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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(中)
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第四章(中)エピローグ

 その日の夜ーー。


 先輩達と別途でお別れの会を開きたいという仲の良い友人達の言葉に賛同したエルフレッドは自身の部屋で料理を作りながら先輩や友人達が来るのを待つ。


「あ〜泣いちまったぜぇ。たく、レーベンの奴が良いことばっかり言うから困っちまうぜ」


「とか言っちゃてさあ。結構早い段階から泣いてたじゃん?まっ私も人の事は言えないけど......」


 そんなことを言いながら最初に現れたのはサンダースとエルニシアだ。二人は友人として本当に仲が良かった。他国の高位貴族であるエルニシアと大学進学からとはいえホーデンハイド公爵家の婿養子となるサンダースとではこうした話は早々出来なくなるだろう。無論、メッセージアプリくらいは話せるだろうが、互いが互いの国の為に動かないといけなくなるのは遠くない話だ。


「ありがとな!世界最強君!おかげで皆と最後の別れがちゃんと出来そうだぜ!」


「そうそう。私なんて国も違うから中々会えなくなるしね。計画もあるからね。だから本当に感謝してるって感じでさ。ありがとね!」


「サンダース先輩もエルニシア先輩も世界大会までお疲れ様でした。後、リュシカの件でも大変お世話になりました。本当に感謝致します」


 彼が告げると二人は顔を見合わせて笑いーー。


「良いってことよ!それにしてもなんか付き合い始めたばっかりなのにもう旦那って感じじゃね?」


「それそれ!それに婚約の件も聞いたけどさ。エルフレッド君なら上手くやれると思うからちゃんと最後まで頑張りなよ!」


 その言葉には流石のエルフレッドも苦笑せざるを得ないが激励の意味も込めてと考えれば少し胸が暖かくなる思いである。


「ありがとうございます。彼女にはついては特に諦めたくない気持ちが強いので、どうにかシラユキ様に納得して頂こうと思います」


 いつものノリで「ヒューヒュー!!熱いね!このこの〜!!」とからかってくる二人を「まだ準備の途中ですからね?大人しく座ってて下さい」とあしらって彼は料理をテーブルへと並べ始めた。


 次に現れたのはカーレスとラティナだ。カーレスはレーベンと一緒のイメージが強かったが、よく考えてみれば共に軍人となる身である。所属する部隊は違えど共通する部分があるのかもしれない。


「カーレス先輩、ラティナ先輩。卒業おめでとうございます」


「エルフレッド君、今日はありがとう。私達も後輩の皆とちゃんとお別れしたかったから、送別会の開催を嬉しく思うわ」


「俺もだ。それにエルフレッド殿とはリュシカの件でゆっくりと話したかったから助かる。と言っても大した話ではない。今後は俺達が学園に居ないから代わりに確りと守って欲しいという内容だ」


 協力者の存在は変わらないが単純に学園や普段の生活などで守る人物が減ることに不安を覚えているのだろう。レディキラーなどは不確定な部分が多い為、そう考えてしまうのも無理はない話だ。


「確かに心配になるとは思いますが一年Sクラスのメンバーが全面的に協力してくれます。アーニャ、ルーミャが表立って協力出来ないことはネックですが......先輩方には劣る分はどうにか話し合いたいと考えております。情報共有などまだまだお世話になるかとは思いますが、よろしくお願い致します」


 先輩方には劣ると言ったが自身が確実に動けるならば劣ることはない。だが、巨龍討伐を考えれば絶対に隣に居るとは言えないのだ。確かに考えることは増えたが、それが即ち討伐を辞めることには繋がらない。


 ーー精々、迷っているのはアルドゼイレンとの戦いくらいだ。実害もない巨龍を倒すべきなのか?自身の傲慢では無いかと常々考えている程度の話である。


「エルフレッド君は真面目だし計画性があるから大丈夫とは思うけど......困った時は何時でも連絡していいわ。元生徒会のメンバーは皆そのつもりよ?」


「ありがとうございます。先輩方には何時もお世話になっております」


「ハハハ、そう言われると悪い気はしないが何時も世話になっているのはこっちの方だ。クレイランドの件もリュシカの緊急搬送の件もな。個人としては恩返しをせねばならないと考えていたところだ」


 隣のラティナも笑いながら頷いてーー。


「私だって軍人になる夢を叶えられたのは正直、エルフレッド君の力が大きいと思っているわ。それにここだけの話だけどエルニシアだって進路で凄く困っていたわ。私は親友として助けてくれたことに本当に感謝してるわ」


