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ケタケタと楽しげに笑う彼女を見ながら「うむ。何となく状況は理解はしたが......まあ、辛い時は言うんだぞ?」とエルフレッドは苦笑した。
「そうだぞ、ノノ。ノノは色々と思うことがあるだろうが女性陣もノノのことは友人として大事にしている。残念ながら想いには応えてやれんが偏見は無いし応援もしているぞ?」
「いっや〜ん♪リューちゃん男前〜♪抱いて〜♪」
「......想いには応えられんと言ってるだろう?」
手を広げながらV系バンドのライブの様に咲いている彼女を前にリュシカは苦笑しながらツッコミを入れた。
「まっ、リューちゃん×エルちんはもう空気が恋人を越えてるからさ♪逆に友達になれそうな気はしているよ?隙がないからね♪だから、余計に要らない事言うのを我慢出来なくなっちゃうんだけどね♪そういう感じ♪あ、廃人モード解いてくれてありがとう♪流石にあのままクラスに入ったら白い壁の病院直行コースだったから助かった〜♪あ、時間ちょいヤバだから急ごうぜい!お二人さん〜♪」
このまま有耶無耶にしても良いのか悩む所は多々あったが始業式早々に遅刻する訳にもいかない。念を押すように「大変な時は必ず相談しろ?絶対だぞ?」と告げて、小走りで教室に向かう。
「あんがと〜♪じゃあ、真剣に相手が居なくて困ってるから女の子紹介してよ〜♪」
「......それは俺には無理だ。俺が知っている女の子好きの女の子はお前しかいない。あとな、リュシカの表情が何だかマズイことになってるから俺が女の子を紹介出来るような勘違いをさせる発言は止めろ」
ジト〜とした目で彼を見ながら「エルフレッド?」とリュシカは疑うような表情を浮かべていた。
「ハッハ〜ごめんね〜♪まあ、エルちんは一途of一途だから何も心配ナッシングだろうけどモッテモテじゃん?ついついお零れに肖りたくなっちゃうんだよね〜♪」
フォローなのか煽りなのか判断に困る言葉を吐きながらノノワールは二人の横を並走する。
「モテモテなのか?エルフレッド?」
「ノノワールはよくそう言うが俺はそんな雰囲気を感じた事もない。悪い言い方をすれば眼中にもないから気にするな」
そして、併走するリュシカの手を取って彼は微笑んだ。
「それに婚約式の話は広まっているだろう?今日もこうして手でも繋いで教室に向かえば誰もアピールしようとは思わなくなるさ」
「......そうか。いや、まあ、それなら......」
「キィー‼︎イチャラブ甘々空間築きやがって‼︎羨ましいことこの上ない‼︎妬ましい‼︎妬ましい‼︎」
「いや、元を辿ればお前のせいだからな?」
キーキーと煩わしい程に騒ぎ立てるノノワールを尻目にエルフレッドは本日、既に何度目なのかも解らない苦笑を浮かべて、そう返す他なかった。
○●○●
「んじゃ、今日のHRで闘技大会の代表決めようか。というのも、前回の世界大会での優勝メンバーであり、最大戦力の一人だったリュシカ嬢が体調の懸念と冒険者のSランク挑戦を理由に辞退することが決まったから、一枠空いたんだ。まあ、残りの四人に挑戦してみたい人間がいるんだったら五枠全て空いていることになるけど......まあ、居ないね」
うお〜‼︎と盛り上がっている生徒達は皆口々に「残り一枠を賭けてサバイバルだ〜‼︎」とジン先生の後半の言葉など全て無視した様相で盛り上がっている。
「え〜、なんかつまんなぁ〜い!妾達を倒してやるぅ‼︎くらいの気概が無いと世界大会とか戦えなくなぁ〜い?」
「まあ、言いたいことは解らんでもないけどミャ。流石にエルフレッドの指導を受けた妾達と戦うのはチャレンジャーと言うより自殺願望者みたいなもんニャ。ここは賢明な判断って考えた方が理に叶っているミャ」
