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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(下)
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3

 そんなある日、信者と呼ばれる人間が良く歩いているとされる街を歩いていると"すかうと"を名乗る人間に話しかけられた。手枷、足枷も何のその非常に情熱的な話し方をする男だった。


「妾は信者を集めなくてはならん。そうせねば我が国の人々を救えないのじゃ」


 彼女が言うと男はこう言った。


「良いね!君と僕のコンビならきっと沢山の信者を獲得出来る!!一緒に夢を見させてくれないか?」


 神の頃を含めれば何千年も生きているアマテラスからすれば中々に失礼な男だったが、このような状況でも腐らずに生きている様は中々に好感が持てた。


「良かろう。もし、そなたが言うように沢山の信者が出来た時はこの国が変わる時じゃ。そなたにも沢山の幸福を与えよう」




「な、何じゃ‼︎このフリフリした淫らな巫女服は‼︎」


 これが正装だと持って来られた巫女服を見てアマテラスは驚いた。半袖で足は太腿のかなり際どい所まで出ている。男は不思議そうにしながらーー。


「最近の流行りはこんな感じなんだけど......良い所の出なのかい?」


 良い所の出も何も最高神の一人なのだが、アマテラスは最近の流行りと言われると自身は多少疎いところがあった為に渋々それを着た。そして、最近の舞と和風テイストの曲を聞いて「ちとばかり明る過ぎるが悪くないのぅ」と頷いた。ぼーかるとれーなーという巫女の先生が歌っている手本を見せられたが「これじゃあ駄目じゃ。ちぃとばかし見ておれ」と本物を見せつけて帰らせた。


「ふ〜む。こんなものかのぅ?祭事は上手くいきそうかえ?」


「......うん。絶対上手くいくよ。それにしてもあの先生は相当凄い先生なのだけど君は凄過ぎるね」


 男が驚きに目を瞬かせながら言えばーー。


「まあ、妾は人の身に降りたとはいえ神だからのぅ。それにしても天岩戸のあの馬鹿を思い出して少し嫌な気持ちになったわい」


 かつての親友は弟を止めてくれると信じて居たのにみんなで馬鹿騒ぎした挙句、酒乱で歌って踊って寝てしまうなど、本当に馬鹿だった。その歌って踊ってが今の感じに少し似てて嫌な気持ちになったのだ。


「ハハハ!君が言うと冗談に聞こえないから不思議だね!」


(冗談も何も本当の事しか言ってないのだが、まあよかろう)


 そんな事を考えながらアマテラスは第一回目の祭事へと向かった。


「のぅ。最近の祭事はこんな煌びやかな所でするのかえ?それに純和風アイドルとはなんぞ?」


「ああ、ここが君が今後祭事をするところになるよ。アイドルというのは歌って踊る職業みたいなものかな?」


「ふーむ......まあ、巫女の俗称みたいなものじゃろう。ここではアマテラスと真名を名乗る故に宜しく頼むぞ?」


「ああ、任せてくれ!存分に信者に見せつけて欲しい!」


 そう言われてアマテラスは「もちろんじゃ。神とは信者あってのものよ?」と口角を上げて祭事の場へと向かったのだった。その後、アマテラスの信者は祭事を重ねる度に増えて行った。賽銭を入れる信者を纏めるファンサイトなるものを開設し、更に信者の数を増やしていった。アマテラスは途中で何かがおかしいことに気づいてはいたが尋常じゃない信者の増え方に最近の祭事はこういうものなのだろうと自身を納得させた。


 男も薄々自分はとんでもない人物をスカウトしたのかもしれないと感じていたが、途中から考えるのを止めた。


「のぅ。そろそろ神力が溜まった故に我が忠実なる巫女ーー聖女を選ぼうと思うのじゃが何か良い方法はないかえ?」


 信者数が十万人を超えた頃、アマテラスが男へ告げた。男は微笑みながらーー。


「ああ。新メンバー募集したいならオーディションすれば、きっと沢山の候補者が集まると思うよ?」


「ふむ。おーでぃしょんとな?ならば人集めはそなたに任せよう。選ぶのは妾がする故に沢山集めるのじゃよ?」


「了解!選考で絞るけど何人が良いかな?」


「ふーむ。まずは手始めに百から選ぼうかのぅ」


「OK‼︎んじゃ、早速募集を掛けてみるよ‼︎」


 かたかたとパソコンで何やらを作り始めた男にアマテラスはそんなに集まるかのぅ......と少し心配になってきた。




「おーわんさか居る居る!そなたは流石じゃなぁ」


「ハハハ!君の人気のお陰だけどね!今を時めく新人ナンバー1アイドルがまさかのメンバー募集だから、そりゃあ集まるさ」


「ふむ。であれば妾の御心が漸く浸透してきたという所じゃろうて。さて予定より多いようじゃが良き良き♪早速、選ぶ故に妾が言った名前の子をマイクで呼ぶのじゃ」


「了解!実際に歌やダンスは見なくて大丈夫なの?」


「妾は神故に見らずとも解るのじゃ。早速名前を言う故に準備をするのじゃ」


「はいは〜い」


 一応、別審査員でオーディションの雰囲気を作りながら実際はアマテラスが名前を上げた人物を別室に呼び出す形を取っていた。選ばれた少女達は少し不思議そうな、しかし、希望に満ち溢れた表情をしていた。困惑しているのはオーディションの手応えがなかったのかもしれない。


