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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(下)
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 教育とは何にも代えがたい知識や行動を学ばせる事にほかならない。そういった意味ではアードヤード王立学園は非常に実践的な授業を展開しているのであった。勿論、経営学に関しては選択授業だがマナーや社会的常識を学ぶ授業での税法は必須科目で、当然社会に出ても必要なものとして認識されているのである。


 そんな税法の時間、実際に働き既に納税をしている者の例として、アルベルト、ノノワール、エルフレッドはそれぞれ現状の仕事と納税方法、申告などで実際に困ったことなどの話を発表する事となった。特にエルフレッドなどは冒険者の特殊な現状と領地経営の実務に協力した実績がある為、その話を聞きたい生徒というのは多くいるのである。


「まず、領地経営に関しては企業と変わりません。献上税は法人税のようなものですから然るべき計算をして書類を提出して報告ーーその後、納税の流れになります。年に何度か国の監査が入りますので誤魔化すことは出来ません。悪い事をしてても何れはバレますので正しく納税しましょう」


 そう言って小さな笑いをとった彼は冒険者の納税について話し始めた。


「冒険者は自身で納税の手続きをすることはありません。税金が引かれた額を初めから報酬としてますので、ある意味最も楽な納税方法と言えるでしょう」


「因みに芸能人は事務所がやってくれる場合と自身で確定申告しないといけない場合があるから気をつけてね〜♪後、悪い税理士に捕まると厄介な事になるから自分でもそこそこ勉強してた方が良いよ〜♪実際に払ったって言って未納で持ち逃げされた友人とか居たしね〜♪」


 冒険者のように元が風来坊のような仕事については悪い言い方をすれば、端っからまともに納税出来るとは思われていないので入った分だけ使うであろう彼らが仕事がしやすいように工夫がなされている。しかし、芸能人については千差万別の人々が集まる事が想定され、人々に夢を売る職業としてある程度社会の模範となる行動を求められているのだ。


 それが例えば納税であったり、普段の行動であったりとTVで見せる姿では解らない部分に現れるため、キャラとは別の実社会に置ける賢さを求められるのである。


「因みに僕の所の研究所は所長が天才気質だから、そこら辺に無頓着ってこともあって基本的には専属の税理士が全般的にお金の管理をしているよ。ただ、報告や書類については確実に提出して貰っているし可笑しな点がないかは副所長である自分が確認している。その為の資格は偶々だけど一年次に取っていたから間違いはないだろうね。やっぱり、人を信用したい気持ちはあるけれど莫大な金額が動き始めると人は可笑しくなってしまう場合があるから、自身が資格を取るなりして、ちゃんと管理出来るようにするというのは大事かな?逆に言えば、今の時点では出来てなかったとしても、後からちゃんと払える制度もあるわけだし、自身が今の情勢に高説を垂れたいなら無駄に思えても払わないとね」


 そんな三者三様の話をしていると数多くの生徒が挙手し、質問を投げかけてきた。それに一つ一つ答えていると経営者から教師へと転向した先生が「素晴らしい!全くもってその通りだ!諸君も参考にするように!」と元経営者視点で微笑んだ。彼はその後「しかし、そうは言っても人生とは色々あるものだ」とエルフレッド達を座らせた末に教壇へと戻りーー。


「病気をして経済的に破綻したり、家族との不和でその日暮らしに精一杯だったり、今、お金がないという状況は何処にでも転がっているのだ。諸君Sクラスの生徒は恵まれた環境にいる生徒が多いと思うが明日に何が起きるのかなんてことは全く解らない。従って今日のは一例であり、この社会には色々な救済措置がある事を再度認識して生活して欲しいのだということを私は告げたいと思う。今日の授業は以上だ。今日発表してくれた三人に向けて再度大きな拍手をーー」


 経営者が語る演説のように教壇に手を置いて彼が言うとエルフレッド達に向けて大きな拍手が降りそそいだ。学生の内から実体験を元に話を聞けるというのは非常に為になるからだ。何だか気恥ずかしくなったエルフレッドは頬を掻いたが巫山戯半分、感謝半分で発表者であるアルベルトやノノワールまで、こちらに向けて拍手をしているのを見つけて思わず苦笑してしまった。




