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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(中)
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 カーレスとアーデルティアの婚約式の前日ーー。入国審査を済ませたエルフレッド、リュシカ、イムジャンヌはエルフレッドの使う転移魔法でアルドゼイレンの元へと向かう。主な用事は別にあるがついでに二人の稽古をつける協力をしてもらおうと考えたのだ。


 稽古がイムジャンヌ単体の場合、アルドゼイレンに送ってもらうことが前提になるので行く日を事前に約束していなければならない。彼女と巨龍の間で少し後の日付の約束はあるそうだが丁度用があるエルフレッドが序でに転移で送り迎えをすれば、少々急な来訪であっても対応してくれるだろうという判断だ。


「まあ、運が悪く居なかったとして会えるまでは訪れなくてはならない。常闇の巨龍についての情報を訊ねる必要が出てきたからな。その内のどれかで会えれば儲けものだろう」


 そして、主な用事というのは討伐予定の常闇の巨龍ウロボロスの情報収集であった。


 常闇の巨龍ウロボロスは最古の蛇で邪悪なる存在です。戦う前に万全を期しなさいーー。


 前回、エルフレッドがイムジャンヌの密入国回避の為に王宮を訪れた際に次期神託の聖女であるクラリスより告げられた言葉だ。元々情報が少なかったこともあり手を拱いていた彼は「闇の巨龍も中々」と言っていたアルドゼイレンならば何かを知っているのではないかと考えたのだ。


「私だけで行ける方法があれば良かったのだけど。ありがとう」


「いや、元々鍛錬には協力する予定だった。リュシカには了承を得ているから何も心配ないぞ?」


 未だに理由は聞いてないが決意を以て強くなりたいと告げたイムジャンヌの考えは非常に好ましく協力を惜しまないつもりだった。それがまさか自身とアルドゼイレンの戦闘を止める為だとは彼が知る由もないからだ。


「そうだ。それに私がSランクになる為にもイムジャンヌの存在は有り難いぞ?やはり、多くの戦闘経験を積むにはより多くの戦闘を経験する必要がある。双方の訓練を受けて強くなったそなたと戦闘を重ねれば、より可能性は高まるというものだ」


 アルドゼイレンに会う前に腹拵えをしようとお忍びスタイルで街を歩く三人。大した変装をしている訳でもないのでバレバレだが「今日はプライベートだな」と周りの人々も察しているようであった。時折鳴るシャッター音はご愛嬌である。


「私も助かる。でも、二人の邪魔をしてるみたいで少し悪い気がする」


 その言葉を聞いて二人は顔を見合わせたが微笑んでーー。


「それは全く気にする必要がないぞ?今回の鍛錬は私にとっても別にデートという訳ではない。もし、イムジャンヌがさっきのエルフレッドの言葉を気にしているのならば、あれはエルフレッドが律儀過ぎるだけだ。無論、二人で会う時は事前に言って欲しいがな。それにちゃんと二人の時間は別に取っているぞ?最近はディナーが多いな」


「そうなんだ。なら良かった」


 あくまでも目標達成の為に会っていて、そこにイムジャンヌという協力者がいた方がより効率が良い。そう考えれば確かに邪魔をしていると思う方が可笑しな話なのだろう。


「それにまあ......その、イムジャンヌには想い人がいるのであろう?ならば、余計に心配要らないからな。目移りするタイプとも思えないからな」


 そう言いながらチラリと視線をくれて来るリュシカにイムジャンヌは少し微笑みながらーー。


「うん。そうだね。目移りはしないかな。ーーもしかして、気になってる?」


 彼女が首を傾げながら訊ねるとリュシカは「当然、気になるな」と頬を掻いた。


「元々恋愛の話が好きというのもあるが、周りに気軽に恋愛話が出来る存在が居ないというのもあってな。メルトニアさんは忙しいし、アーニャは......まあ、話を聞く限りでは恋愛結婚という訳でも無さそうだからな。相談に乗る序でにあわよくばと考えているのは間違いないな」


