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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(下)
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 するとカシュミーヌは満面の笑みを浮かべーー。


「だって、ドジっ子聖女だったのに神託の聖女に選ばれて、国一番のイケメンな天才王子と結婚出来た上に子供達三人はユーネ=マリア様に褒められるほどの天才聖女ばかり!跡継ぎどうしよう!って思ったら曾祖父様の弟に当たるセイントルーン公爵家の嫡男とクラリスが結婚!将来は弟に家督を渡して継いでくれるって言うじゃない!本当、出来過ぎて怖いくらいの良い人生だわ〜!お姉様達もアンタは何時も幸せそうで良いねぇって言ってくださるし」


 きっとお姉様達とやらも呆れ半分なのだろうが彼女の世界は幸せに溢れているようだ。周りに何とも言えない空気が漂う中でカシュミーヌは孫であるリュシカへと優しい笑みを浮かべる。


「それに沢山苦労した孫が本当に幸せそうなんですもの。祖母として、これ以上の幸せはないわ」


 瞳を潤ませて「お祖母様」とリュシカは微笑みながら目元を拭った。そして、聖王も口元を緩めるとエルフレッドへと視線をくれた。


「エルフレッド殿。私も祖父の立場で礼を言いたい。他国の王族との婚約より孫を選んでくれたことを。ーー無論、今は中々に難しい状態であるのは理解しているが、それでも先ずはその心意気を讃えよう。私達とて立場上、応援が難しいところはあるが万が一の際は最大限の助力で応えたい。我が国の恩人であるそなたならば、安心して孫を任せられる」


「......若輩者の私ですが、この件については王族相手でも譲る気はありません。最後の最後まで足掻き続けると誓いましょう」


「宜しく頼むぞ」 


 穏やかな笑みを浮かべる聖王の横、カシュミーヌはぷんすか、とした様子でーー。


「それにしても、このタイミングで動くなんて......ミミコちゃんには本当に困ったものだわ!!」


「「ミミコちゃん?」」


 二人が同時に聞き返すと聖王は突如酷い頭痛に襲われたように額を抑えーー。


「その呼び方は駄目だとあれ程クラリスに注意されたと言うのに......孫にとっては良い祖母も娘にとっては......特にクラリスは私に似たものだから本当に苦労しているのだろう」


「何言ってるのよ〜!クラリスは本当に真面目で良い子だから人一倍幸せになるに決まってるじゃない!ユーネ=マリア様も歴代一の神託の聖女だって次代なのに絶賛してる程なのよ!本当に親孝行な娘だわ〜!」


 のほほんと嬉しそうに微笑んでいるカシュミーヌに「......真面目で良い子だからこそ苦労しておるのだがな」と溜息を吐く聖王だった。




「「キャ〜!!アルドゼイレン様!!こっち向いて〜!!」」




「ふふふ。綺麗な龍には棘がある」




「「アルドゼイレン様〜!!」」




「さて、そろそろ限界がきたようだ。孫を頼んだぞ?エルフレッド殿」


「かしこまりました。急ぐ必要があるようなので背を向ける事をお許し下さい。ーー行くぞ、リュシカ」


 手を引き少し早足で歩き始めたエルフレッドに「何をそんなに慌てているんだ?」と彼女が困惑した様子を見せると彼は真剣な表情でただ一言ーー。


「余計なことをしている気がする」


 首を傾げる彼女に少し申し訳なさそうにしながら転移をしたエルフレッドだった。




「おお!!エルフレッド!我が心の友よ!」



 いつの間に心の友になったのかと問いたい彼だったが状況は突如として一変した。彼は少し来ぬ間にグランラシア聖国の気質を忘れてしまっていたのかもしれない。


「え?アレってユーネリウス様じゃないか?」


「本当だ!隣に居るのはリュシカ様よ!」


「キャー!凄い組み合わせ!!写メらないと!!カメラ、カメラ!!」


 王城前が俄に賑わい始め、辺りからパシャパシャとシャッター音がなり始めたことに冷や汗を垂らした彼は「場所を変えるぞ!!」とリュシカを横抱きに抱えるや否やアルドゼイレンへと飛び乗った。