 彼女は耳打ちのように言ったが「それ私が改めて言おうと思っていたヤツだから!!何で言っちゃうのよ!!」と冗談めかして怒られている。


 ラティナは「つい言っちゃったわ。悪気はなかったのよ?ごめんね?」と謝った後にチロッと舌を出して「怒られちゃった」と悪戯げに微笑んだ。


「まあ、そういうことだ。三年生もエルフレッド殿には恩義を感じている者が多い。自身で稼げるようになって何れはとは考えているんだ。まあ、春頃だろうから気長に待っててくれると助かる」


 取りまとめるようなカーレスの言葉に便乗するかのようにサンダースが「てか、全員じゃね?俺だって家の婚約者殿が一時は曇ってた表情から本当の笑顔を見せてくれるようになったのは、最強君がフェルミナちゃんを助けてくれたからだし?まあ、最強君が責任を感じてたようだから言わなかったんだけどな。ボーデンハイドもカーネルマックも誰一人として責めちゃいない。そろそろちゃんと感謝させてくれよ」と微笑んだ。


「サンダース先輩にはバレていましたか......中々、自分の中での折り合いが難しい問題でした。ですが、そろそろ自分の中で決着をつけたいと思います」


 結局、周りは結果良ければ全て良しと思っていて、責めているのは自分だけなのだ。いい加減、反省し尽くして感謝を受け入れなくてはならない時が来たのかもしれない。


「難しいのは解るからなぁ。こっちは気長に待ってるけどよ?何たってこっちは大学進学だから?後四年は猶予があるぜぇ?」


「それはあんたの都合でしょ!!他の家の人々が待ちくたびれるっての!!」


 呆れながらツッコミを入れるエルニシアに「そりゃあそうなるか!!」とサンダースは爆笑した。


「あれ?もう三年生は皆到着してるのかい?まさか僕が最後だとは思わなかった」


 待ち合わせ十五分前到着のレーベンが不思議そうに時計を見ている。


「レーベン王太子殿下。卒業おめでとう御座います。多分、三年生の皆さんが早いだけです。準備も完全では無いですし、一年生は誰一人として来ていません」


 微笑みながら現状を伝えるエルフレッドに笑いながら「そうだよね?ちょっと心配になってしまったよ。それにしても今日はありがとう。あと今日までならレーベン先輩で大丈夫だよ?」とレーベンは席に着く。


「......殿下の事を一度でも先輩呼びしたことありましたか?」


「あれ?してなかったっけ?それはそれで残念だけど」


 彼は少しすっとぼけた様子で肩を竦めた後に微笑んでーー。


「まあ、それはさておき。エルフレッド殿には我が国の英雄として、これからも世話になるだろう。周りの皆を救ってくれたようにこれからも協力してくれると有り難いな?」


「勿論です。この身は既に王国への忠誠に捧げております。私の力が必要な時はなんなりとお申し付け下さい」


 騎士礼をしながら告げたエルフレッドに「ありがとう。こちらも最大限の恩賞で応えよう」と微笑んだ。


「お〜い!エルフレッド!一年生の準備は済んだぞ!ーーって三年生、全員集合ではないか!」


 高価なシャンパンと共に現れたリュシカを筆頭に両殿下、ノノワールと驚いた表情を見せる。


「こうなったら仕方ないねぇ〜?サプライズ失敗につきシャンパン、ポンしよぉ」


 と尻尾を振りながらシャンパンを小気味良く開けたルーミャにアーニャが「言わなきゃサプライズだったミャア」と呆れた様子でシャンパンの蓋を飛ばした。


「三年生の皆様おめでとうございます♪サプライズで〜す♪」


 と全てを無かった事にして、あくまでもサプライズの体でシャンパンの蓋を飛ばすノノワールにリュシカも便乗して蓋を飛ばした。


「全くやれやれだねぇ」


 と七面鳥の丸焼きと共に現れたアルベルトを見てレーベンは微笑みながらーー。


「僕達って本当に締まらないねぇ?」


 カーレスは肩を竦めながらーー。


「こういうのが俺達らしいのだろうなぁ」




 何れは歴史に名を残せるであろう伝説の世代、三年Sクラスの面々はこうして学園を旅立っていったのである。彼等の未来がどうなるか今はまだ解らない。


 だが、もし何か偉業を成し遂げたその時はエピソードとして挙げていきたい。賢くチームワークに溢れ、個々の能力も高い。そんな彼等の未来が幸多いものになることを心から祈っている。

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