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二度の手術の為、活動再開に時間が掛かり申し訳ありません。本日から再開致します。詳しく状況がしたい方は活動報告に上げておりますので、そちらをお読み下さい。ご迷惑をおかけ致しました。
快晴のような笑顔のシラユキ、申し訳なさそうなコガラシ、そしてーー。
「妾の......妾のイメージが......アレじゃあ只の飲んだくれミャ......」
「何も覚えてないんだよねぇ......もう自分が何かしたんじゃないかってぇ......ハハハ......」
力無く笑うルーミャと頭を抱えるアーニャに見送られながら二人は苦笑した。青白いオーラに包まれた二人に「シラユキ様が手を叩いて元通りだったから大丈夫じゃないか?アーニャは一人楽しそうに歌っていて、ルーミャは大の字でくたばってただけだぞ?」と慰めという名の止めを刺して、エルフレッドはコガラシへと向き直った。
「先日は宴が盛況なこともあり挨拶の時間も取れず、真に申し訳ありませんでした。改めて、挨拶と謝罪をーー」
「ハハハ。気にするミャ!恩人に謝らせるような真似はしないミャ!これからもライジングサンの良き友としてよろしく頼むのニャア!」
朗らかに笑いながら告げたあとに「寧ろ昨日は母が迷惑を掛けたミャ?勘弁ミャ」とウインクした。彼が飲み潰された主な原因は祝いの席ではっちゃけるコノハであった。乱闘の様相を醸し出した虎猫族と獅子猫族にお人好しな彼が止めようと姿を見せたところーー。
「おお!!今日の主役のエルフレッド登場ミャ!!こんなことをしている場合ではない!!どれ、先ずは一杯♪」
と飲まされ続けたのである。普段ならば酷い事になる前にコウヨウやルーナシャといったボーデンハイドの方々が止めるのだが、ストッパー不在のエンドレス祝い酒は彼を前後不覚手前の状態まで誘った。
双子姫の介抱を終えたリュシカが彼の状態を見て大層驚いた程である。
「いえ、自身が迂闊だったのでしょう。ボーデンハイドの皆様の言う通り、遠くから見守るべきでした」
「まあ、同じことがあれば、どうせ突っ込んで行くと思うがな」
隣で微笑みながら核心めいた言葉を告げるリュシカに言葉無く苦笑で答えていると、呆れたと肩を竦めたシラユキは溜め息を吐いてーー。
「コノハは加減を知らんからのぅ。あれで祝っているつもりだから尚悪い。一応、妾の義母に当たる故に妾からも謝っておこう。済まなんだ」
エルフレッドが「いえいえ、シラユキ女王陛下に謝って貰うようなことではーー」と慌てる中、視線をそらしたコガラシが「貴女様がそれを言いますかニャア」と独り言のように呟いた。
「ふむ。そうかそうか。獄門の滝は全身を鞭で打たれるが如く水の勢いが強くーー「ニャハハ!!家の母には本当に困ったもんですミャア!!後で言っておかないといけないですミャ!!ニャハハーー」
イングリッド夫妻の力関係を目の当りにして苦笑するしかないエルフレッドとリュシカであった。
「では、私達はそろそろ。先に帰った両親と合流するために一旦寮に戻らないと行けませんので......」
全ての憂いが無くなり障害が無くなった今、二人がすべきことは両家話し合いの上での正式なーー。
「おお、もうそんな時間かのぅ。名残惜しくもあるが達者でな。報酬は弾む故に婚約の式典は盛大なものにするのじゃぞ?」
「ありがとうございます。両家で話し合い最高の物が用意出来ればと思っております」
「皆様の御力あっての私達ですから......恥ずかしくない物に出来るように努めさせて頂きますわ」
嫋やかな笑顔で答えた二人に「その粋やよし!楽しみにしておるぞ!」とシラユキは満開の笑みで答えるのだった。
「エルフレッド!!覚えてるミャ!!妾は絶対目にモノを見せてやるミャ!!」
「そうだそうだぁ!!学園始まったら絶対にからかってやるんだからぁ!!」
転移魔法を唱えるや否や悪役の様な野次で見送る二人にエルフレッドは何で恩を仇で返すような見送り方しか出来ないんだと苦笑しながら、風の力と共に消えていった。
「......さて、楽しい時間はここまでよ?アーニャ、覚悟は出来ておるな?」
シラユキは娘のことが心配だった。好いた者は親友と結ばれ、自身は別の者に嫁がねばならない。更に言えば、幸せな二人を側で見ている立場にならねばならないのだ。
そんな辛い人生を娘に歩ませなくてはならないと思えば、声が感情を失ってしまうのも致し方ないものであったがーー。
「ええ!お母様!!覚悟どころか愉しみにしてるミャ!夏休みの間に話をつけてしまいましょうミャ!!」
シラユキは思わず娘を見た。もっと悲壮な覚悟のような展開を頭に思い描いていた彼女からすればアーニャの反応は予想の範疇の遥か外にいくものだったからだ。
「アーニャ......?」
艶やかな息を吐いて身震いしている姿はシラユキが初めて見るものだった。何がどうなっているのか、ブツブツと呟いている彼女の言葉に耳を済ませたシラユキーー。
「ああ、最高ミャア......先輩を毎日弄って暮らせるミャア......エルフレッドも......ああ、でも、リュシカが悲しまないように適度に上手くやらないとミャア......塩梅が難しいミャア......想像するだけでーー」
シラユキはルーミャに困惑の視線を送った。娘のことは重々知っているつもりだったが、アーニャのそれは全く知らなかった。否、ライジングサンにいる間は絶対にこんな性癖は持っていなかったハズだ。
なして、アーニャがこんなに歪んでおるのか?!
そんな視線を送るシラユキにルーミャは遠い何処かを見ながら答えた。
「......アマリエ先生の教育の結果だそうですよ?お母様」
「......なるほど。学園のルールは知らんが夏休みに緊急の三者面談を申し込む事は可能か?」
かくして、シラユキは動き始めた。それから一時間もしない内にアードヤード王立学園に他国の王族から緊急の三者面談の申し入れという前代未聞の事態が発生したのは、アードヤード王立学園の長い歴史を見ても初めてのことであった。
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当人同席の元、婚約の打ち合わせが行われるのはエルフレッドがバーンシュルツ伯爵家として担う役割が大きく著しいからだ。リュシカに関しては彼の護衛対象であるからだ。
「話し合いと言っても大きな問題は大凡解決済みだから安心して欲しい。殆ど、エルフレッド君が解決してくれたからね。感謝しているよ」
機密性の高さからヤルギス公爵邸へと招かれたバーンシュルツ伯爵家の人々は、嫋やかに微笑むゼルヴィウスに少々恐縮した様子で「全てはヤルギス公爵家の皆様の寛大な御心のお陰でございます」と頭を下げた。
「そう恐縮なさらずに......本日、このような場を設けさせて頂きましたのは勿論、話し合いの意味もありますが両家の親睦の為でも御座いますわ?将来は同じ公爵家に連なる方々ですから親睦会という流れでも良いと私は考えておりますが周りの方々全てがそう思うわけでは御座いませんから......寧ろ、少し堅苦しい場になってしまって申し訳ありませんわ」
少々苦笑気味のメイリアに「婚約の話については機密性があるに違いありませんから、お気になさらぬよう願います」と普段はあまりこういった場に出ないエヴァンスが答えると彼女は安心した様子で微笑んだ。
「そう言って頂けるならば幸いですわ。それでは貴方ーー」
「ああ。挨拶はこのくらいにして早速話し合いに入りましょう」




