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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(上)
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 弾丸ツアーの最後はバーンシュルツ家の別宅でのお泊まりと展望ホールでの談話会だ。夜にお菓子を摘みながら大人数で話すというのは普段あまりない体験になるだろう。基本的に社交界での凌ぎ合いを終えた貴族は少ない家族の時間をとすることの多い時間なのだ。


 平民の間ならば未だしもアーニャなどの王族には食事会以外での集まりというのは物珍しく、彼女がどうしても経験したいからと要望を出してのことだった。次の日の解散は人によって時間が違う。最も早いアーニャは朝の食事が終わった頃にはアイゼンシュタットの王宮に帰還してレーベンやクリスタニアとのお茶会、婚約式の打合せをこなす予定だ。


 一番遅いのは反対にリュシカで夜の食事までは少なくとも一緒であり、場合によってはそのまま本日まで泊りということもあり得る。しかし、ランチが終わった頃にレイナと一緒に街に出かける予定があるので皆と遊ぶのはランチまでという流れだ。


「レイナ様は非常にファッションや社交界の動きなどを理解されていらっしゃる。私はまだまだ勉強不足故に遊びがてら色々と教えて貰おうと思っているのだ」


 有り余る才能故に多くのことを許されてきた彼女は逆に言えば、今後、辺境伯夫人として参列する事が多くなるであろう社交界に関しての動き、というものは、それだけに時間を掛けてきた人々に比べて経験不足であるに違いはない。その辺りのフォローは無論、レイナやメイリアなど既に顔として知られるような人物が行なっていくだろうが、だからと言って本人が全くの力不足という状況で許される立場ではないのだ。


 その社交界の顔の中でも特に下級貴族から上級貴族まで上り詰めていく過程の中で様々な経験値を持つレイナの経験は彼女にとって代え難いものになるだろう。


「ふふふ♪漸く可愛い義娘とのデート♪本当に楽しみで仕方ないわ♪」


 ......まあ、エルフレッドから見れば将来の義娘とただ買い物とかに行きたいだけの面倒な義母に見えるのだが、リュシカ本人も嫌がっていない上にそうやって二人で行動する中での話題が即ち勉強になるような場所と思えば勉強といっても差支えはないハズではあった。


「んじゃ、妾はそろそろ帰るミャ‼ーー急な話にも関わらず、良い返事をくださったバーンシュルツの方々に感謝してはおりますミャ。今後とも末長くよろしくお願い致しますニャア」


 仲間達の前とは異なり時期王太子妃の帰還ということで挨拶に現れた当主エヴァンスとレイナにアーニャは非常に嫋やかな笑顔を浮かべて小さく会釈をした。


「いえ、我々としては時期王太子妃であられるアーニャ=アマテラス=イングリッド殿下を当家に招く事が出来たことは非常に名誉なことで御座います。王族の方々を招くには少々足りぬ所の多い家では御座いますが、ご来訪の際は考えうる最高のおもてなしにて対応させて頂きたい所存で御座います。今後ともよろしくお願い致します」


「縁談の件では非常にご迷惑をおかけしたにも関わらず、こうして格別の配慮を頂いたこと、バーンシュルツ家の夫人として感謝の念が絶えません。そして、不思議な縁を感じている所存ですわ。アードヤードに永住ともなれば慣れないことも多いはずです。もし。御来訪の際は気の置ける友人の家に訪れるくらいの気持ちで寛いでいただければ幸いですわ」


「伯爵、夫人、妾こそ格別の配慮を感謝致しますニャア。それでは帰りの馬車を待たせておりますので失礼いたしますミャ」


 そして、馬車に乗り込んで行く彼女を皆で見送り、邸宅内のホールに集まったエルフレッド達はそれぞれの予定を確認して行動を開始した。リュシカのお出掛けの件もあり、残りの皆も基本的にはランチ後の解散となりそうだ。アルベルト、メルトニアに着いてはアルドゼイレンから聞いた情報を元に早速、本質魔法や属性性質魔法の研究を進めたいと考えているようで帰宅後はアルベルトのアードヤードでの生活が始まるまで休む間もなくなりそうである。