「お忍びなのでプライベート用でお願い致します!!」


 周りがとんでもない歓声に包まれる中で空気を読んだアルドゼイレンが飛び立った。とりあえず、事態の収拾に乗り出した聖王は国際問題に発展する可能性があるので秘匿にするように通達する。どれだけ伝わったかは不明だが周辺に集まった国民の雰囲気を見るに何とか事なきを得そうであった。




「さて、飛び立ったは良いが何処に行こうか?」


「リュシカもいるが巣に連れて行ってもらうことは可能か?」


「我が家か?良かろう!今日は皆、体調的にも問題なさそうだな?」


 ニヤリと口角を上げて訊ねてくるアルドゼイレンに自身の腕の中にいる彼女へと声を掛けた。


「リュシカ、大丈夫そうか?」


「う、うん。大丈夫」


 真赤な顔で頷いた彼女に首を傾げながらーー。


「大丈夫だ!こちらでも風の膜を張っておく!!」


「フハハハ!!ならば、全速前進だな!!口を閉じろよ?舌を噛むぞーー」


 グワンと視界が斜め上に向かって突き進んで行く。雲の海を越え、飛び出た先には澄んだ青が広がっていた。近くなった太陽に目を焼かれぬようにギュッと強く閉じれば、今度は斜め下に急降下だ。まるで遊園地の絶叫マシーンのようにぐんぐんと加速していき、雲を割ったそこには数多の岩石で構成された山肌だ。


 飛行が目まぐるしくあっという間に時が過ぎて行ったような気がした。そして、実際一時間も飛んでいない。そうありながら、アルドゼイレンは三百kmはある行程を飛び終えてしまったのだ。


(このような馬鹿げた存在と戦うのか、俺はーー)


 ただ移動するだけならばエルフレッドの転移の方が早く目的地に到着するだろう。しかし、翼による移動でこうも速く飛ぶことは不可能だ。それは彼に限らず全ての生物がそうであろう。


 その移動速度に耐えうる強靭な肉体、そして、魔力ーー途方も無い圧倒的"力"を持つ生命体。十全の巨龍の実力の片鱗を垣間見て、エルフレッドの思考はその一点に強く奪われていた。


「ふーむ!久々の全速力飛行は真に爽快だ!そして、背中には友が居る!我が龍生は何と素晴らしいものなのだろうか!!」


 エルフレッドの見覚えのある岩山の洞窟前の切り立った崖の上に着地したアルドゼイレンは二人が降りやすいように身を屈めた。


 さて、降りようかとエルフレッドの背中が少し伸びた時、胸元のリュシカがちょこんと襟元を掴んだ。彼が再度、首を傾げると彼女はずいっと顔を近づけてーー。


「エルフレッドは、は、恥ずかしくないの?私はこんなにドキドキしてるのに......もしかして、慣れてる?」


「うん?慣れてる?」


 と彼は今の状況を思い返して急速に顔に熱が集まっていくのを感じた。言われてみれば、そうだ。慌てたり、意識を別のことに奪われていたりしたから、この状態の異常さに気付かなかったが小一時間、彼女のことを胸元に抱き締めていたことになる。


 二人で居るのが当たり前の感覚の弊害か?妙にしっくりきていて解らなくなって居ただけだ。もう、そこに意識がいってしまえば彼もまともな状態ではいられない。


「ハハ、慣れてる訳があるか。男の悪い所がモロに出ただけだ。色んな所に意識が分散して、そうなってただけだ。今はもうリュシカの顔さえ恥ずかし過ぎて見れん」


 二人で顔を真っ赤にして顔を反らし合っている二人に対して、大地から声が響いた。


「悠久を生きる龍が刹那の時間を濃密に過ごす人族の愛の語らいを邪魔するのは気が引けるが......せめて降りてからにしてくれないか?フハハハーー」


 楽しげな笑い声とニヤニヤ笑う顔がこちらを見て目を細めている。二人は漸くアルドゼイレンの上に居ることを思い出して、頭から湯気が出らん程に顔を赤らめるのだった。

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