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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(上)
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 頂点に相応しい貫禄と覇気が皆の周りを突き抜けた。なるほど、これならば確かに巨龍なのだろうと皆が思うに相応しいものだった。


「エルフレッドより話は聞いている。かの者の祝いに参加したいということ繰り返しになるが無論歓迎しよう。ただ、かの者の言う通り今はまだ日付も確定していない故に一週間後のこの時間に再度来訪頂く運びになるが問題ないだろうか?」


 アルドゼイレンは尻尾を軽く上下させると頷いた。


「理解した。今日より七回夜を数えた日のこの時間にまた来ることにしよう」


「よろしく頼む。後は基本的に自由にして貰ってもよいがーー「アルドゼイレン殿。私からのお願いを聞いて頂いても宜しいかしら?」


 待ってましたと言わんばかりに一歩前へと出たクリスタニアに少し眉を寄せつつリュードベックは話の主導権を譲った。


「美しきマダム。我で良ければお話を聞きましょう?して、願いとは?」


 突然、紳士然とした様相を醸し始めたアルドゼイレンに王妃は少女のように瞳を輝かせてーー。


「私は"高い"が好きなの!それは実力も地位も何もかも!ですから、是非、その翼で空の高い所まで連れて行って欲しいわ!」


「ほう!それは真に良い趣味をされている!!我も高い所は事象、物関係なく大好きだ!!ハハハ!!では同士、マダム・クリスタニア!終りの無い空の旅へご案内しよう!」


 大喜びで意気投合している一人と巨龍に唖然としていたリュードベックは言葉の意味を理解するや慌てふためいた。


「な、何を言っておるのだ!?クリスタニア!?巨龍の背に乗って空を飛ぶなど、そんな危ない真似をさせられるものか!!落ちたらどうするのだ!!エルフレッド、そなたからも何とか言ってくれないか!?」


 縋るような視線の国王陛下から申し訳なく思いつつ視線を逸した彼はしれーとした口調で告げた。


「実は私とリュシカは既に二度程......魔法で上手く固定されますので落ちる心配はなく、快適な空の旅が楽しめるかと」


「エルフレッドォオオーー!!」


 そなたは味方だと思っていたのに!!と言わんばかりのリュードベックの嘆きに「申し訳ありません」と彼は顔を背けるのだった。


「それでは陛下!行ってきます♪」


「行ってきますでは無い!!クリスタニア、考え直すのだ!!万が一、万が一があったらーー」


「よし!!準備は万端だな!!一名様、愉快な空の旅へと御招待ーー」


 時に王の演説などに使われる城下を一望出来るルーフバルコニーから花火の如くの勢いでアルドゼイレンは飛び上がった。魔法で呼吸等の制御はなされているのだろうが高く高くーー何処までも高く、あの大きな巨龍が既に米粒の様な高さまで到達している。


「これはこれは......派手に飛んでいかれましたね......」


 流石のエルフレッドも予想外の勢いで飛んでいった巨龍と王妃に思わず呟いた。


「派手になどという問題ではない!?ほ、本当に大丈夫であろうな!?もうひとたまりもないなんて言葉では済まされぬ高さぞ!?」


 気が気でないリュードベックに対して彼は「乗っている方は落ちる心配をするのが馬鹿らしくなってしまう程、快適ですよ?一度乗ってみては如何でしょうか?」と苦笑ながらに勧めてみるのだった。



 リュードベックにしては長い時間だったろうが、三十分程の時間でアルドゼイレンが帰ってきた。背中のクリスタニアは勿論、無事で愉快な空の旅を満喫したようだった。


「この星は青かったわ!!」


 とこの時間で何処まで飛んでいったのかと聞きたくなるような感想を漏らす彼女にリュードベックは幾分か窶れた様子で安堵の息を漏らした。


「さて、我は何か食事をしてから帰ろうと思うがお薦めの料理はあるか?」


 お薦めの料理も何もそもそもがその巨大な体を収納出来る店は殆ど存在しないだろう。いいから帰って生肉でも喰ってろと内心呆れ返るエルフレッドの考えとは裏腹に「では、空の旅の御礼に、こちらのルーフバルコニーに食事を用意させましょう!!私の家族も紹介したいわ!!」とノリノリ王妃殿下であった。


