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「はい!ということでエルちん!勝利予想はどちらのチームでしょうか♪」
「当然アードヤード王立学園だ。負ける要素がない」
「ピンポンピンポ〜ン♪漸く空気を読めたエルちんには、エルちん投資の上で試作段階に入った”街の揚げパン屋”製の伝統的なきな粉揚げパンを一本プレゼント致しま〜す♪」
「別に空気を読んで言ったわけではないのだが......これ本当に試作段階か?美味すぎるのだがーー」
モチふわっとしたコッペパンに多少のサクサク感、たっぷり乗ったきな粉と三温糖のしっとりした甘みを凝縮した揚げパンの美味さに感動したエルフレッドは思わずそう零していた。
「そうでしょうそうでしょう♪何たって私が試食しまくって監修したからねぇ〜♪しかも元々パン屋ってこともあって元のコッペパンもめっちゃこだわってんのよ!これが〜♪勿論、看板商品として売り出して貰うつもりだけど他のパンもめっちゃ美味しいから是非行ってみてくださいまし〜♪」
と、どこから取り出したのか自身も揚げパンに齧り付きながら「あ、アルとメルトニア様もどうぞ〜♪」とちゃっかり二人にも試作品を渡している。
「それにしてもそんなに圧倒的な差があるの?イムリアさん?とか滅茶苦茶強そうだけど」
「まあ、確かに強いがよく戦えてリュシカ位の強さだと思われるから、少なくともカーレス先輩程の強さはないのが現実だ。完全なフルメンバーではなくイムジャンヌを入れる判断が出来たのもそういった事情だろう」
「なるほどねぇ〜。じゃあ、あんまり見所なしって感じ?」
エルフレッドは顎下に手をやってーー。
「まあ、イムジャンヌとの姉妹対決くらいではないか?後はウルニカ嬢がどの位強いかと言ったところだが......正直そこまでって感じではあるな」
「そっか〜って言ってる間に先鋒戦はリューちゃんが勝っちゃったね。これはきっとエルちんのせいだね!」
「おかげと言えおかげと......一応言っておくが全国大会に出ている他校が弱い訳ではない。闘技大会の時の強さなら予選負けもありえたくらいだ。ただ、しっかりと訓練をこなして、ここまで持ってこれた皆の頑張りが素晴らしいというだけの話だ」
実際問題としてBランクを超えた辺りから全国大会決勝トーナメントクラスの強さが見えていた。そこを超越した面子が出てきて全体を底上げしたからこそ、今の結果がある。それを褒められるならば解るが責められる謂れはない。
「まあ、そうなんだけどさぁ〜、それだと私達って横でイチャイチャしてるアル・メルトニア様夫妻の惚気を延々と聞かされるだけの招待席になっちゃうんだよ。流石のエルちんも微妙じゃない?」
「......確かになアルベルト・メルトニア夫妻の色ボケを聴き続けるだけの全国大会なんてただの拷問ーー「あのさ!前も言ったけど、まだ婚約段階だから!後、惚気とか色ボケとか失礼にも程があるから辞めてくれないかな‼︎」
心底心外だとアルベルトは喚き立てているが寄り掛かってくるメルトニアもそのままに思いっきり肩に手を回している彼に文句をいう権利があるだろうか?いや無い。ノノワールとエルフレッドは生温かい視線を二人にくれた後に顔を見合わせてーー。
「まあ、仲が良いことは良いことなんだけどさぁ。TPOってあるじゃん?しかも今日って国を代表する著名人としての参加な訳よ?別にちょめちょめ人を呼んだ訳じゃないのよ。国王陛下もさ〜」
「ハッハッハ!ちょめちょめ人とは上手いこと言ったなぁ。ノノワール。いやはや相性が良いとはいえ、ずっとベタベタしているのは確かにちょめちょめ人だよなぁーー「全然上手くないから‼︎後、そのこちらを見る度に生温かい視線を送ってくるの辞めてくれる⁉︎流石の僕も傷つくよ⁉︎」
