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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(上)
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 公休の日。エルフレッドは急激な開発が進む新領都への視察を兼ねて新邸宅へと向かっていた。実は辺境警備軍の組織が巨大化し、エルフの協力もあって労働力が相当増えたことで新邸宅が完成ーー両親も王都内の別宅から移り住み生活を開始している。エルフ領からの流通のお陰で生活に困ることは一切無く、ともすれば小さな街として既に機能し始めているくらいはあった。


 煉瓦造りの街道やアンティーク調かつ美術的見た目の街灯が真っ直ぐと伸びる終着点に聳える白亜の豪邸は既に観光スポットの様に人を集め、美の洗練にこだわる母の趣向に基づき”品の良い街づくり”に力を入れていることもあってか移住者が増えているのが現状だ。


 そんな中、寄子の貴族やエルフ、私兵以外で特に大きな力を発揮しバーンシュルツ家に尽力しているエイガーラル不動産のアルドバンは今では半分お抱えのような状況だ。本人曰く「貢献と同じくらい稼がせて頂いていますので感謝などは不要ですよ?役職も上がりましたし」と言うことらしいがバーンシュルツ家としてはとても有難い存在であった。


 エルフレッドは実際に見るまでは街全体を美術品の様に飾る事に何の意味があるのかと思っていたが、赤煉瓦を中心とした美しき外観は確かに移住希望者で溢れるハズだと納得せざるを得なかった。そして、それがベヒモスを倒し辺境警備軍で賊を討伐したあの平原だと考えるならば尚の事である。


 更に言うならば街がお洒落なせいか道行く人もお洒落な人が多い。友好もあってエルフもよく訪れるので見目麗しい人達が整った街中を優雅に歩く様はそれだけで絵になるというものだ。エルフレッド自身はどちらかと言えば活気溢れる下町の様な雰囲気の方が街としては良いのではないかと考えていたが、一種の高級住宅街としてのブランドを確立していこうという流れもこうして歩いてみると心地良いものである。


 喧騒とは無縁の閑静な大通りの中心を公式な視察ということで正装で歩いているエルフレッドは当然周りの視線を集めている。エルフなどは聖国の様な反応ではないものの熱烈なユーネ=マリア信者であることから、その視線は非常に熱かった。もういい加減慣れてきた物ではあったが慣れるほどに浴びるという状況自体に解せないものがあるのも事実だ。


 街中の視察から港建設地の訪問ーーそして、不動産会社との連携強化などエルフレッドが請け負う役割は多岐に渡った。そもそもエルフレッドが請け負う理由としては転移が使えてフットワークが軽いことと護衛が不要なことが挙げられる。護衛が不要というと多少語弊があるのだが、彼の場合は寧ろ護衛がいた方が戦い辛く邪魔になり兼ねないのでつけていないという言葉が適切だろう。例えば警備軍総長などを横に置いて人質に取られでもした方が却って困るのだ。


 今日も今日とて建設を担当する兵士達が建築家や大工の指示によって資材を運んでいた。エルフレッドに気付いた者が慌てて頭を下げるのを微笑みと手で制して彼は建設現場へと向かう。そうするとアルドバンと話し合っている見るからに敏腕な建築家の姿が目に入り、エルフレッドは声を掛けた。


「アルドバン殿、[ランドリック]殿。進歩は如何でしょうか?」


「ああ‼︎エルフレッド様‼︎いつも丁寧に対応頂きありがとうございます!進歩は凄まじいの一言です。労働時間などをしっかり管理した上で百二十%を叩き出しています!やはり、新領都の集合住宅に初期費用無し最低価格で住めるという特別報酬が兵士の方々のやる気を十二分に高めているのが要因でしょう」


 現在はプレハブの集合住宅地に住んで貰っているが一月に完成予定の辺境警備軍寮に特別価格で住めるという報酬を月々の給与とは別に出した事が良い起爆剤となっているようだ。最初に述べたが非常に閑静且つ高級感漂うお洒落な街で移住希望者が溢れている状況だ。そんな街に最低価格で住めるというのは非常にお得だと言えた。


