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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(中)
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 練習終わりの良い時間になったので二人はカフェを出ると転移で正門に向かった。丁度カーレスとアルベルト、メルトニアの三人が冒険者ギルドから帰ってきた時だった。


「リュシカ‼︎大事は無いか‼︎」


 姿を見るや否や大慌てて走ってきたカーレスにリュシカは首を縦に振ってーー。


「兄上、心配をかけて済まなかった。兄上がお母様達に話をしてくれたお陰ですんなりと治療に迎えたのだ。その......感謝している。全く問題がなかった訳ではないが最悪の可能性は免れた。本当にありがとう」


「そうだったか。それは良かった。エルフレッド殿、本当に妹がお世話になった。今後ともよろしく頼む」


 事情を知っているであろう彼は思わず熱くなった目頭を押さえながらエルフレッドに頭を下げた。エルフレッドは多少慌てて「そこまでしてもらう必要はありません。あくまでも当然のことをさせて頂いただけで御座います。頭を上げてください」彼の上体を起こすように軽く肩を押し上げる。


「いや、今回ばかりはもう生きた心地がしなかったのだ。頭を下げるだけでは返しきれない恩だと思っている。それに俺は今年で卒業だから妹を近くで見ていることが出来なくなる。それだけが心残りでな。しかしながら、エルフレッド殿が近くに居てくれるなら俺としても安心できるというものだ」


「兄上......」


 そう呟いて瞳を潤ませているリュシカに一瞬視線をくれてエルフレッドは「わかりました。治療などの手伝いをさせて頂く関係で長い付き合いになると思いますので無事卒業出来るようにサポートさせて頂きます」と粛々了承した。


「ありがとう。エルフレッド殿。真に感謝している」


 そう言って微笑んだカーレスはリュシカに耳を寄せると誰にも聞こえない程度の声でーー。


「お前も頑張るのだぞ?俺もエルフレッド殿なら相手と認めよう」


 リュシカは少し顔を赤くしながらも笑ってーー。


「当然だ。私が初めに見初めたのだ。頑張るに決まっているさ」


 二人で笑いあった。そんな様子を見ながらアルベルトは「本当に無事で良かったよ。みんなも心配してるから早く顔を見せて上げてくれないかい?」と微笑んだ。


「そうだよ〜関わりが少ない私ですら心配したんだから〜とりま、顔見せておいでよ〜」


 相変わらずの緩い感じだが、それでも心配しているのが解るメルトニアの様子に頷いてーー。


「アルベルト、心配かけたな。メルトニアさんもありがとう御座います!私、姿を見せてきますね!ーー行くぞ!エルフレッド!」


「ああ、そうだな。行こう」


 ちゃっかりエルフレッドの裾の辺りを掴んで歩き始めたリュシカ。彼は少し困ったような表情になったが何も言わずに歩き始めた。


「ーー認める、応援するとは言ったが見せつけられるのは何だか複雑な気分だ。」


 闘技場内へと消えて行った二人を眺めていたカーレスはポロリと呟いた。アルベルトとメルトニアはそんな彼の姿に顔を見合わせてクスリと笑うのだった。




 闘技場内に向かうと皆がエルフレッドの指示通りに練習をしているところだった。アーニャはサンダースと精神戦略を話し合い、時にラティナを交えて戦闘をしている。ラティナはアマリエが来ていたのでメインはアマリエとの軍人仕様の特訓だ。あまりに苛烈な練習にラティナはいつもボロボロの様相だが、その闘志は留まることを知らない。夢に手が掛かっている。余程のことが無い限り掴める。故に万全を機しているのである。ここで手を抜けば零れ落ちるかもしれない、そんな結末は認めないという強い意志が感じられた。


「エルニシア先輩‼︎私負けない‼︎」


「ごめんね、急に強くなっちゃって。でも、こうなったからにはイムジャンヌちゃんにも負けないかなってね‼︎」


 その怪力と洗練された剣術で怒涛の攻めを繰り出すのはイムジャンヌ。あれから母親と話したことで憂いがなくなったようだ。以前以上に剣術に力が入り、剣士としての能力をメキメキと高めていた。そんな中、最も開花したのはその相手をしているエルニシアである。元々二〜三秒先の未来が感覚的に解る能力はセコンドとして非常に優れていたが、その能力に体が追いついてきたのだ。剣術の技術自体はイムジャンヌが上でも、その全てを避けれるだけの技術があれば、そして、一太刀入れる技術があれば相手を倒せるのである。


