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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(上)
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(......冷静に考えると難しいな)


 きっと後者の考えはフェルミナの考えに近い。自身の精神が耐えられない可能性を考えてエルフレッドとの恋愛を諦めた。とはいえ彼女の場合は次の恋愛に向かえる下地はあるのだ。自身の場合は逃げを選んだ場合、恋をする度に同じ問題が降りかかってくるのである。


 諦めると言えば楽ではあるが結局は問題の先延ばしだ。


(......じゃあ一念発起して病院に行くのか?)


 そうなると今度は医者の一言で全てが終わる可能性がある。そして、家族にも隠せなくなるだろう。となれば希望に転べば良いものの悪い方に転べば修道院行きかはたまた保護という名の軟禁かーー家族は大切にしてくれるだろうが公爵家としての責務からは逃れられない。そうなれば、いっそのこと家を出て冒険者にでもなって生きた方が良いのかも知れない。Bランクに手が届けば、そこそこ裕福な一般家庭くらいの生活は出来るだろう。


(なるほど。諦めるのは簡単だが幸せには程遠いということか)


 自身は最悪それでも良いかも知れないが家族の事を考えると、どちらにしても幸せには程遠いということだ。最終的には希望に縋るしか選べないことが解ってきた。


(半年の間に行けるのだろうか?まずは母親に話さなくてはならないだろうが......)


 問題が発生すれば父親にも伝わるだろうが、まずは女性同士で話す内容だ。そこで解決すれば最低限の被害で食い止められる。しかし、今まで黙ってきたことなどを考えると正直なところ心が萎えるのだ。母親の性格上、酷い言われ方はしないだろうが、万が一でも嘘吐きだと責められでもしたら立ち直れそうもない。


(ここが正念場だな)


 イムジャンヌがローカル高校の大将を倒して一回戦が終了した。ローテーション有り、五人のメンバーさえしっかりと抑えておけば観客席からの偵察有りというルールは世界大会仕様で偵察に向いているエルニシアとアーニャが観客席に向かっていた。サンダースも世界大会では活躍するだろうが全国大会だと余りにも顔が知れているのでわざとベンチに置いたり実際に戦わせることで陽動を担っているのである。


 そうしながらベンチにいる時に集められる情報を集めている。やはり、アマリエは策士だった。仲間達の活躍にハイタッチを交わしながらリュシカは一つの決意を固めて意識を全国大会に集中させるのだった。













○●○●













 一日目の結果はやはりアイゼンシュタット騎士養成学校を除いた四校の勝ち抜けとなった。決勝トーナメントの組み合わせは明日の朝の抽選で決まり、昼から準決勝、三位決定戦、決勝の順で行われる。アードヤードで就職する者達にとってはここが最大のアピールポイントだろう。無論、世界大会出場はそれ以上のアピールポイントではあるが、どちらかと言えば決まっている仕事の待遇が更に良くなるイメージである。


 良い仕事に就きたいのレベルならば、この全国大会でどの程度のものが見せれるかに掛かっていると言っても過言ではない。勿論、出ているだけで就職に困ることはないのであくまでも良い就職先に拘るならばである。





