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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(上)
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8

 その後の話であった。神出鬼没のノノワールは城内での舞台公演の企画に城を訪れていたのだが、幸か不幸か迷子になってしまい、婚約の話をしながら歩いている二人に出くわしたのだ。


 速攻で親友であるエルフレッドに連絡しようとしたところ「これ機密事項だけど......どうやら、締まらないのは僕のようだね」と苦笑するレーベンと隣を歩くアーニャに捕まったのである。


「まっ、エルフレッドも大層驚くだろうし妾としては満足ミャ♪とりあえず、機密事項だから喋らないように口止めして夏休み中悶々とした気持ちにしてやるミャア!本決まりになるまでリュシカにも内緒!悶々としたエルフレッドの気持ちを考えると愉しいニャア......」


「......アーにゃん......愉快な性格になっちゃって♪協力しちゃう♪」


 何だか悪い笑みを浮かべて今後の計画を話し合い始めた二人を見ながら「大丈夫かな?この娘達ーー」と苦笑するレーベンであった。



 そんなノノワールを城門まで案内し、両家で話し合いが行われている場へと迎えばガッチリと握手を交わす、リュードベックとシラユキの姿が目に入った。


「当人達が幸せであり、両国にとっても良い縁談となり真に嬉しく思います。シラユキ殿、今後とも最良の同盟国として宜しくお願い致しますぞ?」


「妾としてもアードヤードとの同盟強化は望んでおります。そして、ルーミャに跡継ぎが出来なかった場合、対応頂けるという条件を飲んで下さった配慮は忘れません。今後とも宜しくお願い致します」


 両陛下が相当力を発揮したのかお互い良いように纏まったようだ。半ば、傍観者となっていたクリスタニアとコガラシが拍手を送っている。


 そんな様子に「見事としか言いようがないね......」と苦笑したレーベンの胸元にアーニャはグリグリと頭を押し付けてーー。


「妾達も頑張らないといけませんミャ♪()()()()()♪」


 仲の良い演技をしておきたいのか、困らせて反応を楽しみたいのかーー反応に困ったレーベンだったが、とりあえず彼女の両肩に手を置いた。


「そうだね。頑張らないとね?()()()()


 仲睦まじく見える二人の様子にすっかり騙されているアードヤードの国王と王妃は愚か、多少事情を知っているハズのコガラシでさえ嬉しそうに頬を緩めている。


 対してシラユキは流石は我が娘じゃと訳知り顔で云々頷くのだった。


 はてさて、こうして二人の思惑が合致した政略結婚となった訳である。決まれば意外ではないとレーベンが漏らしていたように同盟国の王族同士の婚約、結婚は発表があったとして国民の度肝を抜くようなことはないだろう。


 レーベンは、アーニャの能力とアマテラスとして神の系図を持つ王家としての血筋、そして、表面上は才色兼備な王女が嫁いでくるという利を手に入れる。


 アーニャはアーニャで親友リュシカの住む国に永住出来て、王妃という立場からエルフレッドを弄ることが出来る上に見目麗しく都合の良い旦那が手に入るのである。


 余りにも開け透けで気持ちいいくらいの政略結婚だが、二人がどんな未来を描くのか今の段階では想像もつかないが、ここまで割り切った関係ならば悪くなりようは無いなと感じるのも事実だ。


 そして、今の段階で唯一迷惑を被っているのは、アーニャとノノワールの策略によって突然縁談を告げられた上に箝口令を敷かれて混乱させられるだけ混乱させられて放置されているエルフレッドだけだった。


 唯一、話が共有出来るノノワールやアーニャに『今忙しくて(いミャ)♪』とすげなく送られて悶々とした気持ちを募らせる彼が、実は彼女達の魔の手(手の込んだ弄り)に晒されていることに気付くのは夏休みが終わって暫くしてからのこととなるのだ。合掌。