「建築家目線で見ても進歩、状況共に素晴らしいと言えます。資金も潤沢で人々の満足度も高い。私としても良い仕事をさせて頂いておりますよ」


 ランドリックは美的センスが高く安全性に特化した建築で有名な人物だ。アルドバンの紹介ということで割安で仕事を請け負ってもらっているが、それでも通常の建築家よりは高い報酬を支払っている。ーーが、それをおいてもやはり素晴らしい景観が完成され人口増加の要因となっているのだから、その腕は確かだ。


「それならば良かったです。もし何か困ることがあれば直ぐにご連絡下さい。出来る限り対応致します」


「ありがとうございます。エルフレッド様にはこれ以上ない程に良くして頂いておりますので今の所は全く何も問題ありません。もし何かあれば最初の頃のように相談のご連絡をさせて頂きますのでよろしくお願いします」


「かしこまりました。それでは私は港の建設予定地に視察に行って参ります。アルドバン殿には後程電話にて今後の人員確認と報酬の連絡を致します。役職が上がり多忙かとは思いますが何卒よろしくお願い致します」


「いえいえ!役職が上がったのも新領都計画の不動産関連を当社にてほぼ独占させて頂いたからですよ!この計画以上の物は私の仕事には御座いません。最優先で対応させて頂きます」


 エルフレッドはそこまでのものか?と思いもしたが、アルドバンからすると現行で人口約二千人規模のーー今も尚、爆発的に人口増加しているーー街のほぼ全ての不動産事業を一つの不動産会社が担っているという異常なプロジェクトである。


 エイガーラル不動産は世界有数の十万人規模の会社だが、その内の厳選された数百名で結成されたバーンシュルツ領新領都プロジェクトチームは過去最大規模のチームであり、下請け等含めれば万を超える人々が動くことになる。当然その利益は莫大で、これ以上の物はないという話は全くもって誇張ではなかった。


「それは有難い。エイガーラル不動産の方々とは長い付き合いになると思いますのでお互い満足出来るような関係を築いていけたら幸いです。では後程ーー」


 挨拶も早々に転移で移動したエルフレッドは貿易港として建設工事が進んでいるかつての貿易拠点へと足を運んだ。現在は辺境警備軍監視の元、慎重に勧められているこちらは海の状況に影響され易い事もあって進歩はギリギリといったところだ。


 将来的には貿易の要として機能させながら辺境警備軍から選抜で海軍を結成して海軍警備の元で貿易を進めていく予定となっている。予定地は冬ということもあり海沿いは潮風が恐ろしく寒い。魔法を使って冷気を直接浴びないように気を使っているがそれでも尚寒いのである。


(これは寒冷対策関連を強化する必要がありそうだな)


 素人考えではあったが環境的に厳しいのも事実である。そこら辺も詳しく確認して用意しようと考えたエルフレッドだった。


 さて、港に関してはアードヤード王国の国家事業として進んでいる部分が大きいのでエルフレッドの出来ることは少ない。単純にマニュアル通りの進歩報告系の書類を集めて国へ提出するだけである。代表者と一〜二時間話し合えば全てはこと足りるのだ。


 後は辺境警備軍の人々を労い指揮を高めて、必要なものはないかなどを確認しリスト化ーー発注すれば完了だ。


(そして、自身の鍛錬を行い、自領のギルドを訪問。最後にアルドバンと電話にて会談ーーははっ、有意義だが俺はどうやら休みの方が忙しいらしい)


 前々から事ある毎に考えてしまうが休日とは何ぞやという話である。寧ろ、最近はそれを楽しみ始めたくらいなのだが、何故だろう?今となっては普通の学園生活が恋しく、明日には会えるにも関わらず苦楽を共にしている仲間達と早く会いたいなと彼は考えてしまうのであった。

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