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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(上)
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 エルフレッドは大慌てて正装に着替えて王城へと転移する。


 血相を変えたルフレインが持ってきた聖王からエルフレッドへと宛てられた手紙は巨龍討伐をなした英雄と孫娘の婚約式には我々も参加したいというものーー。


 それ迄ならば良かった。別に王城に文を送り答えを待てば良い。しかし、問題は二枚目だ。


 今まで晴れやかだった聖王の文章が陰りはじめて、最後には"不可解な状況故に二枚目の手紙については判断を任せたい"との文章に首を傾げながらも首を傾げていたエルフレッドは、幼児が書いたような拙い手紙に眉を潜めた後ーー。




"わがとも、えるふれっど。りゅうをだいひょうしていわいにいく。くわしいはなしをききにちかぢかむかう あるどぜいれん"



「......ハァ?」


 ポロリと溢れ落ちた添えられた鱗が本物と解った瞬間に彼は駆け出していた。近々とは何時だ?もしや、もう王都にーー。


 謎の巨龍、王都アイゼンシュタットを強襲!!


 そんな見出しが踊る号外が配られ、王都が混乱に包まれている状況を想像して彼は顔から血の気が引くのを感じていた。何故、あの巨龍は人族被れを自称しときながら、人の常識にこんなにも疎いのかと転移をした時には思考が半分真っ白なエルフレッドだった。




 火急の知らせがあります。と普段、冷静なエルフレッドが告げれば即座に謁見の間へと通された。何事かと表情を強張らせたリュードベックへと手紙の内容を告げれば彼は額の辺りを抑えてーー。


「せめて来訪の日付等が解れば良いのだが......そこらの感覚は巨龍ならではと言ったところか......」


「あくまでも予想ですが、ある程度の場所までくればその後は私の魔力を追ってきますと思いますので、この報告が終わり次第、人気の無い場所に籠ろうかと思っているのですが......具体的にはエルフ領の森の付近など」


 方角的にも必ずそこを通ってアードヤードに飛来するものと考えられるので一番人的被害が少なく通達しやすい場所は何処かと考えての提案ではあったがーー。


「うむむ。確かにそれが万全かとは思うがそなたの話を聞いていると予想外にも王城に突撃して来る可能性を感じてな?ならば、来るものと諦めて緊急放送を出し、そなたには王城付近に居てもらった方が良いのではなかろうかと思うのだ」


 確かに国王陛下の言葉にも一理あった。かの巨龍なりの気遣いなのかは知らないが聖国でも、エルフレッドの静止を聞かずにいきなり王城へと突撃した巨龍である。生物の頂点から人間の頂点へーーそのようなことを礼儀だと考えてる可能性は否めなかった。される側からすれば傍迷惑以外の何物でも無いが。


 とりあえず来たら右頬にグーだな。と考えながら彼は国王の考えに同意を示す。


「そう言われますと私もそうした方が良いように思います。悪意は無いのですが、人族との常識にズレがあるのは間違いないでしょう。残っている巨龍を考えれば稲光色をした巨龍と黒紫の大蛇を思わせる常闇の巨龍では全く別物ですから、注意喚起に特徴を加えて頂ければ問題ないハズです」


「ふむ。なるほど。では、そのように致そう。因みに近々とやらが巨龍の感覚だとした場合は如何する?」


「......一週間もして姿を現さないようで有れば転移で向かいましょう。今は入れ違いの可能性を危惧して火急の知らせとしましたが、そうであれば最も幸いです」


 厄介事を持ち込んで申し訳ありません。と頭を下げる彼を手で制して「いや、火急の知らせを感謝しようではないか」とリュードベックは立ち上がりーー。


「それでは放送の準備と入ろう。こうなれば巨龍の祝いも国の利に変えるのみぞ。エルフレッド。後のことは頼んだぞ?」


「かしこまりました。ズレてはいますがサービス精神旺盛な巨龍ですので、きっと国王陛下の思惑は叶うかと」


「......真に珍妙な巨龍よ」


 リュードベックはそう呟くと宰相に指示を出しながら謁見の間を出ていった。その後姿に申し訳無さそうに頭を下げて謁見の間を後にしたエルフレッドだった。




「ハハハ!!我が友よ!!再会の時は来たれーーグボアアッ!!」


「お前の好きな読み物の通り、右ストレートでぶっ飛ばしてやったぞ?気分はどうだ?」


 その日の夕方頃、リュードベックの冴え渡る先見の明通り王城へと飛来してきたアルドゼイレンをまっすぐ行ってぶっ飛ばしたエルフレッドに巨龍は「な、何故だ!?」と混乱した様子で頬を押さえた。


