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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
序章 証明のはじまり
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2

 周りを囲む植物が意思を持ったかのように成長と枯渇を繰り返して燻んだ赤の瞳を持つ血まみれの男に襲いかかった。


 隙間の見当たらぬ苛烈なそれを背丈を超える大剣で振り払うと男はその重厚な体躯には似合わない洗練された動きで印を結びーー。


「ウインドフェザー」


 瞬間、男を支点に竜巻が起こって周りの植物達を巻き込んでいく。それは小さな草花だけではない。溶解液を放つ巨大な食人植物系の魔物や空を舞う棘のついた花弁、更には3mを越える巨大な花型の魔物も含めてだ。


「雑魚は終わりだ‼いけ‼」


 男が手を振り上げると上空に集まった魔物全てに羽根状に型どられた風の刃が殺到していった。その羽根の量は尋常じゃなく、何千、否、何万と飛んでいっては突き刺さり大気の爆発を引き起こした。植物達は木端微塵となって、魔物は体液を撒き散らしながら死に絶える。


「溶解液か......」


 血で染まった白髪ーー付着した溶解液を初級風魔法[清めの風]で吹き飛ばした男は味方の居なくなったジュライに視線をくれる。この()()()()()()()でジュライは右目を失った。その上、魔力で作った魔物を失った結果、大きく疲弊していた。人族を下等生物と舐めてかかり右目を失った代償は大きかった。無論、歴戦の戦士程度ならばそれでも負けやしなかっただろうが、どうやら相手が悪かったようだ。


(まあ、此方も満身創痍だがな......)


 幾ら回復魔法や覚醒魔法を持っているとはいえ、それに回せる分の魔力がない。ーーだけでなく意識を無理矢理覚醒させている分だけ変調を来しているのだろう。それ以前にSランクの魔物と戦って五体満足なだけで上々とも言えるがーー。


「ウインドフェザー」


男の印に反応した巨龍は最後の力を振り絞って何本かの草木を動かした。それは起死回生の一手である。大技ともなれば()()()必要とする攻撃故に隙を作る必要があるのだ。


「......纏え」


 上級風魔法[ウインドフェザー]には二つの使い方があった。羽根を飛ばす使い方と翼を()()空を翔ぶ使い方だ。遂にはその視線を覆うが如く襲いかかってくる数多の植物達を彼は予備動作ともとれる竜巻で吹き飛ばしながら天空へと飛び立った。視界の端で数多の植物毎消し飛ばしながら迫り来る恐ろしい熱量の光り輝く巨龍の伊吹を眺めながらーー。


(予想通りだな)


 それがジュライの最後の策となった。確かに本来ならばその策はとても有効だっただろう。現にブレスがトンネルでも作るかの如く森を消滅させ地面を抉り取る様を見れば必殺の一撃と呼べる威力なのは明白だ。しかし、男からジュライが見えないということはジュライからも男が見えていないということだ。更に言えば右目を失った状態だと考えれば、どちらにとって分が悪いかなど言うまでもないのだ。


(次で終わらせる‼)


 男は風の翼を広げて滑空ーー。ジュライの死角へと入り込むと弱点と化している潰れた右目へと大剣を突き刺した。


「終わりだ‼」


 次の瞬間、大剣から流し込まれた大量の魔力により巨龍の頭部は爆散ーー。事切れて動かなくなったジュライを前に彼もまた大剣を引抜きながら倒れ込んだ。


 何時しか日は暮れ、木々に囲まれた森の奥地であるこの場所には時折肌寒い風が吹いていた。彼自身、回復薬を飲んで安全を確保した場所で眠るのが一番だと解っていたが、彼の体は当に限界は越えていた。


(願わくば、最後の日にならんことをーー)


 朦朧とする意識の中で彼はゆっくりと目を瞑るのだった。

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