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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(下)
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頼れる先輩達は卒業し、エルフレッド達は春休みを迎えた。紆余曲折の末、付き合い始めたリュシカとエルフレッド。二人はある種の非公式ながら会えば楽しい日々を過ごしていた。とはいえ、春休みはどうも会えそうもなく時間を持て余している彼が取る行動ーー。それはもう決まったようなものである。

 一年が終わりを告げた。来年も担任ですか?の質問を煙に巻くような言葉で濁したアマリエの様子に一年Sクラスの生徒達は首を傾げながらも修了式を迎える。一年生Sクラスでの昇降格は無かった二年Sクラスではアードヤード王立学園の歴史を変えるような昇降格があったそうなーー真相は定かではない。


 春休みの初め、オープンキャンパスはやはり関係無かったーーというより、それ目当てで集まられても困ると故意に係を外されたエルフレッドは一旦、新邸宅へと帰還した。逆にオープンキャンパスが終わるまでリュシカは忙しいらしく、あまり会えそうも無いので治療の日に以外は暇となったのだ。


(俺目当ては駄目でリュシカ目当ては良いという学園の判断は解せんがな)


 贔屓目に見なくても自分より彼女の方が人を集めるだろう。秘密とはいえ付き合っていることも大いに関係しているエルフレッドは何だかかなり微妙な気分であった。


 だから、という訳では無いがエルフレッドは一年生の終わり頃、一回目の偽装デートでアーニャから聞いた情報を元に暴風の巨龍に会いに行こうと考えていた。


 無論、本討伐では無い。チャンスがあれば狙う可能性もなくはないが同属性の巨龍とはそれだけで厄介なのである。エルフレッドは自身の風魔法が最高峰だという自負はあるものの、最強かと言われればハッキリと頷く事は出来なかった。今までの巨龍を思い返せば魔力、質、共に自身を上回っていた。場合によっては風魔法全般が効かない可能性を考慮しなくてはならない。


 そして、そうなった場合、エルフレッドが取れる手段は風魔法による一部の補助と無属性魔法だけとなるのだ。相当厳しい戦闘を強いられる。先ずはその確認がしたいというのが本音である。風魔法が通用するのかしないのか?そして、相手の風魔法こちらに効くのか効かないのかーーそれを確認して本討伐となる夏季休暇に繋げることが出来れば勝機が見えてくるのだ。


 早速、エルフレッドは転移を使ってライジングサンを目指す。世界大会の会場として一度行ったことがあるため、転移を使えば一日掛らず向かうことが可能だ。入国審査の程度によっては今日の夜にでも入国出来ているだろう。


 暴風の巨龍[ビャクリュウ]。その強さは如何ほどか?


 エルフレッドの興味は限りなく高かった。












○●○●














 マスクにサングラスに深く帽子を被ったノノワールは背後から着いて来る足音に苛立ちを隠せずにいた。


(私、男には興味ないって言ってんじゃん......本当に気持ち悪い)


 場所は小国列島。沢山の小国家を纏めて大国相手と平等の条約を結ぶこの列島は、独自の身分証を持っていれば入国審査無しで行き来出来るなどの方法を使って貿易を自由化ーー、全ての国を合わせれば大陸四国にも勝るとも劣らない力を持っていた。


 そんな特殊な国でのオリジナル舞台の記念すべき初公演を終えた夕方頃、本日宿泊予定のホテルへと向かう途中、彼女は何者かに付け回されていた。


「......エルちんやアルに会って折角印象変わってきたところだったのに......」


 性別で差別をしない彼女ではあるが、稀に彼女の性別を理解しようとしない男性から言い寄られたり、ストーカーをされたりで少々嫌悪感を抱いているところがある。特に有名人のファッションなんちゃらだろ?と失礼極まりない難癖をつけられた時の自身を否定される感覚は未だに怒りや悲しみが深いのだ。