「皆様、お疲れ様ミャ!明日に向けての決起集会をエルフレッドの部屋でやるミャ!アマリエ先生も是非とも御参加お願いしますニャア♪」




「......普通、前日に連絡するか?負ける可能性は少ないとは思っていたがーーお陰で今日は早起きでバタバタ料理をする羽目になったぞ?」


 若干、怠そうな表情でエルフレッドはジトりとした視線を送った。


「いや、エルフレッド殿。わざわざ手料理をする必要はないのではないか?学園内デリバリーを使っても良いと思うぞ?」


「カーレス先輩。勿論全て手料理と言う訳では無いのですが、やはり、全てデリバリーは手抜き感を感じてしまって少し申し訳無いとーー」


「......前々から思っていたのだがエルフレッド殿は中々損な性格をしているな。言い辛い話だが上手いこと使われているぞ?」


 真剣に哀れんでいる表情のカーレスにエルフレッドは「生まれつきの性格なのでもう手遅れです。せめて美味しいと食べて頂ければ幸いです」と溜息を吐いて肩を落とした。


「貴族の令嬢でも料理とか殆どしないだろうに貴族の子息のしかも嫡男が料理とか、なんかヤバイよね?」


「エルニシアお姉様。しかもエルフレッドは調理師か!と言いたくなる程に料理が美味しいのです!期待してても良いですよ!」


 良い笑顔で告げるリュシカに「喜んでくれるのは有り難いがハードルを上げないでくれ」とエルフレッドは再度溜息を吐いた。


「てか、エルフレッド君の料理久しぶり〜!最近、ダーリンの手料理か調理師の料理しか食べてなかったから懐かしいなぁ〜」


「ええ〜!メルトニア様!エルちんの料理食べたことあるんですか〜!どんな感じですか?食べれるものですか〜?」


「......おい。失礼だろ?それになんで当然来る流れになっているんだ?」


 再度ジトりとした視線になったエルフレッドの肩を叩いてアルベルトは楽しげに笑う。


「とか言いながら、どうせ来る予定の料理を作ってるんだよね?流石に僕でも解るよ?エルフレッド君」


「ーー悔しいが可能性を考えて作っていたことは否めない」


 悔しげなエルフレッドの横で「それがね〜。美味しすぎて引くレベルなのよね〜。まあ、愛情はダーリンの勝ちだけど〜!」と惚気るメルトニアに「うっはぁ!やっぱりモテる男は違うんですねぇ♪ーーというかアル!メルトニア様ゲットってなにしたらそうなるの〜!」とノノワールが食いついていた。


「エルフレッド君。今度からは言ってくれレれば協力するわよ?私もブルーローズ関係で料理の学科取ってるからね?」


「ラティナ先輩有難うございます。とはいえ今回は選手ですからまたの機会にお願いしますね。それに一応ですがルーミャがせっせとテーブルセットしているハズなので完全に一人でやっている訳ではないんですよ」


 苦笑いのラティナの横でアマリエは顎下に手をやってーー。


「ふむ。殿下であるルーミャ君にテーブルセットが出来るかは心配ではあるが、まあ、必須科目のマナーで習っていたハズだし問題はないかーー教師が生徒の料理を食べるというのも何だか悪い気がするがお手並み拝見とさせてもらう」


「お手柔らかに頼みますよ」


 エルフレッドの後方、サンダースと話していたレーベンが申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「本当にごめんね。もし明日勝ったら祝勝会はお城でさせてもらうようにするから。その時は勿論エルフレッド殿も誘うよ」


「ははっ!結局、最強君にはお世話になりっぱなしだったもんな!!にしても、王城での祝勝会は最高だぜ!ぜってぇ勝たねぇとな!王城でのパーティーはいっつもすげぇから!」


 申し訳なさそうなレーベンの横でやる気満々のサンダースに「そんなこと言ってさ。ルーナシャ様と当たったらあんた攻撃出来んの?」とエルニシアが目を細めて笑った。


「エルフレッド。ルーミャ殿下から連絡がきた」


「ありがとう。イムジャンヌ。それでは皆様行きましょう」


 エルフレッドの声に皆がそれぞれ了解の相槌を打った。明日に向けた決起集会。それぞれ考え方は違うが明日に備えて英気を養うという気持ちに変わりはなかった。




「ーーうがぁ〜‼︎人数多いからテーブルセットめんどくさいぃ‼︎グラスとか全部セルフサービスで良いよねぇ!どうせ立食でしか入らない人数だしぃ‼︎」


 料理のラップを取りながらイライラするルーミャ。座りあり立食ありのホームパーティー予定から勝手にオールセルフの立食パーティーに切り替える。


 そして、仕返しと言わんばかりにエルフレッドの勉強部屋の私物を勝手に隅っこへと放り投げると椅子を並べて”休憩室はこちらです”の張り紙をつけた。放り投げた際にゴシャ‼︎バキッ‼︎と鳴ってはいけないような音がしているが彼女は爽快感すら感じていた。


 溜飲が下がりスッキリしたルーミャは摘み食いをしながら皆が到着するのを待つのだった。

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