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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(下)
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「ーーなるほどな。話は大体理解した。要はビャクリュウを倒す為に我と特訓がしたいと言うことだな?」


「そういうことだ。それとビャクリュウとの関係を知りたい」


 アルドゼイレンの用意したホットコーヒーを飲んで落ち着いた彼は本題を切り出した。リュシカはといえば洞窟の入口付近で背を向けて体操座りをしながらホットコーヒーを飲んでいた。


 どうも落ち着くには時間が掛かるらしい。本人曰く「小一時間も抱き締められているのを意識していては色も感じてしまう。少しそっとしていてくれ」だそうだ。


「訓練の方は全く問題ない。そして、ビャクリュウはまあ、人間の言葉で言うならばライバルのようなものだ。まず仲間ではない。共に制空権を争う故にな。しかし、敵対していると言われれば、そうとも言えない。やはり、共に競い合い、高め合い、何れは倒すべき相手だな。無論、エルフレッドが倒せるならば我は特に思うこともないぞ?そういう時代は疾に過ぎているからな」


 あくまでも人の言葉で近いのはライバルということらしく、今は熱い気持ちも冷めてしまったという。この巨龍の言葉を信じるならばビャクリュウとの間に協力関係は無いということになるがーー。


(いや、愚問だな。疑うのも阿呆らしい程にアルドゼイレンはあけっぴろげだ。今回の件に関してはカシュミーヌ様が正しいか......)


 あれだけの力強さで飛べるのだ。リュシカという()()の付いたエルフレッドなど幾らでも滅しようがあった。それをせずにあまつさえ、リュシカと共に自身の巣へと招き入れた。ここまでの誠意を見せられて、まだ疑う方が流石に問題だと彼は感じていた。


「ならば問題無い。友として特訓に付き合って貰うぞ」


「良かろう。先ずは小手調べだな。我が習得した人族の秘術を見せてやろう」


 アルドゼイレンは意味有りげにニヤリと笑った。エルフレッドも答えるように笑い、落ち着いたリュシカが彼の横に帰ってきた。


「話がついたようだな。私は観戦させて貰うぞ?」


「ああ、元々その約束だ。何か気付いたことが有れば教えてくれ」


「わかった」


 アルドゼイレンはのしのしと体を揺らして、崖の前にあるスペースで止まった。


「その家は余波が一切届かぬように別空間となっている。安心して観戦していると良い。先ずは三十%だな」


「......」


「どうした?我が友よ?」


「いや、次は八十%、百%、百%の中の百%(フルパワー)かと思ってな。さっきの発言と言いハマり過ぎだろ」


「ワハハッ!!何千年経とうが面白いものは面白いのだ!さて、始めようか!」


 何のことかと首を傾げながらこちらを見ているリュシカを尻目に彼は大剣を抜いた。


「天空の巨龍の実力、見せてもらうぞ!!」


「来い!!」


 先に動いたのはエルフレッドだ。早速、リミットブレイクを唱え眼前へと移動し上段から振り下ろした。


「ほう?風の補助無しでその速さ......だが」


 斬られたハズのアルドゼイレンが振れてエルフレッド後ろに現れた。


「それは我の残像だ」


 エルフレッドは回転斬りで振り返りざまの攻撃を狙いながらーー。


「だからハマり過ぎだろ?それに原理が違う。お前のは光の反射を利用した鏡写しだ」


ギンッ!!と爪で大剣を受けながらアルドゼイレンは笑う。


「ハハハ!バレたか!しかし、雷属性とは偉大な力だぞ?何故ならば分子の活動に直接的に影響を与えられるのだからな!!」


 急速な上昇で雲の付近まで到達、大きく翼を広げた巨龍は分子の活動を低速にし冷却ーー雨を降らせる。エルフレッドはそれを風の膜で受けながら苦笑した。


「......それが本当ならば最強の巨龍はお前だろうな」


 ウインドフェザーを唱えてエルフレッドは飛翔する。空中戦に付き合い大剣を二閃、右左と大きく横凪にぶん回し雨雲を二つに割った。


 尚もアルドゼイレンは楽しげに笑いながらーー。


「我は最強の巨龍である自信があるが闇も風も中々よ?そして、私の言葉に嘘はない。人族の秘術とは即ち化学!!それを理解すれば天候は疎か万物に影響を与えられるのだ!!」


