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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(中)
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 リュシカの希望で花束とネックレスを着けた彼女の姿を画像に納めてメッセージで送ると彼女はその携帯端末さえも愛おしそうに抱きしめていた。ネックレスはそのままに花束を空間魔法に仕舞うと残りの時間を今後の計画に当てる。


 無論、堅苦しい話ではない。食事の雰囲気を大切にしたまま秘事ながら誕生日はどう祝おうか?訪問はどう隠そうか?などと今後のイベントごとをどう楽しむかを計画しているのである。


「誕生パーティーに関しては普通に参加すればいいが、二人で祝う時間を作るならばヤルギス侯爵邸へは転移で迎えば隠すことも容易そうだな」


「そうだな。家の家族はエルフレッドのことを認めてくれているから、きっと協力してくれるだろう」


 そんな話をしながら笑い合っていると終わりの時間が近づいてくる。楽しい時間、幸せな時間は瞬く間に過ぎて行くのかと思うと名残惜しく離れ難い。とはいえ、あまり遅くなれば様々なリスクが生まれる。護衛がいるとはいえ、リュシカが馬車に乗って帰らないといけないことを考えれば暗くとも人通りがある内に帰るようにするのが一番であろう。


「そろそろ......だな」


「ああ......最後に」


 立ち上がった彼女が近づいてきて腕を広げた。エルフレッドは気恥ずかしく思いながら彼女を抱き締める。


「ふふ。本当に幸せだ。夢ではないと解っているが夢ならば覚めないでほしいくらいに幸せだ」


「そうだな。覚めない夢ならずっとこうしても居られようが......」


「恥ずかしくなるようなことをーーまあ、でも確かにそうだな」


 ゆったりとしたジャズでも踊るかのように体を揺らしながら暫くそうしていた二人は一旦、見つめ合うとその体を離した。


「エスコートは?」


「よろしくお願い致しますわ」


 しっかりと切り替えて牡丹の間を出た二人の間には、しかし、それでも隠せない程の幸せな雰囲気が漂っているのであった。













○●○●













 二月も後半となりエルフレッドは社交の為に別宅へと訪れている母レイナの元へ向かう。理由は単純で告白の日に呼び出されたからである。結果報告時もおめでとうの言葉より怒りの言葉の方が多かったことを考えると憂鬱な時間になるだろうことは容易に想像できた。


「お帰りなさいませ。エルフレッド様」


 レイナが引き連れている侍女軍団に頭を下げられながら手で答えた彼はお付きの役目も果たしている侍女長へと話しかけた。


「お出迎え感謝する。して、母上は何方に?」


「お帰りなさいませ。エルフレッド様。レイナ様は食堂にてお待ちです」


 紅茶でも飲みながらゆっくり話そうと言うことか。話が長くなりそうだと内心溜め息を吐きながら彼は頭を掻いた。




 食堂に向かうと努めて冷静であろうとする母の姿が目に入った。


「連絡が遅くなって申し訳ありませんでした」


 視線が合うや否や溜め息を漏らした母親に頭を下げると彼女は「確かにその事もありますが......」と苦笑した。


「そもそも高位の御令嬢や王族の殿下との婚約話などはそれなりの根回しが必要なのです。リュシカちゃんについては相手がその気だったこともありますが、アーニャ殿下の話などは寝耳に水ですよ?貴方だけの問題では済まないのです。厳重に箝口令を敷くなりして隠さねばライジングサンとの国交に関わってきます。アーニャ殿下の協力はあれど、もっと早く相談して頂かないとーー」


 ぐうの音も出ない彼は「申し訳ありません」と再度頭を下げる他なかった。それから社交の重要性を軽んじていることや自身で連絡すべきだったことをアーニャ殿下にしてもらっている件をくどくど怒られて彼は平謝りを繰り返した。


 母親の怒りが治まるには一時間ほどの時間を有した。そして、どれも正しい事過ぎて弁解の余地も無かった彼は精魂尽きて項垂れた。


「説教は以上です。そして、これからは単純に褒めましょう。我が息子ながら、まさかリュシカちゃんをGETするなんて良く頑張りました!母としては最も嬉しい選択です!」


 キャハ!!と少女の様なとても良い笑顔で告げる彼女にエルフレッドは変な笑いが出た。良い歳した母親のそんな姿を見るのは息子としては非常に微妙なものがあったが喜んでいるのなら、幸いだ。彼からすれば好きな相手が彼女だっただけだがレイナからすれば、それ以上の価値があったらしい。


「まず家柄は国内トップ!!あのヤルギス公爵家の御令嬢ですから他髄を許しません!!それにメイリア様と私の関係は良好!!家族仲も良好ですから何も心配ありません!!そして、リュシカちゃんの人間関係においてもエルフレッドがフォロー出来ますから公の場での問題は無し!!何よりーー」


「......何より?」


 感情が昂ぶると妙に劇がかってくる母親が席を立ちながら手を広げてクルリと回り腕の前で手を組んだ。「奥様......」と咎める侍女長の声など全く聞こえていない。彼女の居場所はもう自分の世界だ。


「リュシカちゃんはありえない程可愛い!!そして、性格も良い!!全っ然擦れてない!!嫁姑問題は心配無し!!大貴族の令嬢なのにあんな風に育つなんて、きっと大聖女の娘だからよね〜!!私、娘が出来るならああいう娘が欲しかったの〜」


 と星をキラキラと輝かせながら楽しげな笑顔を浮かべていた彼女は突然ニヒルな笑みを浮かべてーー。


「私の娘だったら、ああはならないけど」


「奥様......」と悲痛な表情ながらご自身の事を良く理解してらっしゃると頷く侍女長の両方を視界に入れていた彼は「......その母に育てられた俺はどうなる?それに上手くいったとして嫁に来るのだからな?」とツッコミをいれた。


「息子と娘じゃあ見て育つところが違うのですよ。それに嫁に来たら娘になります。嫁はあくまでも嫁って扱いの方が酷いでしょう?本当に解ってないですね......」


 全くやれやれです。と肩を竦めながら首を横に振る母に苛々しながら「そんなことを言いながら一緒にショッピング行ったりランチ行ったりしたいだけだろう?嫁に構い過ぎてウザがられる姑の典型だな。大体まだ上手くいくと決まった訳ではーー」そう眉を顰めるエルフレッドの言葉に彼女はムッとした様子でーー。


「ショッピングやランチに行って何が悪いのですか!!仲が悪いよりは百倍良いでしょう!!ーーそれにですね。上手くいくか解らないなんてそんなに自信が無いのですか?そっちの方が大問題でしょう?」


 何処か挑発的な視線を送る母の姿が何処かで最近見たことがあるように思えたエルフレッド。少し驚き困惑したが一変して真っ直ぐな視線を母へと向けた。


「そんなことはない。絶対に共に生きると決めた。それ以外の道はない」


「ーー流石、私の息子。彼女のかの字も無い頃から家族より彼女が大事と言うだけのことはありますね?頑張りなさい」


「無論だ......とはいえ、そんなこと言ったか?」


 記憶の中に無く首を傾げる彼に「かの字もない頃と言いましたよね?確か四歳くらいの時だったと思います」と笑った。相手は強大だ。大国の一つライジングサンの女王である。謀るのは相手の得意技でもあった。


(それでも諦める訳がないがな)


 メラメラと湧き上がる闘志ーーその闘志はまるで巨龍討伐でも行くかのような熱に燃え上がるものであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 恋愛関連の話以外 [気になる点] 恋愛関連の話が長すぎる いつまでたっても進展がないく読んでいても面白くない それ以外はとても良かった
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