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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(中)
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7

「そうしてくれると助かるぞ‼︎」


 と何時ものように大笑いしているアルドゼイレン。そこにテントの中で生姜湯を啜っていた二人が顔を出した。


「アルドゼイレン。来たよ」


「久しぶりだな。アルドゼイレン」


「おお‼︎イムジャンヌにエルフレッドの‼︎息災のようで何よりだ‼︎強くなりたいという気持ちは真に見事だぞ‼︎」


 アルドゼイレンと二人が話し始めたのを見てエルフレッドはテントを蔵う。そして、話しが一段落したところで本題を切り出した。


「早速、鍛錬をと言いたいところだが、どうも今回は重要な話が有るようだな‼︎」


 ニヤリと口角を上げて笑うアルドゼイレンへと頷いてエルフレッドは「常闇の巨龍ウロボロスについて何だがーー」と神託の内容について説明した。すると今までは楽しげな表情を貫いていたアルドゼイレンの表情が一変、真剣な物に変わった。


「なるほど。奴は最古の蛇であったか......中々の実力を持つ龍だとは思っていたが、そうなると話は変わって来るな......まあ良い。我の腹ごしらえもある故に一旦中に入ると良い。詳しくはそこで話そう。我の知る限りを話す」


「......解った。二人共、とりあえず中へ。鍛錬はその後になりそうだ」


 二人は顔を見合わせたが、それぞれ頷いた。「......最古の蛇?」と少し不思議そうであったものの、今から話を聞けるのだろうと言及することはなかった。




「さて、まずは最古の蛇についてだが......この中で何か知る者は居るか?」


 味噌汁を注ぎ、ご飯を粧いながらアルドゼイレンが訊ねる。「私も食べていい?」と体質の関係で直ぐにお腹の空くイムジャンヌに巨龍は微笑んで彼女の分も粧い始める。


「いや、解らん。言葉通りなら蛇の始祖だとは思うが......」


「私も解らんな」


 そんな二人の前の卓袱台に龍サイズの皿と人族サイズの皿が置かれた。「頂きます......美味しい」と喜ぶ彼女に「口にあって良かったぞ‼︎」とアルドゼイレンは笑ってーー。


「旧人類の話だから知らぬのも仕方あるまい。まだ、魔法が使えぬ人類が神に作られた時の話だ。一人で永遠を過ごす事を可哀想に感じた神は旧人類最初の男性の為に番を作ったのだが、その番を唆した存在が居てな。それで人類は産みの苦しみを得て、永遠の命を失った訳だが、その唆した存在というのが最古の蛇と呼ばれる存在よ。かの存在は神に最も近く、愛されていた。人が作られ、その寵愛が人に向けられたことに嫉妬を覚えたのだ。そして作戦を決行した。結果、人族を堕とす事に成功したものの自身もその罪を問われ、地の底に堕とされたが、まさか巨龍となっていたとは思いもしなかった」


「ふむ。考え方によっては人族最大の敵ということか......しかしながら、神に最も愛されていた存在から、そのような存在に堕ちるとは余程嫉妬に狂っていたのだろうな?」


 出された緑茶を飲みながらリュシカが呟いた。そのような存在が居ること自体が驚きだが、そうなった事柄もまた驚きといったところだろう。


「その存在に俺の知識の何かが引っかかっているが気がするが何だったか......まあいい。人を唆して地に堕ちた最古の蛇。巨龍としての実力はアルドゼイレンより上になるのだろうか?」


 どんな存在であったとしても倒すことに変わりはない。決意の瞳に冷静さを失わずに訊ねるエルフレッドを「流石だな。最古の蛇と聞いて恐れることないか」とアルドゼイレンは口角を上げるのだ。


「実際に相対した時の強さは我の方が強かったぞ?でなくては我とて最強の巨龍などと名乗りはしない。しかし、最古の蛇の怖さは強さだけではなく、その狡猾さよ。今までも神々が何かを達成せんとした時、その全てに横槍を入れて、掻き回し、害をなして来た存在だ。なれば、既にエルフレッドの周りの何かに影響を与えるような企みや策を実行している可能性が高い。警戒を怠らぬことだ」


