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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第一章 灼熱の巨龍 編
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18

 意外にも意識はあった。


 ただ、それだけだ。左手は潰れ足の感覚がない。視界に映るだけでもあり得ない方向に折れ曲がっているのが理解出来る。当然右手も辛うじて動くだけだ。


 無論、得物の大剣も届かぬ位置にあり残存する魔力では治せる場所も限られている。そして、それをさせるガルブレイオスではないだろう。近付いて来る間に利き腕だけでも治しておいた。そうしながら、魔法を打ち込んでこないガルブレイオスの知性の高さに驚嘆する。


 こちらの体は死に体だが魔力だけは残っていた。遠距離魔法の数発ならば防げる。そして、その間に転がるくらいは出来るようになる自信がある。だからなんだという話だが危険が少なく確実に殺せるのは物理による一撃だろう。そして、それがあまりにも的を得ている。


 実はであるが、そんな死に体の中にあってもエルフレッドは諦めてはいなかった。最終手段として全治の秘薬エリクサーを持ってきていた。だから、遠距離魔法で止めを刺そうとしたならば空間開放を開いて、その薬を飲むチャンスが生まれる。


 だが、この用心深い灼熱の巨龍は最後の最後まで完璧な勝ち筋を求めて近付いてきたと言うわけである。余りに賢すぎで笑えてくる、流石に人智を超えた存在で知能を持つものである、とーー。


 最後の時は近い。思い返すことは何だろうか?最強を目指しながら一匹の巨龍しか倒せなかったことか?


 それとも自身を信じ送り出してくれた親のことだろうか?


 それとも通うハズで何かが起こるはずだった学園のことだろうか?


 解らない。何も考えたくない。全身が壊れそうだ。いや、壊れている、この体勢は何故だが苦しい。


 利き腕と腹筋を無理矢理使って身体を起こし壁にもたれ掛かる。眼前に広がるガルブレイオスの顔がエルフレッドが死んでるかどうか確認していた。そして、生きている確認が取れればそのまま噛み殺すのだろう。


 本当に慎重だ。この巨龍は生物として究極な癖に本当に慎重で臆病だ。













「......くたばれ」













 目の前でガルブレイオスの表情が驚愕に染まった。ここが最後の瞬間だと思っていたのだろうが、その左目にはグレイオスの使った。浄魔の剣が深々と刺さっていた。


 思考をさせる暇も残さない。一気に魔力を込めて、その脳天を爆散させる。頭を失った長い首が血の雨を振らせながら踊り狂い轟音を轟かせて地へ落ちた。


 読んでいた資料にグレイオス=ラスタバンが戦士であったという記載は無かった。


 普通の人間よりも力が強いサラマンド族だからといって、一介の一般人がこの巨龍の鱗を突き破り骨を貫く程に剣を刺せることにエルフレッドは疑問を抱いていた。ただ、それだけだ。意識を失っていれば、吹き飛ばされた方向が違えば、魔力が残って無ければ、身体を起こす事ができなければ、そしてーー。


 浄魔の剣に気づかなければ死んでいたのは自分だっただろう。


 エルフレッドは震える手で空間開放を開き、エリクサーを口へ流し込む。無理矢理飲んで血と共に吐き出されるのを繰り返している内に全身が治癒されていくのが感じられる気がした。


(願わくば、最後の日にならんことをーー)


 ジュライの時と同じようにそう願い彼は意識を手放すのだった。

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