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あまり彼女の評価を下げるようなことを言うと何処からともなく現れそうで怖いが、仲間内だからと許されたヤバめのエピソードがわりとあるのだ。
そのことを考えると身震いを禁じ得ないエルフレッドであった。
「解った。リュシカの都合次第になるが彼女と共に行くことにしよう」
一縷の望みに賭けてリュシカの都合作戦に出た彼だったが一分もしない内にアルベルトの携帯端末が鳴りーー。
「リュシカさんは快くOKだって!!良かった〜!!これでさらなる魔法の極地が見えてくるよ!」
とても嬉しそうな表情の中に何処かメルトニアの様な狂気を感じさせるアルベルトを見ながら、もしかしてだけど魔法に関してはアルベルトもヤバいヤツなんじゃないの?と数少ない同性友達に初めて強い猜疑心を感じたエルフレッドだった。
「ふふふ、あははは、エルフレッド君〜!これって誰情報かなぁ?あれからエルフレッド君の情報を元に千の文献を魔法で頭に詰め込んだんだけど、誰も知らないんだよ!変だと思わない?世界に名を残した賢者の本を千冊!!しかも唯の本じゃなくて、一冊で人が住んでる島買えちゃうくらいの密書や禁書!!そんな魔法を知り尽くしたような人々の本に書いてない!!世界で一番魔法に詳しいハズの私でも知らないような、そんな話を誰から聞いたのかなぁああ!!」
昼休みの終わりから放課後迄の五時間程度で千冊の危ない本を叩き込んだせいか血走った目でケタケタ笑いながらメルトニアが言った。
その様子に涙目になったリュシカはエルフレッドの方へと首を向けると、ごめん、私断るべきだった?と視線で訴えかけてくる。
エルフレッドは首を横に振りながらリュシカは悪くない。リュシカは悪くないんだ。とやはり視線で答えるのだった。
「あはは!ハニーが知らないなんて!!凄い!凄いよ!!これは魔法史に残る偉大なる発見に違いない!!あはは!!」
普段なら絶対に言わないような愛称まで飛び出す程に喜び来るっているアルベルトも、もう見ていられない様子だ。
題して、二人は魔法狂いである。
エルフレッドは少し悩んだものの、ここ迄来るともう隠そうが隠さまいが同じように思えてきた。昼休みに隠しといてなんだがメルトニアの様子が思った以上にヤバ過ぎる。
このままだと自白効果のある魔法薬とか盛られそうだ。何故か?そんなの飲まされた系のエピソードがあるからに決まっているじゃないかーー。
開き直ったエルフレッドは大きな溜め息を吐いて「実はーー」とアルドゼイレンの正体と共に再度、本質の話について説明を始めた。そして、理解まではいったがそれ以上が行き詰まっていていることも話した。話してはいけないと言われた訳でもない。
要は唯開き直っただけでなく、一人で考えても思いつかないから魔法に詳しい二人を巻き込んで協力頂こうという魂胆だ。それに聖国の巨龍が人族に協力的なので教えて貰えた。そもそも教えてくれたのは人間でないことを伝えれば、どうこうしようもないだろうと思ったのだ。
「なるほどね〜。悠久を生きる巨龍からの知識か〜、しかも、相当変わり者っていう特殊な状況みたいな感じ〜?それなら、まあ、解らなくもないね〜」
「ふむふむ。でも、何方にしろ魔法の歴史は大きく変わるだろうね!無論、そこに至る最低条件はありそうなものだけど。司ると例えられる程なら、最早神の所業だね!」
大分、通常の状態に戻った二人にエルフレッド達は内心ホッとした。神の所業となればアーニャ、ルーミャも巻き込んだ方が良いだろうかといけにーー仲間を集めようと考えるエルフレッドであった。
「それにしても、魔力の原理や魔法の本質についてはエルフレッド君より私の方が詳しいだろうから教えて上げられるけど、風属性単体、それもまさか魔法外のところと結びつくなんて中々困ったちゃんな話だねぇ......」
ここに来てメルトニアの知識の偏りが属性を司ることに対しての問題となっている。無論、エルフレッドとしては魔法をより深めることが出来れば更なる何かに繋がるのだから、それはあくまでも当人の問題だろうがーー。
「まあ、そこは僕が協力することにしよう。基本的な教養はエルフレッド君程じゃないかもしれないけど劣る訳でもない。そこにハニーの知識を加えていけば、より高みにいけるハズだよ!!」
先の一件で完全に開き直ったアルベルトがベタ甘な様子で告げれば「ダーリン......!!」と彼女は瞳を潤ませて感動している。
......俺は何をするために来たのだろうか?
彼の前で繰り広げるダーリンとハニーの乱舞。遂には抱き合い始めた二人を眺めながらリュシカがニヤニヤと頬を緩めていた。本当に恋愛大好き娘だ。
一頻り茶番(エルフレッド目線)を見終えた彼はジトリとした視線を二人に向けてーー。
「良かったな。これで二人の未来は安泰だ。さて、邪魔者の俺達は帰るから後は二人で楽しんでーー「何良い感じにフェードアウトしようとしてるの!?大体、学園の二人だって見てる分には僕等とそう変わらないからね!!」
あれと変わらないのは何か嫌だなとリュシカの方を見て「俺達ってあんな感じなのか?」と訊ねれば彼女は不思議そうに首を傾げた後に静かに横に振った。
ーー話が脱線したが魔法の本質とは?風の本質とは?を真剣に話し合いながら深めていく。度々、琴線に触れた話題で脱線はするものの一人で根を詰めて考えていた以上の深みへは到達しているようだった。
「雷属性の分子操作程は深くないかもだけど気圧関連かな?大気を操るまでならエルフレッド君はもうプラズマでそれを成している訳だから......それとも、より大気を変動させる魔法になるのかな?」
空気の高圧縮によるプラズマを考えれば、その線はより深められるかもしれない。大気を操り、風をより自由に操れる。確かにその線は零ではなさそうだ。
「ふーん。まあ、意外性はないけど実例はあるから可能性はあるって感じかな?だけど私的にはダーリンの言った気圧関連が操れるのは分子操作並みに面白いと思うんだよね〜。だってエルフレッドが手を翳したら、どーん!低気圧!どーん!高気圧!ってなるわけでしょ?」
「ふーむ。ともすれば気象を操るということでしょうか?なるほど。確かにそれは神の所業だな?その気になれば局所的に台風を作り出すことも出来る」
飛躍し過ぎている気がしないでもないが、分子の操作と同列と考えればわりとあり得ない話でもない。
「気圧と大気圧がゴチャゴチャになってきてる感はあるが、まあ、気圧そのものを操れるのか、大気圧を広域で操れるのか、はたまた、より緻密な大気操作かーーそう考えるとまだまだ勉強が必要だろうな」
可能性が少しずつ見えてきたのならば次はより深めていく。理解と実行の繰返しこそ、アルドゼイレンがあの域に達した所以なのだ。
「ま、あれだね〜。一人で深めるには人生じゃ足りないかもだけど、沢山仲間を募って深めていけば良いところまで辿り着けるんじゃない〜?人の強みってやっぱりそこじゃん?」
三人集まれば文殊の知恵ーー。何より自身を超える才能を持つ仲間が沢山いるのだ。協力してもらうのも有りだなと思うエルフレッドだった。




