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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(上)
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 そんな言葉を漏らすアルベルトとメルトニアに「あれでやり手だから、余計にタチが悪いんですよ?猫を被るのが上手い。外面が良い。息子としては本当に面倒な母親だ」溜息を飲み込むように紅茶を飲んだ彼に皆は苦笑を漏らすのだった。


「でも逆にさ、仏か!ってくらい怒らないエルフレッドの感情をあれだけ動かせるってのは流石って感じ?まあ、最近は私とかアーにゃんが要らない事しすぎて普通に怒るようになっちゃったけどさ♪」


「......要らない事と解ってるなら辞めて欲しいが。母親のは息子が何をされると嫌がると解っててやってるから余計にイライラするんだ。いつも言ってる事だが我が父は素晴らしい人物だが女性を見る目はなかったのだろうな」


「そうかな?エルフレッドって並大抵の注意じゃ話も聞かない。それに信念を曲げないせいで家族には心労ばかり掛ける。ああ言う言い方になるのはエルフレッドにも責任があると私は思う」


「.....言い返せん上にイムジャンヌから言われると本気で凹む」


 額を押さえて実際に少し凹んでいる彼を見て「イムイム辛辣〜♪でも、それが良い♪」とノノワールが笑った。昨日、存在を消されかけた奴がよく言うわ、である。


 そんな彼女をジト目で睨みつけ「存在を記憶から抹消されてしまえ」と呟いた彼に「あ、私、急に廃人モード来たわ。バイビ〜♪」とノノワールは逃げるように去っていった。


「さてさて、僕達もそろそろ行こうか?今日中にある程度の考察を進めないと夏休み中の完成が厳しくなっちゃいそうだし。色々、ありがとう。エルフレッド君!また学園で!」


「そだね〜。また誘って〜。ああ、未知の魔法理論と考えただけで......気持ちが......はぁはぁ」


 肩を抱くアルベルトの横、若干トリップし始めているメルトニアに冷や汗を流しながらエルフレッドは「くれぐれも体には気をつけろよ?」と血走った目で充実していると笑った友人の姿を思い浮かべて手を振った。


 パタンッと閉まった扉を眺めていたエルフレッドとイムジャンヌーー彼女は扉をジーと見つめたままーー。


「私も人の事言えないけどみんな結構癖が強いよね」


「......言うな。そして、人の事を言えないのは重々承知の上で言えば、俺とイムジャンヌ、そして、リュシカは比較的にまともな方だと思っている」


 巨龍討伐に人生を賭ける戦闘狂の英雄と重度のシスコンで時に寝食忘れて剣を振り続ける剣聖の末裔ーーそれが比較的まともな自分達とは一体......と今更ながらに自身の友人関係や自分自身の在り方を考えらされるエルフレッドとイムジャンヌであった。













○●○●













 黒紫の蛇は興味深い人物を見つけた。人の感性は解らないが美的造形で考えても非常に醜い存在である。その非常に醜い存在が、美的感覚では比較的綺麗に思える同種族の雌に謎の理論で固まった正義の鉄槌を振り下ろそうとしているのだ。


 何が興味深いのかと言えば、その醜い存在はあくまでも自分の構想が正義であると信じて止まないというところにある。比較的綺麗な存在の分母が減れば、醜い存在が普通になり生活しやすくなる。だから、人より綺麗な存在は壊すべきだ。そして、命を取るのは悪い事だから、次が()()()()()()()()()()。何て自分は慈悲深く素晴らしい事をしているのだろうと本気で思っているのである。


 あまりに理解不能且つ破綻し過ぎて正当である部分を見つける方が難しいような動機に、謎の確信と信念を持って行動を起こしているという部分が非常に興味深いのである。蛇はそのまま傍観に徹しようかと考えたが、もしくはこの存在こそが創世神の切望する悲願の達成を破壊する存在かもしれないと思い、闇魔法にて思考に入り込み、その行動に待ったを掛けた。


