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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(下)
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第四章(下)エピローグ

 ライジングサンの王城へと転移したエルフレッドは早速、謁見の間に通された。普段とは違う畳の上での作法に多少戸惑ったが母親からほぼ全ての国の作法を習っているので問題なくこなすことは出来ている。


 エルフレッドの体はやけに重かった。多く寝ていたせいもあるだろうが、一度は死んだ体だ。寧ろ、重い程度で済んでいることの方が奇跡なのである。自身だけで倒した訳ではない証拠の白い羽根は一応空間の中から取り出してある。今の気持ちは報告が終わり再度次第眠りたい。というものだった。


 次に現れたのは双子姫とコガラシ王配殿下である。エルフレッドが頭を下げれば「妾達も本日はそなたと同じ立場故に頭を下げる必要はありません」と代表してルーミャが許可を出した。頭を上げながら王配殿下ではなく次代と目されるルーミャが許可を出す辺りがライジングサンらしいと彼は思ったのだ。


 厚畳の上は簾が開いており、客人ながら少し不思議に感じていたエルフレッドは頭を下げながらも、その意図について考えていた。


「さて、皆者集まっておるな。面を上げよ。先ずは客人エルフレッドよ。巨龍討伐、真に大義であった」


 そう言われ顔を上げた彼は少々面食らった表情になった。それはライジングサンの常識を知る者であれば誰もが生きている時には着用しない着物だったからだ。


「ーーお母様!?」


 驚きの声で答えを求めるアーニャを手で制止した白の着物ーー死装束を身に纏ったシラユキは言葉を失ったルーミャと何かを知っていて尚険しい表情を浮かべるコガラシを尻目にエルフレッドへと話を続ける。


「あのビャクリュウは恐ろしく強かったであろう?しかし、それを倒したそちは真に強い男なのじゃろうな?」


 心なしか顔色も悪い。少し心配になりながらも「いえ、実は......」とあった出来事を話して彼は白い羽根を見せた。


「こうして生きて帰って来れたのも、この羽根を持つ人物のお陰でしょう。私は生にしがみついてどうにか生き延びただけの存在です。報酬についてはお断りしたいと考えております」


 シラユキは微笑んで「しかし、倒したのはそちよ。報酬については心配するでない」と扇子を取り出した。


「それにしても白の羽根とは、そなたは愛狂いの神に真に愛されていると見える。それは神の使者ぞ?そなたに恩があった者のな。しかし、あの神ならば、まだ話の進めようがあるのぅ。創世神の一柱ながら愛に関しては平等故に引き裂くような真似はせん。縁談の答えを聞かせてもらおうかのぅ」


 愛狂いの神とやらが何となく想像がつくために使者となり幸せならば良いと少女の御冥福を祈りながら、彼は決意の表情をシラユキに向けた。


「申し訳ありません。お断りさせて頂きます」


 シラユキはピクリとも表情を動かさず「それは何故じゃ?」と扇子で口元を隠して目を細めた。


「アーニャ殿下との交流を深めていく間にズレが出たというのも有りますが、私自身が別の者を愛してしまったからでございます」


 彼が告げるとそれに追従するようにアーニャが「申し訳ありませんミャ。お母様」と謝ってーー。


「エルフレッド殿はとても良い御仁ではありますが私の気持ちが離れてしまったのですミャ。ですから私もお断りしたいと考えておりましたミャ、以前、携帯端末で答えた通りで御座いますミャ」


 あくまでも計画通りに進めようとしていた二人に対して「そうか。それならば致し方あるまい」と白雪は微笑んでーー。


「確かに気持ちは離れていっておるようじゃが無くなった訳でもあるまい?」


 と満月色の瞳で笑みを作り娘を嗤う。


「えっ......?お母様、それはどういうーー」


「どうもこうもないわ。娘とて妾を謀ることは出来んというだけの話じゃ。全く親友の為か何か知らんが、まだまだ詰めの甘い娘よのぅ」


 呆れた様子を見せる彼女に「そんなことは......」とアーニャが言葉を詰まらせているとシラユキは「ああ、あの娘は悪くない。情が深い一族故に妾の命掛けの策を断りきれんかったのじゃ。上手く謀られ動いてくれたわ」と酷く冷たい声で笑った。


「さて、エルフレッド。妾はそちに多大なる恩を感じている。しかしながら女王を謀るは重罪よ。故に妾は考えた。恩情として罪は消そう。しかし、そちは妾を納得させねばならん。人が神を納得させる時、何をするべきか解るかのぅ?」


 当然、彼には何のことか健闘もつかなかったが死装束を身に纏い、決意を心に秘めた彼女の表情を見ていると答えは一つしかないと解るのだ。


「お互いの信念を賭けてーー言いたいことは解りますがシラユキ女王陛下におかれましてはお身体の調子がーー「何も言うな。解っているならよい。そちも非常に体は重かろうが、そのくらいは罰として受け入れて貰わんとな?無論、命を奪い合うことはせん。しかし、万が一があったとして王族殺しの汚名はつけんと誓おう。そして、証人はコガラシが責任を持って行う」


「......仰せのままに」


 厳かな声で立膝のまま頭を下げたコガラシにアーニャは青褪めた顔で「お母様......まさか......」と声を震わせた。


 無言で飛び出さんとしたルーミャがコガラシに取り押さえられる。「コガラシや。すまんのぅ」と微笑んだ彼女は手を二回打った。するとエルフレッドとシラユキを囲む半透明のドームが現れた。それは結界のようであったが同時に檻の用でもあった。


「さて、準備は整った。神に逆らうは人の性。故にそれを受けるのが神の役割よ。お主が勝てばリュシカ姫との婚約に口は出さん。しかし、妾が勝てばアーニャと婚約してもらう」


 彼女をそれ程までに駆り立てるものは何なのだろうか?それがエルフレッドには未だ理解が及ばないところであった。だが、向けられた決意に清々しい程の圧が加われば彼も構えることしか出来ないのである。




「死を背負った半神は真に恐ろしいものよ?エルフレッド。妾とそち、何方の想いが上か雌雄を決しようではないか‼︎」




 パチリと音を立ててしまったセンスが突きつけられる。神化によって纏わり付いた焔、そして、輝く瞳ーー。かつて最強と謳われたライジングサンの女王シラユキと巨龍討伐の英雄エルフレッドの戦いの火蓋はこうして切って落とされたのである。

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