 明くる日、アマリエの元に感謝の品々と謝罪の手紙がライジングサンより届いた。長々とした文章を要約すると"アーニャが歪んでいたお陰で事が上手く運んだ。礼と謝罪をさせて貰いたい"とのことだ。三者面談で平謝りさせられた上に感謝されるようなことは一切ないと意味が解らず首を捻っていたが、こちらも別の意味で驚愕させられることになるのは夏休みが終わって暫くしてからだった。













○●○●













 その日、エルフレッドは珍しい人物からの相談に首を傾げながらも自領の邸宅から学園へと転移した。相手はイムジャンヌである。彼女の交友関係を考えると困った事があればノノワールやその友人である女優でアイドルのメイカに相談しているイメージがあったので不思議な感覚が拭えなかったのだ。


『家族の事で相談したい。リュシカには確認済み』


 簡潔なメッセージで告げられた内容にとりあえず婚約者からの立場でリュシカに確認を取ればーー。


『問題ない。相談に乗ってやってくれ』


 とのことだったので着替えや浄化魔法も早々に学園へと馳せ参じた訳である。学園の正門前に着くとあからさまに悩んでいるオーラを放っているイムジャンヌの姿が見えて彼は声を掛けた。


「待たせたな。どうした?」


「ううん。急に呼んだの私だから。そのお姉ちゃんがーー」


 件の姉か、と思ったエルフレッドだったが予想していた話とはどうも様子が違うようだった。ノノワールやメイカ、母親やウルニカといった人物達の協力もあって良好とはならずとも誤解が解けてきたイムジャンヌとイムリアだったのだが、そうなってくると今度は姉がどんどんスランプに陥っているそうだ。


 騎士になりたいという気持ちは本物なのだろうが、妹に関するマイナスな感情が原動力の一つになっていたのは言うまでもなく、それが自身の勘違いだと気付いた瞬間から全てがどんどん崩れていった。


 生真面目でプライドの高い人間に有りがちなドミノ崩し状態と言うわけである。今のイムリアならばイムジャンヌでも教えることが出来るくらいまで本来の動きを失っているが、ここで自分がでしゃばれば前の二の舞いになるのは目に見えていた。


 しかし、自身が教えれるレベルだからとノノワールやメイカ、ウルニカには難しく、母親は騎士として多忙である。国が違うエルニシア等は論外で困り果てた矢先ーーエルフレッドが護衛の任を外れていると聞いて藁にもすがる思いで連絡してきたということらしい。


 その話を聞いた彼は正直自業自得だと思ったが、あれだけ酷い扱いを受けても姉の為になりたいと健気な様子を見せるイムジャンヌには自身の胸の内を隠して協力することにした。


 イムリアに関しては本人の態度次第といったところだろうかーーそこは場合によっては容赦する気はない。


 とりあえず、本人の様子を確かめなくてはどうにもしようがないのでまずはイムジャンヌ同伴の元、彼女達の実家へと向かうことにした。


 イムジャンヌの実家はエイガー男爵家の本邸に辺り、近衛兵や騎士副団長等を排出している家だ。母方はイヴァンヌ直系の伯爵家の三女であり、多少の援助があるため、他の男爵に比べれば多少裕福な暮らしをしている。


 跡継ぎには歳が離れた兄がいるそうだが、イムジャンヌが物心ついた頃には武者修行に出ていて便りにしか見たことがないそうで存在自体怪しいとさえ思っているらしく、当然連絡先も知らない。


 両親とは定期的に連絡を取っているそうだが、ハッキリ言って知らない人だと思って良い。金銭の援助はしてくれているらしいのでそこだけは感謝しているとのこと。


(家族間に問題があり過ぎるな......)


 どうもイムジャンヌの家族は在り方がかなり特殊なようだった。子供達を蔑ろにしている訳ではないが、取り立てて仲良くさせようとも思っていない。個人個人の考えを尊重しているとも言えるが、良くも悪くもと言わざるを得ない。

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