「何か偉そうに発表してしまったけど僕の場合は完全にエルフレッド君のお陰で今があるから正直、発表するのも何だかって気分だったよ?」


「とか言っちゃってさ〜♪高説垂れるなら〜なんて、メッチャノリノリで言ってたじゃん♪アルも副所長っぽさ出てきちゃったんじゃないの〜♪」


 そんな事を言いながら戯れ合う二人に「まあでも、実際に働いているのは本当だから私は凄いと思う」とイムジャンヌは微笑んだ。


「わ〜い!イムジャンヌちゃんに褒められた〜♪嬉しい〜♪ハグしよ!」


「......私はアルの話をしてた。ノノは芸能人だから当たり前」


 何時ものように腕を広げる彼女にとても嫌そうな表情を浮かべるイムジャンヌ。ここまでの拒絶は珍しい。


「あれぇ?二人何かあったのぉ?」


 少し不思議そうな表情で尋ねるルーミャにアーニャは苦笑しながらーー。


「何があったも何も、イムジャンヌが姉の件で感謝を伝えようとハグしたら何か色々弄られたらしいミャ。今、信用を取り戻し中ミャ」


「な〜る。我慢できなかったかぁ。ノノって、本当にそういうところ駄目だよねぇ〜」


「だって!だって‼︎顔を真っ赤にしながら、”感謝の気持ち”とか言われたら勘違いしちゃうじゃん!もうバッチコ〜イみたいに思っちゃたんだもの‼︎うわーん!イムイムごめんって許して〜!」


「反省とは行動で見せるもの。ハグしようとか言ってる時点で無理」


 まあ、そうだろうな。とイムジャンヌの言葉に全く反論や弁護の余地を感じないエルフレッドは呆れた表情を浮かべながら同意を示す。


「こういうのを一般的には自業自得というのだろうな?」


 とリュシカも呆れた様子で肩を竦めた。


「まあ、それはいいとしてミャ。何ミャ、みんなに協力して欲しいことって言うのは?」


 そう実は放課後に人を集めたのはエルフレッドだ。協力して欲しい事というのは当然、風魔法の強化の事である。


「全く良くない‼︎イムイムに嫌われたら私は生きていけない‼︎」


 ウワーンと泣き叫ぶノノワールに「じゃあ、しなきゃいいじゃん?馬鹿言ってないでさぁ。我慢しなよぉ」と冷静にツッコミを入れたルーミャ。その目はとても冷徹な色をしていた。


「まあ、自業自得は今後の行動で許されることに期待するとして......集まってもらった理由は他でもない。風魔法の強化についてだ。実は既にアルベルトやメルトニアさんには協力して貰っているのだが既存の属性をより本質的に理解することで強化出来ることが解ったんだ。だけど、一人での追及に行き詰っていてな。是非皆の意見も聞かせて欲しいんだ」


 エルフレッドが告げると事情を知らぬ皆はとても意外そうな表情を浮かべた。


「エルフレッドにも解らないことがあるって聞くとなんか不思議」


「だねぇ!しかも、協力してくれたらお礼に食事まで振る舞うっていう力の入れようが、逆に新鮮過ぎるぅ」


 素直に驚きの表情を浮かべる二人に比べてアーニャは存外冷静な表情で顎下に手をやってーー。


「ほう?それは興味深いミャ?そして、追及ともなれば妾の得意とすることミャ。そういった力を求めての集まりということで間違いないミャ?」


 それに答えたのは今回の状況を詳しく知っているリュシカだ。


「そう考えて貰って間違いはないぞ、アーニャ。元来はアルドゼイレンという巨龍から齎された情報なのだが、かの巨龍は悠久の時を生きている故に自身のみで深める事が出来たようだ。だが、私達では自身だけで深めるのには時間が足りなすぎる。その分を数で補いたいという気持ちは少なからずあると聞いている」

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