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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(上)
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「俺の勉強部屋の私物を破壊した上に勝手に休憩室にしてくれてありがとう。ほら、ルーミャ。お前の大好きなオニオンリングたくさん持ってきたぞ?好きなだけ食べると良い」


「ヒェ〜‼︎ごめんってぇ‼︎壊すつもりはなかったんだってぇ!!それに面倒臭くなっちゃったんだもん‼︎謝るからそんな物近づけないでぇ〜‼︎」


 逃げるルーミャを追いかける仏顔のエルフレッド。凶悪な盛り付けのオニオンリングタワーを片手に何処かへと消えて行った。


「全く......ルーミャには困ったものだ」


「まあ、エルフレッドが人材を誤った感はあるけどミャ。それに単純に立食パーティーってだけなら割と評価高かったのにニャア......アホミャ」


 アルコール度数の低いスパークリングワインを傾けながらアーニャが呆れ顔で言った。その横でリュシカは苦笑しながらポップコーンシュリンプをサクサクと頬張っている。


「うん。これ私が手伝わなくて良かったかもしれないわ。授業で結構評定高かったハズなのにレベルが全然違うもの」


「そもそも私はサバイバル料理以外は専門外だからな。これが手作りとは思えんな」


「......叔母様。食べれる蜘蛛を焼いて食べることをサバイバル料理とは言いませんよ?」


 真顔でジントニック片手にラムチョップを食べる彼女を呆れ顔で眺めていたラティナが呟いた。それを偶々耳にしたメルトニアは嬉しそうな笑顔になってーー。


「やっぱり蜘蛛って食べれたんだ〜!食料に困った時はーー「困ることないから絶対にやめて!しかもどの蜘蛛も食べれるって訳じゃないから!」


 大慌てのアルベルトに注意されるのだった。決起集会とは銘打ったものの半分は食事会の様相である。


 しかし、リラックスして英気を養うという意味ではそれで良かったのかもしれない。何より時間の使い方は人それぞれで真面目な話し合いに高じているカーレスやレーベンーー反対に馬鹿騒ぎしているサンダースやエルニシア。そして、それに絡まれ絡んでいるイムジャンヌとノノワールと皆がそれぞれ有意義に過ごしていることは評価出来るハズだ。


 少なくとも計画したアーニャはそう感じており隣のリュシカもそれを感じ取って謳歌している。


「アーニャ」


「どうしたニャ?」


「明日は頑張って優勝目指そうな?」


「勿論ミャ!じゃないと妾がエルフレッドに決起集会を強要した意味がないミャ!」


「フフフ。それは言えてるな。エルフレッドの頑張り損だ」


 不意にリュシカがアーニャの手を握った。少し驚いたアーニャだったが恥ずかしそうにしながらも嬉しそうな表情を浮かべる彼女にアーニャは胸が暖かくなった。


「ニャハハ!最近のリュシカは甘えん坊ミャア♪でも妾も嬉しいニャア♪」


 心地良い友愛が二人を包んだ。ほんのりと甘美な雰囲気を醸し出しながら大切な存在だと確かめ合う。お互いがお互いを大切に思うから互いに許し合えるのだと信じ合う。


 無論、それは一般的ではない。片方は相手の強い悲しみを知っているから、片方は自身の諦めに近い感情を持ってるから、ただ許し合える状況になっているだけだ。しかし、それが完成された状態だから二人の仲は唯一無二のものなのだとーー。


「助けてぇ〜!!妾は玉ねぎは駄目なんだってぇ〜!!」


「ちょ、ちょっと!!急にしがみつくなルーミャ!!」


 半泣きのルーミャに飛び付く様に抱きつかれたリュシカは驚愕で強く打ち始めた鼓動に胸を押えながら、安堵の息を吐いた。


「自分の責任ミャア!リュシカを巻き込むニャ!というか臭い!玉ねぎ臭いミャ!妾まで気分が悪くなってきたミャ......」


 アーニャが胸の辺りを押さえて青い顔になり始めたのを見てリュシカは頭を押さえながらーー。


「全く......エルフレッド!その辺で許してやってくれ!それにアーニャまで巻き添えにするのは本望じゃないのだろう?」


 上手いこと逃げたぜ♪と言わんばかりのルーミャがあっかんべーと出した舌にオニオンリングを投げつけてクリーンヒットを与えたエルフレッドは「食い物を粗末にしてしまうのとリュシカに被害が及ぶのは本望じゃないが、アーニャの無茶振りには辟易していたから良い気味だと思ってるぞ?」と心からそう思っている表情で笑う。


