルドゼイレンを加えた反省会をして、次回はいつかを話し合う。その間にそれぞれ個人練習を入れてより強くなろうという話になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「とはいえ、今の段階ではイムジャンヌとエルフレッドのには大きな差がある‼︎よって、本質魔法は使わずに戦って欲しいのだ?イムジャンヌもそれで良いな?」 リュシカを「エルフレッドの」呼びそんな…
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