揶揄われてわーわー喚いているアルベルトに凭れ掛かり、今まで何も言わなかったメルトニアは突然ニコリと笑うと見せつけるように抱きついた。
「もうダーリン〜ほっとこうよ〜!二人とも羨ましいだけだって〜。もっと私の方見てよ。ほら、キスしちゃう?お家みたいにーー「家の中の事とか外でバラしたら駄目だって!もう完全に揶揄われるだけのネタだから、それ!!」
うーむとこうなったかと顎下を摩っているエルフレッドに対して、ノノワールは見開いた目を血走らせながらーー。
「ああ、そうさ!そうだよ!羨ましいよ!折角、愛の為にとエルちんと揚げパン売ったのに‼︎横から掻っ攫われた気分だよ!チクショー‼︎」
「......前から思ってたけどお前恋愛絡むとすぐ友達売るよな?」
二人の反応を見ながらメルトニアはクスリと笑った。
「ごめんね〜ノノワールちゃん。勘違いさせちゃったねぇ〜。でも私ノンけなんだ〜本当にごめんね〜」
「キー‼︎小悪魔め‼︎私の純情が弄ばれた‼︎返せ!返せ〜‼︎」
「恋愛経験豊富を語ってたヤツの純情が如何程か知らんがな。クレイランドでも相当楽しんでたようだしなーー」
キーと言わんばかりの表情でエルフレッドの方を向いてダンッ‼︎と地団駄を踏んだのノワールは「さっきからエルちん!どっちの味方なのよ!エルちんも羨ましいんでしょ‼︎」と怒鳴り声を上げた。対して彼は眉を顰めた後に落ち着くように手で示しながらーー。
「味方も糞もないだろ。大体羨ましいも何も俺としてはこうなってくれて万々歳だぞ?相性が良いとは思っていたがここまでとはな。カフェで相談受けた時からの作戦が上手くいってーーいや、何でもない。ハハハ、今日は良い天気だなぁーー「いや、何も隠れてないから!というかやっぱり作戦だったんじゃないか‼︎白々しい!本当に白々しいよ‼︎エルフレッド君‼︎」
キャーキャー、ワーワーと収集がつかない様相を呈し始めた著名人側の招待席。何が起きたのやらと周りが見つめる中で後輩とのお喋りに花を咲かせていたクリスタニアは闘技場の方へと視線をくれてーー。
「何やら楽しそうなことになっているのは結構だけど件のエイガー姉妹の戦闘が始まるのは見なくて大丈夫なのかしら?」
「さあ?それこそ先輩が気にすることではありませんよ。見れなくても悪いのは彼等なので......それにしても彼女が先輩一押しのイムジャンヌですか。随分と小柄ですね」
呆れた様子から一変して眼光を強めたルシエルは王妃近衛隊隊長として実力を見極めんとする光が宿っている。
「まあ、殆どは息子からの情報なんだけどね。何でも普段は自身の体重の三倍の重りを付けて生活しているそうなのよ。見た目の可愛らしさからは想像出来ない程の怪力なんだとかーーそう言われると気にならない?」
「なるほど......その力は凄まじいですね。それに身長が伸びない理由も解ります。その点、姉のイムリアは全てが高水準で纏っている感じがありますし、私は今のところイムリアを推していますよ」
「そうね。ルシエルはああいう完璧を素でいくようなタイプが好きよね。それに鍛錬も怠らない真面目な性格ときている。騎士には適任でしょう」
「ええ。その点、先輩はこういう言い方は失礼だと承知で言いますが変わり種の方が好みな感じがありますよね。昔から」
後輩からの言葉にクリスタニアは楽しげに笑うと「本当に失礼な言い方ねぇ。まあ、別に今更だけど」と前置きした上でーー。
「だって、私自身が結構変わり種でしょう?今でも客観的に見ると陛下が見初めた理由が全く分からないわ」
流石にコメントしづらい言葉だったのか咳払いをしたルシエルは視線を逸らしながらーー。
「......ノーコメントで。少なくとも私は先輩を変わり種だと思ったことは有りませんし尊敬していますよ。さて、試合に集中しましょう」
衝突を望むように勢い良く駆け出した二人にルシエルは意識を集中させるのだった。