 今はイムジャンヌの希望で彼女と訓練しているが、実際はレーベンもしくは神化したルーミャ辺りが相応しい相手なのかもしれない。エルフレッドとしては将来、自身と戦える可能性の相手として非常に楽しみであるが聖女としては......である。


 そして、レーベンは遂に神化したルーミャと互角の戦いを演じられるようになった。無論、上級魔法を最初から使わせて貰ってという条件の元だが、そもそもがエルフレッドと一時的には互角の戦いを演じた相手である。その実力は実戦を積んだカーレスと拮抗していると言えよう。そして、それに付き合ったルーミャは遂に暴走しないところまできた。来年の代表戦はほぼ間違いなく戦力に数えられるのだから、今の内に神化中の動きを体に叩き込み、そうでなくても実力を出せるように出来ればアードヤード学園の三年間は非常に明るいと言えた。


「ふふ、こんなにみんなが頑張っているのを見ると少し声を掛けづらくはあるな」


 そう笑うリュシカだが実は世界大会前にはBランクになる程の功績を持っていたようだ。手続きに時間が掛かったことで入院中での連絡となったようだ。今後もカーレス同様Aランクを目指させようかと思っていたが、丁度エルフレッドが空いているので付きっきりで指導に当たることになりそうであった。共にギルド依頼をこなそうという話である。


 当然、メルトニアは素晴らしいが剣術使いという意味ではちゃんとした指導できるのはエルフレッドの方だろう。そして、リュシカの才能はカーレス、レーベン以上ーーまだまだ幾らでも上を目指せるというものだ。


「気にするな。みんな、練習よりもリュシカの体調の方を心配していたぞ?それにそろそろ終わりに時間だからな。俺が先に声を掛けよう」


 エルフレッドは微笑みながら言うとリュシカを気遣うようにベンチに座らせて闘技場に向かう。そして、大きく何回か手を打ってーー。


「みんな終了の時間です‼︎体を休めることも練習ですのでしっかり休んで下さい!それと退院したリュシカが顔を見せに来ているので一旦集合お願いします‼︎」


 ベンチから立ち上がる彼女をエスコートの要領で立ち上がらせれば練習を切り上げた皆が武器など放り出さん限りの勢いで近づいて来た。その様子に一瞬苦笑を浮かべたリュシカだったがその表情を微笑みに変えて皆の方へと小さく手を振って見せた。


「リュシカ‼︎退院おめでとう‼︎」


 最初に飛びついたのはイムジャンヌだった。双子姫は既に回復の兆しなどを知っていたので他の皆に気を使って遠慮しているようだった。無論、とても嬉しそうに微笑んでいたがーー。


「おっと、イムジャンヌにしては珍しい熱烈ぶりだなぁ」


 ギュッと抱きつかれて抱きしめ返す。それを更に包み込むように抱きしめたのはエルニシアだ。


「もう‼︎従姉妹にまた何かあったかと思ったら気が気じゃなくて‼︎......本当に無事で良かった〜」


 間に挟まれて「先輩。苦しい」と呻くイムジャンヌに「ごめんごめん‼︎」と謝りながらも「でも、本当に良かったぁ‼︎」と涙している。


「あの様子だと最悪は回避出来たのかしらね。何にしても良かったわ」


「そうだね。僕もそう予想するよ。本当に良かった」


「まっ、俺が見た限りでもスッキリしてる感じがあるぜ?コソコソ話はこれぐらいにして俺たちも祝いに参加しようじゃねぇか‼︎」


 状況を知っているだけに喜びも一入だった三年生は結論を出すや否や直ぐに駆け寄ると「おめでとう」の言葉を口々に掛けた。


「ふふ。いかんな。柄にもなく泣けてしまったよ。私も歳を取ったものだ」


 皆で退院を喜ぶ生徒達に思わず瞳を潤ませたアマリエが目元を指で拭って微笑んだ。


「良かったな。リュシカ」


 仲間達と喜び合う彼女の後ろでエルフレッドも心からの喜びの気持ちを送るのだった。

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