 割れた雲から稲光が殺到する。しかし、龍の牙が基本の大剣は避雷針とはなりえない。魔力を纏った大剣はその電撃さえも切り裂いてみせた。


「ハハハ!!真に!真に面白い!!我が雷を切り裂く者がいようとは!!人族とは可能性!!我は化学にそれを見たが、エルフレッドはより超常的な力に魅入られたか!!」


 急速な分子活動の上昇で爆発的か高温の炎を撒き散らすアルドゼイレンに彼は楽しくて仕方がないと大剣を振るう。


「戦える!!前以上に動ける!!お前が最強を自負するならばビャクリュウにも負けることはあるまい!!」


 エルフレッドの大剣捌きはまさに風だ。それも穏やかな風ではない。荒々しく全てを薙ぎ払う。竜巻のような風である。緑が稲光色を飲み込み、飲み込まれた稲光色が緑を割って食らいつく。


 食らいついた稲光色が弾き飛ばされて緑が三閃ーーほぼ同時に見える速度で稲光色に襲い掛かった。


「荒々しくも優しき風よ!!お前の大剣はビャクリュウと打ちあえる!!しかし、まだ届かん!!魔法の原理とは?本質は?そして、何故風は吹くのだ?何故、風は引くのか?考えよ!エルフレッド!理解だ!理解するのだ!エルフレッド!!」


 恐ろしい程の風を撒き散らすエルフレッドの攻撃を爪で受け、牙で受け、鱗で受け、翼で受けながら天空の巨龍は理解を求めた。


 時には優しい言葉で、時には厳しい言葉でひたすら、ひたすらに理解を促すのだ。一撃もダメージにならない連撃と繰り返される言葉に彼の思考は深く深く潜っていく。


 風とはなんだ?何故、風属性なのか?そもそも魔法の本質とは?


 何度も繰り返される思考の中でエルフレッドの頭に風が浮かんだ。風はどこにでも吹き付けるから自由だと言われる。しかしながら、その本質は自由ではない。




 なるほど、風とは傲慢なのだ。




 彼は思った。風はぶつかり跳ね返るが全てが跳ね返るわけではない。跳ね返った極僅かを除けば、全ての物を包み込むように風は突き進んでいるのである。風同士がぶつかりあっても本質的にはぶつかり合っていない。風はお互いに進み続けている。


 要するに風は全てに対して一方的に進み、吹きつけ、包み込む、傲慢な存在なのだと頭が理解した瞬間ーー。


 アルドゼイレンの全身を風が進み、包み込んで、その鱗を大きく削ったのだ。


「ーー見事。エルフレッドよ。これが三十%だ。先はまだまだ長いが、お前の風は確かに定まった」


 地上へとゆっくり降り立ち、翼を閉じたアルドゼイレン。エルフレッドは今日の訓練はここまでのなのだと理解する。


「なるほどな。しかし、我ながら傲慢な風が本質とは中々恥ずかしく思える本質だな......」


 全てに対して進み続ける風の傲慢さが自身の本質と思うと、どうも気恥ずかしい気分だ。しかし、アルドゼイレンはニヤリと笑いながらーー。


「確かに本質は人それぞれだが恥ずかしいものではない。傲慢という言葉に翻弄されているが、全ての者を救い、幸せにしたいと考えるのも一種の傲慢さだ。一人で全ての者を救い、幸せにすることは出来ない。しかし、エルフレッドはそれを望むだろう。全てを包みこもうとする優しきもある意味では傲慢さなのだ。そして、我はそれを凄くお前らしいと思っている」


 アマリエは似たようなことを悪い意味で言った。しかし、アルドゼイレンはエルフレッドらしいと微笑んでいる。


「そして、戦って確信したがお前は才足りぬ者だ。だが、最強になれると自身を信じた。それは物を知らぬ幼子なら許されることだが、歳を重ねるごとに許されなくなり、何れは自身さえも否定するようになる。しかし、お前は信じた。根拠の無い信を持って進み続けている。それはお前の言う風と一緒であろう?根拠の有る信は正しさよ。しかし、この世の誰が正しく頂きを認識できようか?故に頂きに至る者は傲慢な思想を信じ続けねばならないのだ。それがエルフレッドの風の本質が傲慢となった理由だと我は推測する」

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