「そうだね。うん。でも、もう少し待って。本当は結果が出るまで話さないつもりだったけど、もしかしたら二人には協力してもらうかも知れないから。決心が着いたら言うようにする。でも、みんなには内緒にして?」


「本当か⁉︎勿論、軽々しく言えるような内容ではないから秘密にして欲しいという約束は守るさ!ーーしかし、協力して欲しいか。ということは、もしや、私たちが知る人物のなのか?」


 不思議そうな表情を浮かべるリュシカに彼女は頷いた。


「うん。知ってる相手。でも、浮気とかそういうのじゃ全く無いから、そこは安心して。後、あんまり詮索もしないで欲しい」


「......解った。もし問題がありそうな相手ならば少し考えた方が良さそうだと思ったが、ここはイムジャンヌを信じるとしよう。それにしても、秘密の恋バナなんて少し憧れていたらから嬉しいぞ!」


 キラキラとした瞳を向けて嬉し気に表情を緩める彼女に「本当にリュシカって恋愛話好きだよね」とイムジャンヌは苦笑するしかなかった。お洒落なカフェに入り、コーヒーと軽食を楽しんだ三人は早速アルドゼイレンの元へと向かう。岩肌の上の洞穴。何らかの魔法陣で空間を広げた敷地内から仄かに味噌の香りが漂っている。


「突然の来訪済まない!アルドゼイレンは居るか‼︎」


 昼御飯の香りがするので中に居るのかと思えば、どうやら外出中らしい。二、三度声を掛けて少し首を傾げたエルフレッドは「居ないようだ。出直すか?少し待つか?」と二人に訊ねる。


「まあ、少しだけ待ってみよう。食事の途中に外出したということは、大した用ではないのかも知れん」


「そうだね。少し待ってみよ」


 居ないと聞いて残念そうな表情をしていたイムジャンヌだったが二人に気付かれないように表情を改めると待つ事に同意を示した。


「わかった。ならば風の膜を展開しよう」


 聖国は北方に位置するため既に気温が低くなっている。そして、洞穴の前は標高が有り、更に気温が下がる。体調管理の為に寒冷対策はしているものの秋の冷たい風に吹かれないように対策するのは必須だろう。


「助かる。ありがとう」


「いや、まあ、俺もなるべく早く情報を仕入れたいと思っているからな。気にするな」


 そう言って空間の中からワンタッチ式のテントを取り出したエルフレッドはそれを組み立てて二人を中に招く。体を温める生姜湯を作り、三人で啜っているとテントの頭上が突然暗くなった。


「おお‼︎我が友よ‼︎我が家の前に来ていたか‼︎」


 そんないつもの声が聞こえて「帰って来たようだな」と呟いた彼は外に出ると巨龍の友人を出迎える。


「ああ、少し聞きたいことが出来てな。それに訓練をつけて欲しいということもあって、リュシカとイムジャンヌも連れて来ている」


「そうかそうか‼︎いや、エルフレッドの魔力の気配がして首都の方に顔を出そうとしていたのだ‼︎まさか元々我に用があったとはな‼︎早とちりだったぞ‼︎」


「なるほどな。待ってて良かった。入れ違いになるところだったぞ?」


 確かにエルフレッドがアルドゼイレンに用があったとして直接訊ねるのは初めてかもしれない。そう考えると、この友達大好きな巨龍が彼に会いに来ようとするのも頷ける話しだ。


「ハハハ‼︎まあ、そうなったなら仕方ない‼︎とはいえ、今後も来ることがあるならば、こうして待ってもらうか先に日付を聞くかだな‼︎あれから人里でカレンダーとやらを買ったのだ‼︎これで人族の予定はバッチリというものだ‼︎」


「フッ、早速勉強したという訳か。解った、今後はそうするとしよう」

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