「や、やはり!!やはり!!所詮、巨龍と人族とはこうなるーー「日付も告げずに王城へと現れた非礼を咎めただけだ。しかも、人が多く集まるこの時間にな。俺だって祝いに来たいという気持ちは感謝しているぞ?だからこのくらいで済ませたのだ」


 もし訳もなく現れて大混乱を巻き起こしていたのなら人龍大戦争勃発の危機であった。


「うぬぬ......我の勉強不足であったか......ならば仕方あるまい!甘んじて咎めは受けようぞ!」


 グワハッハッハ!!と楽しげに大笑いし始めた巨龍に周りの者達が「あれが例のーー」「本当に敵意がないーー」とヒソヒソと話し始める。


「......全く。それにしても態々来る必要があったのか?詳しい話というが、まだ日付も確定していないぞ?」


「なぬっ!?そうであったか!?まあ、何方にせよ、当日迷子にならぬようにせねばならなかった上に、エルフレッドの住む国の王には挨拶しとかねばと思っていたからな!来る必要があったことには違いないのだ!!」


 巨龍曰く、エルフレッドの魔力は確かに解りやすいが多くの人に紛れれば確実な場所は解らなくなってしまう。祝いの日に突然現れて迷子になってクルクルと空中旋回するよりは、人々の驚きも少ないだろうと考慮して来訪だったそうだ。


 流石のエルフレッドもその状況を想像するとゾッとした。自分達の祝いの日に突如飛来した巨龍が理由も解らなぬ人々の上を空中旋回ーー大混乱の城下町、逃げ惑う人々、出動する騎士団や軍部の方々。


 それはそれは思い出に残る一日となっただろう。言うまでもなく最悪の方向でだがーー。


「何故、そこまで配慮が出来て、この状況への配慮が出来ないのか解らないが......理解はした。ああ、理解はしたとも」


「ハハハ!理解が得れたのならば良かったぞ!そして、我ももっと勉強せねばなぁ!!」


 相変わらず楽しげな様子で笑っている巨龍に溜め息を漏らしながら、エルフレッドは前髪をかき上げるようにしながら潰した。警戒していた人々が本当に安全なのだと気付きカメラや携帯端末を向けるや否や「我は西の聖国の名巨龍アルドゼイレンや!!」やら「我の名を言ってみろ?......アルドゼイレン様だぁ!!」と大騒ぎし始めたので放って置いたのだがーー。


 急に黙り込んだので振り向けば、これならば解るであろう?と凄くムカつくドヤ顔を浮かべてこっちを見ていたので、とりあえず尻尾を蹴飛ばしておいた。


「キャインッ!!」


 良い声で鳴いた。


「あ〜、危険が無いことが解った故に挨拶をさせて貰おうと参った次第だ。偉大なる?天空の巨龍アルドゼイレンよ。私がそなたの友、エルフレッドの住むアードヤード王国の王リュードベック=クロス=アードヤードだ。我々はそなたの祝いを歓迎致す」


「王妃のクリスタニア=イヴァンヌ=アードヤードで御座います。私からも歓迎の挨拶を」


 いつから見ていたのか、偉大なるの口上に疑問符が着いているリュードベックの横でクリスタニアは笑い転げたい内心噯にも出さずに綺麗なカーテシーをして見せた。


 痛くもない尻尾を涙目でフーフー冷やしていたアルドゼイレンは真面目な場面と気付くや否や冗談めかした態度を止めてーー。


「丁寧な歓迎感謝しよう。我こそが天空の巨龍アルドゼイレンだ。人族の間ではそう呼ばれている!よろしく頼む」

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