 アルドゼイレンは早速イムジャンヌとの約束を果たすために訓練やイムジャンヌ改造計画を進めるそうだ。ノノワールは夏休みの半分以上を仕事に費やした結果、後半は全く仕事を入れていないようで帰ったら廃人のように過ごして英気を養うと言っている。


 普段、煩いくらいの彼女が廃人の様に過ごす様は全く想像出来ないが、彼女曰くーー。


「たまにメイカちゃんに見に来てもらわないとヨレヨレのスウェットでベットと風呂を行き来するだけの生活になっちゃうんだよね〜♪燃え尽き症候群的な?まあ、これしないと次のクールに仕事とか行きたくなくなっちゃうから事務所の人達も普通に許してくれてるんだ〜」


 ーーとのこと。何処と無く香る有名人の闇のような部分の話にエルフレッドはなんて相槌を打てばいいのか全く分からなかった。


 昼食は今までのようなパーティー形式ではなく、テーブル席での極一般的なコース料理となった。話のペースも終始穏やかで食後のフルーツと紅茶を楽しむ頃には皆もすっかり帰宅モードである。因みにアルドゼイレンは庭園のテラス近くでゆっくりと昼寝をしている。イムジャンヌが起こしに来た頃に起きると言っていた。


「リュシカちゃん♪そろそろ行きましょうか?私、行きたいところが沢山あるのですわ♪」


「はい!レイナ様とご一緒ならば何方でも楽しく過ごせるように感じておりますから、私も楽しみにしておりましたわ」


「まあ!なんて嬉しい言葉を言ってくれるのでしょう!......そこで仏頂面を浮かべている憎たらしい息子とは大違いですわ」


 自分が遊びたいだけだろ?全くやれやれだとでも言いたげな表情のエルフレッドに嫌味を言うレイナ。エルフレッドは近くにあったブドウを毟って皮を剥きながら、そんな母の言葉を無視する。


「......まあいいですわ!行く前から嫌な気持ちになっても仕方ありませんから。それでは皆様、各々楽しんで行って下さいね?リュシカちゃん、こっちに」


「はい!レイナ様!ーー皆、それではな。エルフレッド以外は学園での再会になるだろう。その時を楽しみにしているぞ。エルフレッドはまた後で」


「ああ。くれぐれも気を付けて。護衛はいるが細心の注意を払うのだぞ?」


「解っているさ。エルフレッドは心配性だなぁ」


 苦笑しながらレイナの横に並んだ彼女の横で「は〜ヤダヤダ。家の息子は将来の嫁の事ばっかりで母親のことなんて見向きもしないんだから......冷たいわ〜」と嘘泣きするフリをしてリュシカへとしなだれ掛かる。


「あ〜はいはい。心配しているぞ。それよりもやる事がいっぱいあるのだろう?それに母上。最初の店の予約は中々タイトなスケジュールだったのではなかったのか?もうそろそろ急ぐ時間になりそうだぞ?」


 葡萄を口に放りながらしら〜とした表情で告げるエルフレッドに嘘泣きをしていたレイナはケロッとした表情で時計を見てーー。


「まあ、もうこんな時間!息子を弄っている場合ではなかったわ!ゴメンね、リュシカちゃん!ちょっと急ぎましょう」


「ふふふ、わかりました。レイナ様ーー」


 エルフレッドに向けられるリュシカからの微笑まし気な表情は解せなかったが、とりあえず仏頂面のまま手を振って二人を見送る彼であった。


「なんか、エルフレッド君の母君って想像していた感じと違ったかな?もっとこうやり手感溢れてる人だと思ってた」


「だね〜。なんたって社交界を牛耳るバーンシュルツの美妃でしょ〜?貴族になったばかりの私でも知ってるくらいの人だからね〜」

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