頭の上で腕を組んで心底つまらなそうにしているルーミャを嗜めるようにアーニャが言った。別にSクラスのクラスメートの実力を馬鹿にしている訳ではないが、冷静に考えれば実力差が圧倒的な事は言うまでもない。単純に才能で差があり、その上で世界最強の英雄であるエルフレッドの指導を受けている。実際に世界大会ではカーレス、レーベンの力があったとはいえアードヤード王立学園史上初の世界大会優勝を成し遂げたメンバーが二人。そして、僅差でサポート役に回った実力者が二人である。いや、ルーミャなどは神化の暴走が無ければメンバー入りを確実視されていた。
そんなメンバーが揃っている中で勝ってみせる‼︎と手を上げる人物の方が余程おかしいと言えよう。
「そんなもんかなぁ......妾はちょっと寂しいなぁ......」
「とか言ってるけどニャ。どうせお母様の修行の成果を試したいだけだろうミャ‼︎後でエルフレッドにでも頼んでしこたま戦って貰えば良いミャ!」
呆れた様子で肩を竦めたアーニャに「アハッ♪バレちゃったぁ♪だってぇ、みんなが楽しんでいる間、妾ずっと修行だったんだから、フラストレーション溜まりまくりなんだもん!座禅に、滝行に、火渡り、山籠り、お母様やお父様と組手ーーもう夏休みなんて二度と来なくていいって思ったぁ」と修行の事を思い出したのか、悟りを開いた様な表情で天を仰いだルーミャだった。
「ルーミャ、良かったら私と戦う?私もトレーニングばかりしてた」
「うん?イムちゃん、弾丸ツアー参加してないのぉ?」
「ううん。参加した。でも最新鋭のトレーニングマシーンにはまって、ずっと鍛えてた。アルドゼイレンにも稽古つけてもらってる」
「マジ?私とかみんな遊んでるんだろうなぁって悶々として何度か修行で駄目出し喰らってたのに、目の前に遊べる環境が有って遊ばないとか、イムちゃん戦闘民族過ぎない?」
「そうかな。でも、アルドゼイレンが色々コーディネートとかしてくれたから全く楽しまなかった訳じゃないよ?」
「コーディネート?えっ?イムちゃんを?超見てみたい!写メは!」
「あるけど今授業中」
「うがぁ〜‼︎気になるぅ〜‼︎ってことは、その髪飾りってもしやーー」
「アルドゼイレンからのプレゼント」
「うわぁ〜‼︎何それぇ‼︎めっちゃ楽しいことしてるじゃん‼︎う・ら・や・ま・し・過ぎる〜‼︎」
「あ〜イムジャンヌ嬢の言う通り、一応授業だからね」
再度、うがぁ〜‼︎と羨ましさに悶えるルーミャにジン先生からの有難い忠告が入った。ルーミャが「あ、すいません‼︎オホホホホ」と取り繕った様子で微笑んだ姿を見ながら、アーニャは「......我が双子ながら憐れミャ」と机に肩肘をついて溜め息を吐くのだった。
「それじゃあ最後の一人を決める為に実力を見極めないとね。ジン先生、魔法訓練室の予約は大丈夫でしょうか?」
「ああ、アルベルト君。問題ないよ。君が早い段階で連絡くれたから結構余裕で押さえられたかな。まあ、サバイバルというよりは乱戦してもらって前回の世界大会に関わったメンバーと自分で選別するって形を取る予定」
「解りました。ということで二年Sクラスのみんなは魔法訓練室Cに着替えてから集合で!選別の結果は明日の朝発表!今日は終わったら、魔法訓練室でそのままSHRして解散する予定だから忘れ物はしないように......で良かったですかね?」
「うん。素晴らしい。流石、学級委員長だね。残りの半年もこんな感じで頼むよ」
「......流石に先生が伝えるべきは先生が伝えてくださいね」
呆れ顔で溜め息を吐くアルベルトに「ははは、流石にそれは解ってるって」とジン先生は緩やかに微笑むのだった。