『そう早まるな。人間』


 怯える雌の前で男は突然自身の頭の中に響いた声にその動きを止めた。


「あ、あ、頭、おでの頭から、なんで声が、聞こえる?」


『それは今、俺がお前の中にいるからだ。お前の正義に興味を持った人ならざる者。それが俺だ』


 男は学の無い頭で何が起きているのか必死に考えているようだった。当然、答えに辿り着く訳がなかったが黒紫の蛇にとっては非常に心地良い答えを導き出した。


「お前、正義に答える。お前、神か?」


『フハハハハ!神か!それは良いな!確かに俺は神に近しい存在だ!お前達からすれば神のような者だろう』


 怯えていた雌は男の動きが止まったことでチャンスだと思ったのだろう。少しづつ後退を始めた。しかし、腰が抜けてしまっているのか、その速度は亀にも劣る。


「神、神が、お、おでに何のようだ?」


『何の用も......俺はお前の正義に協力しようと思ってな?綺麗な物を破壊することで醜い物を救おうとする。素晴らしいではないか?弱者を救う行為という訳だ』


 無論、蛇はそんなこと一切思いもしなかった。男のやっていることは単なる自己満足で誰の救いになるわけでもない。また、満たされなくなれば、この醜い存在はまた同じことをし始める。自己満足な上に自身さえも救わない全くもって無駄な行動なのだ。


「協力?か、神が、お、おでに何をする?」


『直接何かをするという訳ではない。ただ、知恵を授けるだけだ』


 その全く無駄な行為を肯定し、承認欲求を満たし、知恵という力を与えて、この存在がより凄惨な存在と変われば神とて放っておくことは出来なくなるだろう。蛇は古来よりこの手法で人々を惑わし、創世神の悲願の達成を阻止しようとしてきた。元々が平等の名の下の神である為、邪魔をせずとも勝手に不達成に終わってきたものの、今回はそうもいきそうに無い。


 そして、この存在はどうやら、神の悲願に関わる存在にも影響を与えることが出来るようだと記憶を探る事で理解した。


「知恵?お、おで、頭良くなる?」


『まあ、そうかもしれないな。お前は綺麗な存在が減れば良いと考えているが、それでは時間が掛かると思わないか?』


 蛇は嗤った。ああ、何度も何度も矮小な存在を狂わせてきたが、この狡猾に狂わしていく時間というのは何と甘美なものなのだろうかーーそもそもが、蛇は全ての人が嫌いで熟壊したい、騙したいと願っている。それが達成される瞬間というのは何度経験しても変わることのない快感を与えてくれるのだ。


「で、でも、減らさないと、増える」


『そうだな。だが、別に増えた存在がお前と一緒ならば問題ないだろう?人はどうやって増えるのか?お前は知らないようだな?』


 雌が逃げる。薄汚い路地裏から光差す表の通りへとーー希望の光は後もう少しの所まで訪れていた。


『これがその知恵だ。お前の正義はより加速される。お前に神の助力があらん事をーー』


「あ、ああ、あ、頭、何か、あああ、おでのああああ」


 瞬間、醜い存在は雌を追いかけ始めた荒々しい手付きで口を塞ぎ、もう少しの所にあった光から絶望しかない路地裏へと引きずり込んで行くのである。その新たな知恵を使った所業に蛇は満足げな表情を浮かべ、絶望の声を聞きながら何度何度も嗤う、嗤う、嗤うーー。




 ああ、神よ。このような醜く矮小な存在を作り出す必要がどこにあったというのだろうか?私は問おう。


 ああ、神よ。僅かな時を自身の為に過ごし、同じ種族さえ愛せぬ存在を何故作ろうと考えたのか?私は問おう。


 ああ、神よ。賢き神よ。全知全能の神よ。何故、何故、ナゼーー。













 ーー。

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