「私は少し気疲れした故に少し休んでから参加しよう。アルドゼイレン殿。楽しんで行かれると良い。ーー元はエルフレッドの客人でもある。そなたも共に食事を楽しむが良かろう。娘も喜ぶだろう......」


 余程、心臓に悪かったのか疲れ果てたリュードベックはそう言って後ろ手に手を振りながら城の中へと入っていった。


「ハハハ!まさか話を聞きに来ただけで食事のもてなしまでうけるとは!!アードヤード王国とは良き国だ!!」


「王妃殿下の手前、遠慮して帰れとは言えんが何ともいえん気分にさせられる話だな」


 半分は自分のせいでの来訪だと考えると余計に何ともいえない気分になり、表情にも困るエルフレッドだった。



 ルーフバルコニーの食事ではトート牛のステーキを中心とした料理が振る舞われた。アルドゼイレンのそれは骨と内臓を処理した以外はそのまま焼いたのではないか、と聞きたくなるほどに大きかったが「素晴らしい!我にピッタリのサイズだ!」と大喜びの様子だったので正解なのだろう。


「アルドゼイレン様を倒すとしたら、先ずはその細めの前足を落とすところからでしょうか?」


「フハハハ!人族の姫は面白いことを言う!こう見えて器用に使える手の様な前足というのは筋力が発達していて硬いのだ!!残念ながら弱点では無い!」


「うむむ......難しいですね。では、翼を落として機動力を削ぐというのは?」


「おお!!良い所に目を付けたな!!確かに翼は弱点よ!!しかし、それは我も解っている!!狙うのは至難の技だ!!とはいえ、正解した褒美に後程、空の旅に連れて行ってやろう!!」


「正解しましたわ!!これはエルフレッド様のお陰ですね!!」


「......お前は何故将来戦うであろう俺の横で自分の弱点を問題に話に花を咲かせているんだ?それに王女殿下に悪影響だから止めてくれ。後、褒美の様に言っているが、ただ単にお前が背中に乗せたいだけだろ?」


 トート牛のステーキを楽しみながらも不穏な会話を繰り広げては盛り上がっている巨龍に溜息を吐きながらエルフレッドが苦言を呈すると反対隣に座るレーベンが苦笑してーー。


「言ってることはもっともだし有り難いけど、エルフレッド殿が言えたことではないと思うよ?」


「......後悔も反省もしています。これは王女殿下の悪癖に気付かず助長させてしまった償いみたいなものです」


「なるほどね。だけど残念ながら手遅れっぽいから他国にこういう趣味を理解出来る殿方がいたら是非教えて欲しいな」


「かしこまりました。面目ありません」


 既にアードヤード国内には広まっていたのか......と表情に出さないながらも後悔の念が心を覆い尽くす感覚を胸に刻んだエルフレッドであった。



「いやぁ、楽しかった!!突然、現れた巨龍に食事を出すなんて器の大きな王も居たものだなぁ!!」


「そう言って貰えるのは鼻高々だが、次からはちゃんと日付も連絡して来てくれ。手紙が書けるならば、それに記載してくれないか?」


 月と薄い雲の下、普段に比べればゆっくりとした速度で飛んでいるアルドゼイレンの背中の上でエルフレッドは釘を刺すようにそう言った。


 ルーフバルコニーでの食事会終了後、王女殿下やレーベンとの空の旅を満喫したアルドゼイレンは転移で帰ると告げるエルフレッドを「ついでに友の領地も見て行きたい」と半ば強引に背中に乗せて空へと飛び上がった。

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