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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(中)
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 同時刻ーー。部屋で満月を見ながら日本酒を楽しんでいたルーミャは突如自身の瞳からポタリと落ちた雫に首を傾げた。何が悲しい訳ではない。感情に何かあった訳でもない。


 暫く考えて彼女は「あ〜、そゆことぉ」と呟いた。


「よく頑張ったねぇ。お疲れ様ぁ」


 誰に言うまでもなく呟いて携帯端末にメッセージを送る。


『ヤッホ〜!明日は休みだから眠れない時は月見酒付き合うよぉ〜』


 程なくして既読が着いた。言葉少なく『行くミャ』と返信してきたアーニャのメッセージを見て彼女は微笑むのだった。













○●○●













 その日の朝、エルフレッドは柄にも無く緊張していた。プレゼント選びから髪型、服装と選ぶことは選んだが当日になってこれで良いのかと悩み始めたのだ。早くから空いているジュエリーショップを眺めてはやれリングは重い、ピアスは穴の大きさはどうだったか?イヤリングはどうだろうか?ネックレスは無難すぎるかーー。


 などと悩むだけ悩んでいるのである。貴族の告白なので花は欠かせない。薔薇の花の本数は何本が最適か?意味はどうだったかーー。悩めば悩む程、ドツボにハマるのである。そんな様子もあってか巨龍討伐や移動以外で初めて訓練をしなかった日となった。それは訓練が生活の一部になっている彼からすれば最も有り得ないことでもある。


 グダグダと書いたが要するに尋常じゃない緊張に襲われていたということだ。今も三本の赤い薔薇にするか、十二本の赤い薔薇にするかで迷っているのである。察した花屋の店員さんが「大事な時ですからゆっくり選んでください」と言う程に見てて分かりやすいほどの状態だ。


 心臓がどうにかなってしまいそうである。単純な緊張ならば巨龍討伐より酷いと彼は思う程だった。結果、ストレートに十二本の赤い薔薇を予約してエルフレッドは再度ジュエリーショップへと向かった。彼女の誕生月は三月日付は二日ならばアクアマリンかアイオライトの何かを送るべきだろう。本婚約の際にちゃんと作成した物を送る様にして今回は既製品となるが相応の物を用意したいと思っている。


 作成を薦める店員に思い立ったが吉日と今日は告白をする。婚約の際は作成品を送ると告げれば「それならば何点か石を付け替えることが出来る物が御座いますので其方から選ぶことをお薦めします」とカタログを見せられた。アクアマリンに関しては、やはり意味や物を考えて婚約の際が良いだろうと考えた彼は既製品のアイオライトの中で最高級の物を用意して貰って何に嵌め込むかを考える。


 告白に使うと考えれば相応しいものは既に決まっているが、今までの経験の無さがここに来て尾を引いているのである。大体、ここで告白をしたところで婚約となるのは早くて秋ーー遅ければ冬なのである。幾ら偽装したとしてシラユキとの話が終わって日を待たずに婚約するのは常識的にも憚られる。アーニャとて話をつけ次第とは言ったが言葉のそれと最速のそれが違うくらい理解しての言葉だと言うことは解っているのだろう。


 どうにか決めて二時間後に取りに来るようにということで彼はギリギリの時間になった美容院へと転移ーー。自身の髪型や眉毛など整えられるところは全て整えて貰ってマッサージを受けながら話す順番などを考えた。


 元来、伯爵ともなれば家の者が全てを行うのだろうが、昨日の今日かつそういった面の人員不足が否めない今のバーンシュルツ家に置いて充足しているのは母親の侍女と父親の執事のみ。まだ日にちがギリギリでなければ都合も着いただろうが、この状況では致し方無いのだ。


 一応、母親にメッセージで昨日今日の出来事や告白の件を話したところ大層お怒りで散々罵倒された挙句ーー。


『アーニャ殿下に感謝して今出来る最高の物を用意するしかないでしょう。なんで、もっと早く相談しなかったのですか?母は信じられません。リュシカちゃんに会ったら謝らないといけませんねぇ。結果が分かり次第送って下さい』


 と呆れ返ったメッセージを送って来て以降、連絡が途絶えた。既読さえもつかない辺り本当に怒っているらしい。女性は難しいなぁと頭を掻きながら「シャンプーに入りまぁす‼︎」の声に頷いて席を移動するエルフレッドだった。




 準備は整った。全ての準備を終えて尚一時間の余裕が出来た。清潔を保つ為に清めの風を掛けて、落ち着かずに触った髪を鏡で見ながら再度直して仄かな甘さと爽やかさのある香水を纏う。本日はバーンシュルツの馬車で送り迎えをすると何かにつけて揚げ足を取られる可能性があるので店の前に集合することになっている。彼女は無論、公爵家の馬車に乗って来るがエルフレッドは転移で店前に行く予定だ。若干バタバタとする可能性はあるが五分前に向かい、そのままエスコートをして牡丹の間へと向かうのである。


 その為、食事が済んだら再度公爵家の馬車を呼び、帰りのエスコートまで行ったらエルフレッドは転移で寮へと帰還ーー完全に密会の状態で近隣に記者などが入れないよう隠密による最善の注意が取られるようになっている。ここまで来ると逆に怪しく思われるかもしれないが、リュシカが誰と会っていたのかが伝わらないことが重要であり、エルフレッドとバレなければ予想される分には構わないのである。何故ならば、公爵家がそのような事実は無いと否定すれば全てが丸く収まるからだ。


『ピロンッ‼︎』


 リュシカか?と思って連絡を見てみると既読もつけずに無視していた母レイナだった。


『そうかもしれないと思ってメイリア様が準備をしてくれたそうですが、事実確認が取れたのでより厳重に秘匿されることとなりました。事情を知るアーニャ殿下には非常に迷惑を掛けているそうなので絶対に何かの形で御礼をするようにして下さい。後、来週の休みに色々と話したいことが出来ましたので必ず帰って来るようにして下さい。今後の打ち合わせをします。貴方も今後は上流階級の貴族なのですから婚約などの事前連絡は必須です。通常の思春期男性のようにはいかないので包み隠さず連絡するようにして下さい。勝手は許しません』


 当然といえば当然のことを送られて彼は自身に対して溜息を吐きながら『申し訳ありませんでした。以後気を付けます。来週の土曜日は必ず帰りますのでよろしくお願い致します』と送った。やはり、既読はつかなかった。


『ピロンッ‼︎』


 今度は誰だろうか?と思いながら携帯端末を開くとリュシカだった。


『少し早くなった。後五分程で着くが大丈夫か?』


 エルフレッドは時計を見て十五分前であることを確認ーー今から正門に向かって転移をすれば五分ならば間に合う距離である。


『問題ない。急に呼び出して済まなかった。こちらも、そのくらいには着くようにする』


 早速、それらしい衣装で寮を出たエルフレッドは魔力感知で怪しい人が居ないかを確認しながら正門へと向かうと早速転移を発動ーーいつものレストランのオーナーに協力して貰いながら姿を隠した彼はヤルギス公爵家の馬車が到着するのを今か今かと待つので会った。

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