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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(中)
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6

 彼は満足げに頷くとフワリフワリとした特徴的な移動方法ーーそして、三体の精霊を纏わせた特別な気配に出迎えの人物を察してーー。


「リュシカ。手を」


「有難う。エルフレッド」


 エスコートに差し出した手に手が置かれた頃、迎えの人物であるアリエルが姿を現した。


「エルフレッド様。そして、ヤルギス公爵家の姫であられるリュシカ様。私達は御二人を歓迎致します」


 彼女が丁寧にカーテシーを行うのに対してリュシカもカーテシーで答えた。


「エルフレッド様から御話は伺っておりますわ。アリエル様。嘗ては長きに渡りエルフの王族として過ごされた方々を同列の公爵家として扱うのは心苦しい物がございますが、これも何かの縁だと考えております。お困りの際は何なりとご相談下さい」


「有難うございます。リュシカ様。心苦しく思う必要はございません。全ては私達の意思で御座います。同じ公爵家として友好関係を築いていきたいという気持ちは私達も変わりません。今後ともよろしくお願い致します。それにしても噂は予々伺っておりましたが十六際にして傾国の美を謳われるリュシカ様は本当に美しい方で御座います。貴女様の前では容姿端麗を謳われる私達も霞んでしまいますわ」


「そんなこと......アリエル様のように美しいエルフのお姫様からそんなことを言われては私も喜びよりも困惑の方が勝ってしまいますわ」


 気恥ずかしさに顔を赤くしながら微笑んだ彼女に「いえ、事実ですよ?お世辞では御座いません......楽しみにしております」と優しく微笑んだアリエルだった。


「では、エルフレッド様の魔力で快適でしょうが長居しては疲れてしまいましょう。それに城に向かう前にリュシカ様には街の観光地などを案内して回る予定で御座いますから、そろそろ参りましょう」


「よろしく頼みます。エルフの街の幻想的な雰囲気は私もオススメしているところで御座いますから是非案内頂きたいと考えておりました」


 エルフレッドが微笑みながら告げれば「ふふっ。そのように言われては私も張り切るしか御座いませんね」と彼女は自信有り気に笑って見せるのだった。




「凄く美しい場所ですわ!ーーほら、エルフレッド!あの薄らぼんやりとした仄かな光!あれが精霊か?」


「ああ、そうだ。あの飛び回っている光全てが精霊なんだ。そして、遠目から見えるあの白の大木ーーあれが王族の方が住まう王城だ」


「はぁ......これは圧倒されるなぁ。このような美しい場所がこの世界にもあったのだなぁ......」


 染み染みとした様子で呟く彼女の耳にクスリと笑う声が届いた。


「感動頂いて幸いですが、リュシカ様は普段そのような口調で話されているのですね?私、少々ギャップを感じて面白く思ってしまいました」


「あ......これは失礼致しました。限られた友人や家族の前ではあの様な話し方をしてしまうのです。エルフレッド様などはいつも近くにいるものですから、つい何時もの癖が出てしまいましたわ。私ったら恥ずかしいところをお見せしましたわ」


 仄かに頬を赤らめて恥ずかしいそうに告げる彼女に対してアリエルは「いえいえ。ギャップとは言いましたが悪い意味ではありませんよ?」と微笑んでーー。


「素が出てしまう程に感動頂けたわけですから案内した私としても嬉しい限りです。良ければ私と話す時もその様に気軽にお話し頂ければ幸いに思います」


「良い......のでしょうか?私も基本的にはTPOを重んじるようにしておりますし、家族も公式の場ではあまりあのような話し方をしないで欲しいと考えておりますわ?アリエル様も困るのではないでしょうか?」


 リュシカが少し困惑する様子で告げるとアリエルは「勿論、公式の食事会などでは御令嬢の言葉で話して頂いた方が良いかもしれませんがーー」と笑う。


「簡単に言えば私とも友達になって欲しいのです。確かに人族の数え歳では人族とは及びもつかない年数を生きておりますが、エルフの歳の頃で考えると皆様とさして変わらない年齢なのですよ?中々同年代の友達というのが出来にくい種族で御座いますから良ければリュシカ様やエルフレッド様にお友達として頂ければ、私の交友関係も広がるのではないかと考えたのです」


「そういうことでしたか......エルフレッド、良いと思うか?」


 普段は場を弁える彼女からすると少し難しい話だったのかも知れない。とはいえ、単純にエルフの数え年とはいえ年齢も近く、公爵家として家格も同じだと考えれば、人族側からしても珍しく対等な友達と言えよう。そう考えたエルフレッドは微笑みながら頷いてーー。


「良いんじゃないか?何れは年齢差が出来てしまうかも知れないが対等な家格の対等な友というのは貴族としても極めて貴重な存在だろう?新たな友が出来たと思えば何も心配することはないと思うぞ?」


「そうか......では私のことはリュシカと呼んで欲しい。それで良いだろうか?」


 彼女が少し困惑気味に訊ねればアリエルは嬉しそうに頷いた。


「はい!よろしくお願いします!リュシカ!」


 そして笑い合い会話し始めた二人。暫くして携帯端末の連絡先を交換しながらーー。


「実はなアリエル。このエルフレッドという男は中々に現代的な物に疎いようでな?私と連絡先を交換した時なんて彼方の母方から家の母親に連絡が着て、”エルフレッド君が連絡先を聞いても大丈夫か聞いてますけど大丈夫ですよね?”なんて言われてな?あの時は中々驚いたぞ?しかも、本人に連絡したら両親と連絡事項を話す時しか使ってないとか言うものだから、ソナタは何時の時代の人間なんだと素で聞いてしまったものだ」


「まあ!エルフ族も元々ライジングサンとしか交流がないせいか多少遅れているところはありますが、仲良くなったら、まずは連絡先の交換をするくらいには使いこなしていますよ?エルフレッド様って面白いところがあるのですね?」


「......俺が悪かったのだろうが流石に恥ずかしい上に大っぴらに話されるのはちょっと辛い話題であるから、そのくらいにしてくれ......」


 すっかり意気投合した二人に揶揄われながらエルフの観光地を回るエルフレッド。美しく産業になり得る場所に目を光らせながらも羞恥に顔を赤くして頬を掻くのだった。




 そして、暫くして王城へと向かう。出迎えに現れたグレンナへヤルギス公爵領の特産品であるフルーツを本日のプレゼントとして渡し、食事が準備されているというホールへと向かった。


「エルフの食事は初めてだから楽しみだな」


「そうですよね。前回来られたエルフレッド様もまだ口にはされていませんでしたから、御二方初めてということになりますね」


「確かに前回来た時は勅使として短く滞在しただけだったからな。部屋に用意された木の実程度の軽食は頂いたが本格的な物は初めてだ」


 アリエルはそんな二人に対して「我々の食事は草木や河川に依存しておりますから人族の方からすると良く言えばヘルシー、悪く言えば物足りない物が多いかも知れません」と笑ってーー。


「聖国に行かれたのでお解りでしょうが特に宗教上で禁止されている訳でも御座いませんのでバーンシュルツ領との貿易がより盛んになれば牛肉などの食事も出るようになると思います。とはいえ長い間今の食事スタイルだったものが急に変わる訳では無いので初めは異文化交流程度でしょう」


 肉の替りに魚を食べ、野菜や木の実、フルーツを食べる。それは非常に健康的でエルフの方々の美しさを際立たせているように思えた。そして、どこかライジングサンにも通ずるものがあり、寧ろ健康志向な食事として広めていくのも有りかもしれないとも思える。

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