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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第五章 天空の巨龍 編(上)
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「あ〜、本当にエルフレッドにはやられたミャ。ったく、末永く幸せにーー爆発するミャ。エルフレッドだけ」


 病院内の廊下をとても清々しい笑顔で毒を吐いたアーニャはそれはそれは良い笑顔であった。


 シラユキから彼が目を覚ました報告を受けた双子姫は早速見舞いに来たのだが、病室内が周りも見えない程の愛に満ちていたのでそそくさと退散してきたのだった。


 隣を歩くルーミャも大層嬉しそうに表情を綻ばせてーー。


「本当にそれぇ!あんなの少女漫画でもそうそう見れないってのぉ!大体、あんな奇跡みたいな魔法反則だしぃ?緑がキラキラみたいなさぁ。まあ、お母様を治してくれた恩は一生物だから、こんなこと言えるのは今の内なんだろうけどねぇ!」


 ニシシ!と笑って頭の上で手を組んだルーミャを見ながら、アーニャは「やられたと言えば」と微笑んでーー。


「今回の件は全然気づかなかったミャ。妾はルーミャにもやられたニャア」


「うん?どゆことぉ?まあ、確かに今回は色々頑張ったけどさぁーー」


 さも不思議と首を傾げた彼女にアーニャは全て解っているのだぞ?と言わんばかりの表情を浮かべてーー。


「隠しても無駄ミャ?もう解ったからミャ。それにしてもフェルミナをも()()なんて、王の才能だからか......()()()()()()?」


 シタリ顔のアーニャが訊ねるとルーミャはあちゃ〜と額を打ってーー。


「バレたかぁ。まっ闇討ち掛けてた頃には気になってたよぉ?本格的なのは神化で戦った頃からかなぁ」


「......そんなに前からミャ?ハァ。フェルミナや双子の妾どころかお母様まで謀っていたなんて、どうやったらそんなことが出来るミャ?」


 心の底から信じられないと驚いているアーニャに「まっ、妾は覚悟決まってたしぃ?」と微笑んでーー。


「好きって感情と女王としての感情を別のものだと考えたらさぁ。国民の為を思うなら王配は獣人から選んだ方が良いって思ったんだよねぇ?そしたら、妾が女王になるのがほぼ決まりなら、恋愛に現を抜かしている暇なんてないっていうかぁ?そう考えたら、もうどうでも良くなってさ!簡単に言えば、妾はライジングサンの方が好きだったってわけ!より好きなものがあれば隠すなんて簡単、簡単♪」


「なるほどミャア。そう考えるとやっぱり妾よりルーミャの方が女王に向いてた訳ニャア」


 顎下に手をやり、何度も頷いている彼女に「......でも、アーニャこそ本当に良いのぉ?」とルーミャは少し心配そうな表情を浮かべる。


「ああ?何ミャ?あんなラブラブイチャイチャ見せられたら百年の恋も冷めるというか凍るミャ。寧ろ、リュシカが幸せそうな姿が見れたから妾は最高にハッピーうれピーミャ!」


 彼女は「いや、そうじゃなくてさぁ」と苦笑してーー。


「エルフレッドって候補が居なくなったってことはさぁ。アーニャの婚約候補って一人じゃん?その......凄く良い人だし、国の為には最高だけどぉ......アーニャの感情的にはどうかなって......」


 言っている内に心の底から心配そうな表情になっていくルーミャを見ながら彼女は「ああ、その事ミャ」と不敵な笑みを浮かべた。


「全然問題無いミャ。寧ろ、最高ミャ。最近はエルフレッドを弄るとリュシカが嫌な顔してたからニャア。燻ってたミャ。彼にはそういう相手も居ないから弄り放題ミャア。ああ、考えるだけでゾクゾクするニャア」


 心からの愉悦と打ち震えるアーニャを見ながら「アーニャ......すっかり歪んじゃったねぇ......ダメージが少ないって意味では良かったのかなぁ......」ルーミャは遠くを見て呟いた。


「それにミャア。ルーミャ、よく考えてみるミャ?」


「......何をぉ?」


 呆れた様子で訊ねる彼女にアーニャは不敵な笑みを浮かべてーー。


「立場ミャ。た・ち・ば!ヤルギス公爵家に並ぶ公爵家になるであろうバーンシュルツ家に唯一色々と命令を出せるのは何処の家ミャ?楽しいだろうミャア......上の立場から()()()()()()()


「ハハハ、御愁傷様だねぇ......でも、楽しそうだねぇ♪」


 何だかんだ似た者姉妹である二人は少し先の未来について話して、心から楽しそうにーーニヤリと笑った。リュシカが帰り、病室で一人大人しく病院食を食べていたエルフレッドは突然身体を襲った悪寒に「何だ何だ?」と腕を擦るのだった。













○●○●













 退院時の宴はとても豪勢なものであった。五人の聖女やその子孫、そして、それに次ぐ実力者が集まり、巨龍討伐とシラユキの回復を成した英雄エルフレッドを讃えたのである。


 それに伴いバーンシュルツ伯爵家とヤルギス公爵家の家族も呼ばれ、シラユキ主導の元、内々の話も済ませて晴れて功績を祝うだけとなったのだ。


「コノハ!!本当に憎らしいババアじゃニャ!!他国に猫又の孫など隠しおってからに!!」


「うるさいニャ!!ナツキ!!エルフレッドの祝いの席で因縁をふっかけるミャ!!儂は孫に判断を任せとっただけミャ!!大体ニャアーー」


 酒が振る舞われたせいもあって白熱している者もいるが、それもまた一興という状態だ。そして、肝心の孫達はといえばーー。


「フェルフェル。ウチらマブダチ。ブイ」


「ふふふ。アオバちゃんとは良い友達になれそうです」


 と楽しげな表情で握手をしていた。頬の引っ張り合いに発展している女王と当主など目にも入らぬ様子である。


「プハー!!ああ、美味い!!真に美味じゃ!!妾の人生で娘達と酒を楽しめる日が来ようとはーー長く生きてみるものよ!!」


「それは良かったけどミャア......肝心の娘達が王女が見せてはいけない姿になってるニャア......シラユキ様も程々にしないとーー」


「......何じゃ?コガラシ?お主は妾の楽しみを取ろうと言うのか?ーーそうかぁ。夏とはいえ河原のほとりは寒かろうて......」


「いえ!!取りませんミャ!!あ〜最高ニャア!!娘達と飲むお酒は最高ミャア!!俺ももっと飲まないとミャ!!」


 胡座をかき一升瓶を抱えながら赤ら顔で「ウチぃの酒ぇは美味いミャ♪」と妙な歌を歌ってるアーニャから一升瓶を奪い取って煽るコガラシ。因みにルーミャはといえば着物が開けるのもそのままに目を回しながら大の字で倒れている。


「......ああはならんように気を付けないとな?」


「そうだな。酔い止めと魔法は適時掛けねば」


 怪しげな雰囲気を察知して主賓席から退避したエルフレッドとリュシカは振る舞われた清酒をチビチビ飲みながら網で焼かれたホタテを食べる。


 そして、予想以上の酷い結果になっていく宴を肴に獣人達の宴は愉快だなぁと遠くを見ながら笑うのだった。




 そんな見苦しくも愉快な宴は一日中行われ、素面の者を探すのが難しい状態になった頃に解散となった。結局、今日の主役と見つかったエルフレッドも飲み潰されるまで飲まされた。


 その後、彼がどうにか難を逃れたリュシカから介抱される羽目になったのは言うまでもない話であった。

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