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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(下)
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 推測すると言う割に妙に確信しているのが解るアルドゼイレンの言葉に彼は顎下に手をやりーー。


「ふむ。中々強い説得力を感じるが何か具体的な例でもあるのか?」


 すると天空の巨龍は「愚問だな」と、やはり意味有りげにニヤリと楽しげな表情を浮かべた。


「具体例も何も我は言ったぞ?頂きを目指すならば誰もが通る道だと?」


 アルドゼイレンは自身を誇示するように立ち上がり、天まで届かんとする大きな翼をバサリと広げてみせた。


「最強の巨龍を自負する我ならば"既に通った道"よ!!我が友よ!!」


「既に通った道か......ならば信頼も出来よう」


 エルフレッドもまた楽しげな笑みを浮かべた。それはそうだ。この巨龍のそこは未だに見えない。そして、本人の自負は大凡見当違いとも思えないのである。ならばエルフレッドはアルドゼイレンが通った道をなぞる。それが最短の道であり、その先にある物が初めて自身で歩むべき道なのだとーー。


 個性とは没個性の中に表れるものだ。何が言いたのかといえば個性的な姿とは、どれだけ癖を消そうが直そうがそれでもやはり残ってしまう自身を象徴するものだということだ。断じて初めから存在していることに気付くものではないのである。


 例えば文字を書くとしよう。とても綺麗な字の先生の真似を続けてほぼ先生と同じ字が書けるようになったとする。しかし、ほぼ一緒であるにも関わらず、どこか違う。払い?はね?いや、そもそもの筆圧?そういった部分の事を個性というのだ。であるならば、例えば初めから右肩上がりの斜めな字を書く、そもそも止め、ハネ、払いが出来ていないのに、これは個性だから仕方がないなどというのは単に修練不足で汚い字を書いているだけなのだ。


 今、エルフレッドの前には最強の名を冠することの出来る手本があり、その道をなぞり終わるまでは個性などではなく、単純に実力不足ーー彼の行程をなぞり終えてこそ、エルフレッドの個性が見えてくるのである。


「さて、今日はここまでだ。お前の想い人も首を長くして待っていることだろう?八十%への宿題は”風”とは何かを理解することだ。自身の風が解ったところで、それはエルフレッドの風の答えが出たに過ぎない。そもそも風とは何なのか?風はどうして吹くのか?根拠、そして、原理、風の本質を理解することが更なる実力に繋がるのだ。百%までの答えは言ってしまったようなものだが、一つずつ確実に完璧にこなすのだ。だから、我はあえて次の宿題は言わん。そして、お前も考えてはならん。小連休とやらがいつまでかは知らんが二日に一回ここに訪れよ。その答えを持ってな」


「わかった。肝に銘じよう」


 実際のところ、エルフレッドは百%の宿題とやらが見えていた。風の本質が解れば次は魔法の本質、魔力とは何なのかを理解しろとなるだろう。しかし、風の本質を自身はあまりにも知らなすぎる。アルドゼイレンを見ていれば科学的な見地やそもそもの理解だ出来ている必要があるのだろう。ならば、同時に調べて二日後に答えが出せる程簡単なものではないことくらい理解は容易いのだ。


「さて、帰りは転移で帰るのだろう?なれば巣まで送ろう。想い人との時間も大切にするが良い。お前はあまり寝なくて良い体質なのだから」


 以前、エルキドラ戦で負傷したエルフレッドがアルドゼイレンの背中に乗って帰った時、そういった話をしたのだ。少しお節介に感じた部分もあるが、こうして自身の訓練に付き合ってくれているリュシカを蔑ろにするのは自身としても許せる行為ではない。


「様々な助言感謝する。そして、小連休はよろしく頼む」


「勿論だ。しかし、あれだな。お前は顔にバッテンのような傷がある。となれば我はムキムキマッチョな師匠といったところだな?」


「......俺はそもそも刀使いではない。そして、お前がハマっているのは単行本ではなく雑誌の方だったか......」


 呆れた様子で肩を竦める彼に「ハハハ!幾ら年月が経とうとも色褪せぬものよ!」と体を揺らしながら笑うのだった。




 二人が帰還すると以外にもリュシカは退屈そうな素振りは一切無かった。寧ろ、非常に有意義な時間が過ごせたと幼子の様に目を輝かせているのである。


「いやぁ、目の前で見るとエルフレッドと巨龍の戦いは非常に楽しく学びの多いものなのだな!そして、私も自身の火の本質を理解したようだ」


「ほう?素晴らしいな。想い人の方は才有る者か。真に良い組み合わせよ!お互いの足りぬ部分を補っていると感じるな!」


 アルドゼイレンに微笑まれて彼女は少し恥ずかしそうに笑った。


「まあ、彼女の才能が人の身に収まらんことは既に世界が知っている常識みたいなものだからな。しかしながら足りない物を補っているという考えは無かった。共に在ればそれで良いからな」


 彼が何を当たり前の事をと告げると「人族の感情は難しい故に下手なことは言えんが、まあ次代の話よ」とアルドゼイレンが告げると「なるほど」と言いながらも顔を赤くするしかない二人だった。




 転移で王城へと帰った二人は食事が準備された席へと向かう。どうも、この聖国ではプライベートを満喫出来るのは、この王城くらいしかなさそうだ。お忍びなんてしようものなら携帯端末のカメラを向けられるか、拝まれるかだろう。今日は卒業してから女性聖騎士団設立に向けて忙しなく動いているエルニシアと、その事で少し物申したいクラリスが同席しての食事会となった。


「もう良いじゃない!お母さんは何でいつも古来の聖女像を引き摺っているのさ!私は神に仕えるワルキューレを作るの!!そして、仲間達と女性聖騎士団を作って活動するって決めてるんだから!何言われても変わらないからね!」


「そんなこと許すわけがないじゃないですか!貴女の身に何かあったらどうする気ですか!そもそも婚約者のイネミア公爵家には何と説明をするのです!貴女は聖国の前に家を守らないといけないのですよ!」


「あ〜始まった!家を守るなんていつの時代の話よ!大体、婚約者は納得して寧ろ応援してくれてるって!わーわー言ってるのはお母さん世代の人達だけ!あーヤダヤダ!古い価値観の人達って何でこんなに頑固なのかなぁ......」


「エルニシア‼︎」


 来た瞬間からこの様子である。生真面目で融通のきかないクラリスからすれば新たな聖女像など到底受け入れられるものではなく、柔軟な思考を持ちながらもこうと決めたら梃子でも動かないエルニシアの衝突はある程度予想出来るものでもあった。


「クラリス、その辺になさい。エルフレッド君もリュシカも困ってるじゃない?それに私は女性聖騎士団なんて面白そうだと思うけどーー「お母様は黙ってて下さい。お母様がそういうこと言うから、この娘がこうなったのです。学園での指導や冒険者としての資金集めで既に小さな傷を沢山作っていて私としては気が気がじゃないのです。親子の問題に口出さないで下さい!」


 若干ヒステリックが入っているのはエルニシアが既に身体中に傷を作っているからだ。卒業してから一ヶ月半程度だが精力的に動きすぎた結果、そういった面が疎かになっているようだ。自身の産んだ娘が、その内ズタボロになってしまうのではないかとクラリスは心労を募らせているのだ。


「なるほど。確かに女性騎士団の設立を勧めたのは私ですが、そこまで性急にことを進めているのは予想外でした。ここは立案者として謝罪させて頂きます。真に申し訳ありません」

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