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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第一章 灼熱の巨龍 編
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 その頃、別のことを応援されたエルフレッドはといえば大剣を片手に荒い息をついていた。操られるマグマを躱し、一撃二撃と積み重ねたそれが百を超えた一撃が遂にガルブレイオスを捉えていた。それは首元にある一枚の鱗を砕く程度の物だ。障壁を張り直され普通の人間ならば絶望した事だろう。


(百で一閃、ならば、前回よりも早いな)


 彼の感覚はそんな常識的なものではない。前回のジュライなどは木々の間を走り回りながら三日三晩戦い続けた。それに比べれば遥かに早い一撃だ。しかも、相手は弱点属性である。自身が強くなったか相手の個体が弱い個体なのかーー、と頭に思考が掠める。


 息を軽く整えたエルフレッドは多めに息を吸って走り出した。ガルブレイオスが放つ大人の身長程の大きさがある炎弾が障壁を削りながら彼の体を掠って小さな火傷を作っていく。


「ハアアア‼︎」


 気合と共に魔力を乗せた一閃がガルブレイオスの障壁を大きく削った。巨龍は嫌がるように、しかし、それだけで地面を押しつぶすかのような踏み潰しの一撃を繰り出す。それをエルフレッドは前回り受け身で回避してガルブレイオスの足を狙う。


 ガリッと、その強靭な鱗に傷をつけて風に身を任せるようにして後に跳ぶ。次の瞬間先程までエルフレッドが居た場所をガルブレイオスが操るマグマが襲った。地面を溶かし、地面を砕き、繰り返しになるが常人が喰らえば一瞬で終わる一撃である。エルフレッドとて何度も喰らいたいものではない。


 マグマがエルフレッドを走らせるように迫ってくる。ガルブレイオスは受けに徹するのを止めたようであった。咆哮を放ち、マグマの行く執着点を自身に定め、更に距離を詰めるように飛び掛かった。


「チィ‼︎」


 温存していた魔力を使い横に飛翔ーーマグマと激突しているガルブレイオスの背中に回り込んで尾へと向けて斬撃を放った。


 グルリと反転して大翼で打ってくるガルブレイオスとの攻撃を寸でのところでクルリと躱した彼は回転のままに大剣で凪いだーーが、その一撃は擦り抜けた。その大翼で飛ぶ程の密度を保っていたそれがまるで焚き火を払ったかのような手応えのなさになっていたのだ。


 そして、その時産まれた一瞬の隙を見逃す程ガルブレイオスは甘くなかった。無慈悲に払われた逆の大翼による一撃がエルフレッドを吹き飛ばす。轟音と共に壁まで吹き飛ばされたエルフレッドは爆散するような衝撃に目の前を星が飛んだように感じた。


  ガラガラと崩れ落ちるそれから溶岩へと落下ーー、ドプンと粘性のあるそれへと沈んでいった。














「炎の祝福が無ければ死んでいたな」















 ザパンッと溶岩を払いながらエルフレッドはウインドフェザーにて飛び立った。体を覆う炎の精霊の力がエルフレッドを守ったのだ。ガルブレイオスの攻撃には対しては効果がないように感じていたが密度なのか、それとも単純な温度なのか、ガルブレイオスの炎は溶岩よりも熱いらしい。


 更に言えば壁に激突する前に障壁が間に合った。身体が爆散するかのような衝撃も何もないままに壁に叩き付けられるよりかは抑えられたハズだ。しかし、それだけだ。風の障壁を突き破った相応の密度の大翼に打たれ左腕が爛れた。そして、衝突の衝撃で頂頭部が割れた。ドロリと流れてきた血が視界を汚す。


 エルフレッドはガルブレイオスの動向を見ながら中級風魔法"癒やしの風"で頭の傷だけ直し、最も早く届くと考えたのだろうーー尾による凪払いを飛んでやり過ごすと漸く地面に降り立って態勢を整える。


(一撃でこれとはな......全く嫌になる種族差だ)


 こちらの数発は掠り傷程度、相手の一撃は致命傷ーー。それがエルフレッドの選んだ戦いである。炎の祝福によって戦う土壌こそ対等に整えられているがそもそもの地力が違い過ぎる。その違いこそ彼が最強の証明と考えた所以だ。


 この状況を好機と捉えたガルブレイオスがマグマの雨を降らし襲い掛かってくる。鋭い爪で地を掴み、四肢に力を込めて一気に距離を詰める。噛み付き、引掻き、襲い来るマグマ、大翼の乱舞。


 エルフレッドは防戦を強いられた。その壁のような体躯と左右から迫りくる大翼が彼の逃げ場を塞ぐ。焼け付くような四肢とマグマの雨が彼の身体を焼いた。火傷が増え、裂傷が増え、体力が減り、魔力が減りーー、身体が死へと近付いていく。気を抜けば意識を持っていかれそうな状況に視界が掠れを覚える。


 その死に体を思わせる状況でエルフレッドは大剣を下ろしーー。













 背筋が凍るような笑みを浮かべた。













 瞬間、ガルブレイオスの巨体が後方にひっくり返る。大きな音を立てて無様に倒れる等、今までの生涯で経験したこともないだろう。エルフレッドが行った攻撃は風力の吹上をプラスしたアッパースイング。その一撃がガルブレイオスの隙を突いた。その大きな顎をかち上げ脳を揺らしたのだ。


 あの死ぬかも知れないという状況の中で防御を捨てて自身を"破壊"しながらもカウンターを狙えるこの感覚こそがエルフレッドが忘れたくなかったものだ。


 巨体をガクガクと揺らし起き上がろうとする巨龍を前にエルフレッドは大剣が振れる程度に体を回復させると震える巨体に向けて猛然と襲いかかった。全身に最大限の魔力を張り巡らせ背を向ける相手の尾を踏みつけながら跳躍し、その長い首へと大剣を振り下ろす。


 その一撃は鱗を砕き巨龍より初めて鮮血を吹き出させた。


 しかし、足りない。その一撃では首を落とすに至らない。再度大剣を振り上げたが、その一撃を振り下ろすよりも早くガルブレイオスは障壁を張り巡らせて大翼を狂ったように振るって打ち出した。それを風魔法を使った後方への跳躍にて難無くやり過ごしたエルフレッド。だが、それは一度目の絶好のチャンスは逃したということに変わりない。


 とはいえ、あの状態で放てる一撃にあれ以上はなかったのだが......。


 エルフレッドは怒りに滾り、しかし、警戒するような視線を向ける巨龍を前に自身の全身へと回復を施す。失った血、体力は戻らないが傷は癒えた。その代償として魔力の総量は遂に半分を切った。


 大剣を肩に担ぎ隙を伺うエルフレッドとガルブレイオスの睨み合いが始まった。吹き抜ける風と沸き立つマグマの音だけは鳴り響く。


 その時には既にガルブレイオスと相対を始めてから半日の時間が流れていた。

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