「わかった。元々別件で警戒はしていたが巨龍そのものが策を練っているとあれば、より警戒するに越したことはなさそうだな」


 味噌汁を啜り、糠漬けを齧りながら「そうだな。そなたの番は勿論のこと友人達とて気にした方が良いかもしれん。動き出せば神にも見つけることが難しい存在よ。そして、害する為ならば手段を選ばぬ恐ろしき存在だ。我も友として出来るだけ協力しようではないか」とアルドゼイレンは真剣な表情で茶菓子を取り出してお茶を啜った。


「茶菓子も貰う......美味しい」


「ハハハ!!良かったが、お腹いっぱいになるまでは食べてはならんぞ!!」


「どうも、和やかな雰囲気が否めないが解った。とりあえず、鍛錬に入ろう」


 そう言いながらも茶菓子を取る彼に「まあ、初日だし、序での鍛錬だから良いのではないか?鍛錬メインの時ならば少し考えるが」とリュシカも茶菓子を取りながら微笑むのだった。




 鍛錬はまず二手に分かれて行う事となった。アルドゼイレンとイムジャンヌ、リュシカとエルフレッドの二組だ。その後、ある程度の時間を見て合流ーー手合わせをして終了という流れである。


「それではまた後で会おう」


「うん。宜しく。リュシカ」


 二人は軽く握手をして微笑みあうとお互いの指導者の元へ歩いていく。


「ではリュシカ。久々の組み手といこう。まあ、何度か魔物退治に付き合っているから全く解らないという訳ではないが出せる限り本気の動きを見せて貰いたい」


「勿論だ。実力だけならばSランクにも届くと私は自負している。簡単に負けることはないと思え」


「ああ、期待している」


 大剣を抜いて構えた彼は面白いと言わんばかりに口角を上げた。それに答えるようにリュシカもまた曲刀を抜くと口角を上げる。


「行くぞ!!」


「来い!!」


 突撃を敢行する黒と迎え撃つ緑ーー組手と呼ぶには真剣過ぎる戦いが今、幕を開けた。




「ハハハ!!ドンパチしているなあ!!そして、本質魔法と名付いたそれも互いに使いこなしている!!これは見物だ!!」


 魔力と魔力のぶつかり合いの余波が自身達へと届く中でアルドゼイレンが笑う。イムジャンヌはその様を少し羨ましく思いながら巨龍へと話しかける。


「ねぇ、アルドゼイレン。私、魔法が苦手なんだ。それでも強くなれるかな?」


「うむ。全く問題無い。ソナタの成長はイムナレスと同じと我は考えている。究極的な身体強化と剣術、そして、防御魔法。魔法は僅か二つだ。それでも、あの女傑は我と互角に渡り合った。イムジャンヌならば、それを越えれよう」


「越えれるってことはアルドゼイレンも倒せるってこと?」


 不思議そうに首を傾げるイムジャンヌにアルドゼイレンはニヤリと笑いーー。


「言葉が足りなかったな?()()の我だ!!それから何百年も鍛錬している!!そう簡単にはやられんぞ!!」


 グワハッハッハ!!と何時もの高笑いを見せる巨龍にイムジャンヌは「ムムム......」と唸り声を上げてーー。


「なんか悔しい。ギャフンと言わせたい」


「おお、そうか!!ならば、エルフレッドとイムジャンヌ!!何方が先に我を倒すか競争だな!!」


 彼女は一瞬、非常に微妙な表情を浮かべた。エルフレッドと競争ということは倒すというのは巨龍の命を奪うということだ。


「......競争だね。私が倒しても恨まないでよ?」


 ニコリと笑って胸の内を隠した彼女に「やってみよ!!目標は世界一の山よりも高いぞ!!」と楽しげに笑うアルドゼイレンであった。

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