 だから、逆に言えばエルフレッドやアルベルトは彼女にとって大事な友人であり、特に綺麗な女性ばかり掻っ攫って羨ま妬ましいーー割と本気でーーエルフレッドは唯一の親友と言っても良い仲である。女性陣とは親友ではないのか?と聞かれれば申し訳無いが、親友にはなれないだろう。何故かと言えば単純に自分が彼女達を()()()()()()として見ているからだ。そして、エルフレッドが遂に絞ったのでチャンスがあるくらいに思ってもいた。


 まあ、当然、そうは言っても友人関係を壊してどうこうしようという気持ちは更々無く、あそこの女性陣とは健全な仲で終わりそうだとも思っていた。それはさておき、そんな親友達のお陰で変わりつつある印象をこうして破壊されるのは凄く腹立たしい。何よりこっちの事を理解出来ない人物の事を理解しようと思うか?と心の中は悪態の限りであった。


 しかし、しばらく歩いていると何時ものそれとは違うような違和感を覚えた。具体的に何がとは言わないが憎悪というか悪意というか、どうも自身を好きで追って来ているような感じではない。寧ろ嫌悪しているような寒々しさがあるのだ。ノノワールは何が何だか怖くなってきたが、こういう時に逃げたって仕方がない追われるだけだと解っていたので、逆に啖呵を切ってやろうと振り返ったのである。


「あんた‼︎追って来るんじゃないわよ‼︎私は男に興味がないって言ってんじゃん‼︎気持ち悪いんだけーー」


 ノノワールは言葉を失った。その追ってきた男の様相があまりにも恐ろしかったからだ。身長はゆうに2mを超えている。何らかの薬でドーピングしているのか全身に筋肉が異常に肥大化しており、血管が浮き出ている。目の位置が左右でかなりズレていて焦点もあっていない。ガタガタの歯並びで犬歯が牙のように鋭く、噛み合っていない口からは涎が垂れている。髪の毛は疎らで自身の容姿に気遣う様子が一切見られない。ボロボロの服をきた人物ーーいや、もはや、化け物である。


 その男は妙に滑舌が悪い声で意味もなく首を揺らしながらノノワールに言った。


「お、おで、お前、女と思ってた。男、興味ない。お前、男か?」


 ノノワールは恐怖で歯がなりそうになったが、自身の性別には譲れない物がある。


「お、男でも女でもないけど?ど、どちらかと言えば男に近いんじゃない?」


 噛みそうになりながらも、そう答えると男は笑ったとは思えない口角の上げ方で笑い。


「おで、お前、何言ってる、わからない。でも、女じゃないなら、間違えた。ご、ごめんな、あは、は、あはあ」


 グラリと巨体を揺らし妙な回転で踵を返すと男は路地裏の方へと歩いていき、いつの間にか姿を消していた。完全に気配が消えて居なくなった男に、恐怖を抱いたままの彼女は全身を震えさせて腰を抜かしたまま呆然と呟いた。


「な、何だったの今の......?とりあえず、誰かに連絡しないと......」


今の状態では一人で帰るなど出来そうにも無かった。その人外を思わせる姿が脳裏に焼き付いて離れないのである。とりあえず片っ端から連絡先を見て、一瞬エルフレッドに連絡しようと思ったが彼が小国列島に来れるかどうかなんて解らない。


 なのでダブル主演として一緒に来ているメイカへと電話を掛けることにした。


「ご、ごめん、メイカちゃん。わ、私、危ない奴に襲われかけて、ひ、一人でか、帰れなくなっちゃった」


 その声の様子から何時もの冗談とは違うと判断したメイカは慌てた様子で「直ぐ行くから、近くに何があるかだけ教えて‼︎」と声を上げる。近く、と視線を巡らせて、緑地公園の文字が目に入り、それを告げると「場所は解った!!三分で着くから‼︎電話は切っちゃダメよ!」と彼女が走り始めた音が電話越しに聞こえる。


 漸く落ち着いて来たノノワール。しかし、立てるようになるにはまだまだ時間がかかりそうである。


(ごめん、メイカちゃん。振られたのにまた好きになりそう......)


 そんなことを考えてしまう彼女はメイカが来るまでにさっきの男が戻って来ない事を祈りながら携帯端末を抱きしめて震えるのだった。

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