「さて、妾はアマテラスじゃ。こちらではマツダイラ=サクラコと呼ばれておる。そなたらは選ばれしもの達よ。獣人として共に生きる覚悟はあるか?」


 皆は一様に頷いた。アイドルとして生きることを言っているのかと思ったからだ。


「その意気やよし。では目を閉じるのじゃ」


 言われた通り目を閉じた彼女達を光が包む。そして、彼女等をそれぞれの適正にあった獣人へと変えてしまったのだ。その瞬間、男は薄々勘づいていたことが正解だと気付いたが、もう手遅れなのでやはり現実逃避した。


 少女達は自身の変質に驚きはしたものの、元からそうであったような充実感に包まれており、奴隷のような時代に本気でアイドルを目指すような気概の持ち主だったので「まあ良いか」と納得した。そして、ここに五人の聖女が完成したのである。


「のぅ。前々から思っていたのじゃが、あの信者が見せるあの奇っ怪なキレのある動きはなんじゃ?」


「あれはオタ芸というヤツだよ。まあ、喜びの舞みたいなものかな?」


「ふーむ。なるほど。ならば、そのおたげーとやらにこんな動きを取り入れさせることはできるかのぅ?」


「うん?まあ、ちょっと高度な動きは直ぐには無理だろうけど簡単なヤツなら入れれるんじゃないかな?」


 そして、アマテラスはオタ芸の中にカポエイラの動きを徐々にはめ込む事で信者の戦闘力を強化していった。


 遂には信者の数は祭事に参加しないものを含めれば推定七千万人に到達。世界の並居るアイドル達を押し退けて頂点になった。




「アマテラス様。そろそろ作戦、決行のお時間です」


 五人の聖女の一人が言った。アマテラスは手向けの花を墓標に置くと手を合わせてーー。


「そなたの功績は忘れんぞ?中々奇っ怪な話ばかりであったが信者を集め、忠義を尽くした......誠に天晴じゃった。しかしながら、最後は人として死にたいとは悲しいことを言う。きっと獣人になれば素晴らしい未来もあったろうて」


 男は彼女が頂点になる頃に大病を患った。彼が望めば回復も可能であったが、彼は夢を叶えた今の状態で生を終える事を選んだのだ。


「さて、そろそろ行くかのぅ。陽はまた昇る。我が国は今日を以て生まれ変わるのだ」


 かくしてアマテラス主導による大規模な奴隷解放運動が決行された。未知の力を持った集団に他国は最新兵器や核などを使用したがアマテラスが手を叩けば全てが解消した。ドームに集まったものから一気に獣人に変えていって戦力を増やした。少女が多かったのは適性の高い者が多く、敵を欺き易かったからだ。そして、五年の月日を経て自治権を得た結果、大陸の国も何国か取り込んだ。そして、国名をライジングサンに変えて、再度大国の道を歩み始めたのである。


 アマテラスはその後もアイドルとしての活動を続けた。老いの少ない彼女は十六の姿のまま二千年は生きたので、五人の聖女は自身の子供達に一子相伝でアイドルとしての振る舞いを教え続け、アマテラスの側に置き続けた。


 アマテラスが人の生を終える最後の祭事の日ーー自身の子供に全てを教えて信者の前に立った。彼女は喜びを現す光る棒サイリウムを振る信者達の前でマイクを持って叫んだ。


「我が子達!今後はもっと平和な世の中を築くのじゃ‼︎信者として、これからも一族を支えておくれ!みんな最高じゃ‼︎」


 かくして、ここに平和宣言がなされた。マイクを置いて会場を去ったアマテラス。彼女は歓声に答えながらもこう思った。


(やはり何か違うのぅ。まあ、良いか)


 首を傾げながらこの世を去るのであった。




 エルフレッドは本を閉じた。少し眉間の辺りをグリグリして本を元の場所に戻すと呟いた。


「これは......フィクションだよな?」


 実は最も正しい救世について書かれた本だったが今のライジングサンの人さえも全く信じていない。しかし、読み物としてはまあ、面白いので広く広まっているのである。


 そう答えは、やはり何か違ったのだ。

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