「そ、そんな馬鹿ニャ!これさえも計算の中に入ってたニャんて......」


 臭いにやられたのかアーニャの呂律が怪しくなってきている。因みにクリーンヒットを喰らったルーミャはオニオンリングを咥えた状態で床に大の字に倒れた上に泡を吹いて白目を剥いている。


「そ、そうだったのか?ま、まあ、そのなんだ。明日の大会に支障が出るからこのくらいでーーな?」


 珍しく大人気ない彼の様子に想定外だったリュシカは狼狽えながらも諭すように笑った。


「まあ、アーニャは確かに居ないと困るな。癒やしの風で回復しとくか......ルーミャは知らん」


 アーニャにだけ回復魔法を掛けてオニオンリングを食べながら去っていくエルフレッド。その後姿が珍しく本人が言う通りのオーガに見えたのは気のせいではないのだろう。


「なんというか、あそこまでエルフレッドを怒らせるなんて逆に尊敬するレベルだと言わざるを得えん......」


「......助かったミャ。きっとエルフレッドの中では妾達が二人で一人の感覚があるんだと思うニャア。二人揃って気に触る事したから余計にボルテージが高まったのだと思うミャア」


 無意識の内に咥えていたオニオンリングでも食べたのか引き付けを起こし始めたルーミャに聖魔法を掛けながら溜め息を吐いたリュシカ。


「そういうところは双子らしいというか......やり返されるのにいらない事をするのはSというかMというかーー」


「まあ、双子感出てるのは否めないミャ。因みに妾は完全ドSニャ。Mの要素皆無ミャ。因みに目覚めたのはアマリエ先生の作戦からミャ。エルフレッドは反応が面白いからついついやっちゃうニャ。反省もしてないミャア」


「アーニャ君。それが本当ならば私は保護者の方々に謝らないといけないように思うのだがーー」


「なるほど。だから最近の神化を使った練習は矢鱈サディスティックなんだね。すごく納得したよ」


 なんとも言えない表情のアマリエ先生の横でカーレスと話し終えたのかレーベンがグラス片手にしみじみと頷いている。先程話していたラティナはと言えばカーレスと明日の打ち合わせに入っていた。真面目な先輩方である。


「そこは嘘でも反省した方が良いと思うぞ。玉葱どころじゃ済まなくなりそうだ」


「ーーチッチッチッ。甘いニャ、リュシカ。玉葱の時点で明確な殺意があるミャ。これ以上は本当の死しかないミャ」


「......勘弁してくれ。学園内で殺人事件とか見たくないぞ」


 頭を抱えて笑えないと呻くリュシカにアーニャは遠い目をして「そこに転がっているルーミャが答えミャ。要するにヤバイということミャ」と答えた。


「......その学園内とか以前に他国の王女殿下を害したらとんでもない事になるから本当に勘弁して欲しいよね」


「じゃあ、二番目に反応が面白いレーベン王太子殿下にターゲットを変えるかミャア。物足りなさは回数でカバーミャ♪」


「......さて、そろそろサンダースとエルニシアの悪ふざけを止めに行こうかな?」


 話を逸らすようにして動画映え人気の出たトマトゼリーを猛烈にプルプルして遊んでいる二人の所へと歩いて行ったレーベン。近くのエルフレッドがやはり仏顔になっているが大丈夫なのだろうか?


「あ〜あ、逃げられたミャア。やっぱり妾にはエルフレッドしか残ってないミャ♪ということで私も参加してくるニャア♪」


「あっこら!あの顔見ろ!絶対に辞めた方がーーあ〜、本当に知らんからな」


 猛烈にプルプルに参加してオニオンの刑に処されているアーニャを見ながら、イムジャンヌを除く三人が爆笑していた。イムジャンヌは飽きたのか食いに走っている。


「あれ?ここエルフレッドの部屋ぁ?」


「ああ、目を覚ましたかルーミャ」


「うん?あれリュシカ?さっきまでお花畑に行ってたんだけど何かあったけぇ?」


「......いや、まあ、その答えが知りたいなら、あそこで泡吹いてるアーニャにでも聞くと良い」


 明日は全国大会決勝トーナメントだというのに......と全力で呆れ返ったリュシカだった。

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