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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(上)
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「エルニシア先輩♪聖魔法ありがとございまぁす!イムジャンヌちゃんとデートしてきます♪ーーあ、エルちん!依頼は承ったから揚げパン屋出資の件宜しくなぁ〜♪あ、あと先輩!良かったら来週の土曜日に新作の舞台をするのでお姉様と一緒にどうぞ♪」


 呆れた表情で「その揚げパンに対する情熱はなんだ?まあ、元々パン屋だから設備投資ぐらいだろうが......」と苦笑する彼を尻目にノノワールはエルニシアに微笑みながら胸元から取り出したチケットを二枚渡した。するとファンである彼女は感激したように抱きついてーー。


「わぁ‼︎超嬉しい‼︎前回の舞台の殺陣が人気過ぎてオリジナルで作ったってヤツだよねぇ!もう取れないと思ってたのにーーって、うわ‼︎半券にサイン書いてる‼︎ちょっと感動して涙出ちゃった‼︎」


 エルニシアがピョンピョン跳ぶものだから色々最高の状態になったノノワールは「......私も今幸せ過ぎて鼻血が出ちまいましたぜぇ、姐さんよ」とファンには見せられないような表情を浮かべて笑った。


 ーーそれを例の如く清めの風で証拠を消して完全犯罪を達成した彼女はバイビー♪とイムジャンヌと手を繋ぎながら闘技場を去っていった。


「ノノワールちゃん、めっちゃ良い子じゃん!海外でも活躍する若手No.1女優なのに全然穿ったところないし!益々ファンになった!来週が今から楽しみ過ぎる‼︎」


「......そうですか。まあ、その楽しみの為に全国大会頑張りましょう」


 冷静な目線で見ていたエルフレッドからすれば色欲に塗れてとんでもない醜態を晒しまくっていたように見えたのだが、どうやらファンの方にはその光景さえも好感が持てるようだ。ーーもしくは全く気付いていないのだろう。


「そうだね!オープニングアクトまでやってくれるノノワールちゃんに恥かかせられないしね!うわー、もうやる気最高潮過ぎてヤバイわーー」


 やる気が最高潮な事自体は教える側としても有難いのだが、理由が理由かつ相手が相手だけに大丈夫か心配になるエルフレッドであった。












○●○●













 結局、焼肉と小さめとはいえワンホールのショートケーキまで奢ってもらったイムジャンヌは寮まで帰宅後、眠れそうになかったのでエルフレッドから貰った魔法薬を服用して眠りにつくことにした。


 魔法薬とは魔法の効果を閉じ込めることが出来るカプセルに医薬目的の魔法を込めて作り出す薬で資格を持った魔法使いしか作り出せない貴重な薬だ。魔法ということもあって効果が高く効き過ぎるくらいの副作用しかないので値段もそこそこ高いのだが、それをポンポン普通に渡せるエルフレッドは巨龍退治で余程潤っているらしいとイムジャンヌは思った。


 薬を飲んで安静にしていると十分程で効いてくるそうだが、今まであまり寝ていなかったイムジャンヌは反動から寝すぎてしまい遅刻する可能性が考えられた。その為、服用を二十一時と早めにした上で万が一の可能性に備えて比較的部屋が近いノノワールが起こしに来ることになっている。鍵のスペアを渡してあるが少し不安だ。基本的には良い娘なのだが偶に身の危険を感じることがあるのだ。


「......もう眠くなってきた」


 飲んで五分程度ーー、効果が出始めるには少し早いが既に思考が緩慢になってきている。もしくはただ本当に眠かっただけなのかも知れない。別に悪い作用が出る薬ではないがこれなら服用の必要はなかったのかもーー。益々眠くなってきたイムジャンヌの頭の中にはエルフレッドの言葉が浮かんでいた。わざと厳しく言ったのだろうが彼は基本的に相手のことを考えてしか、そういう言い方をしない。それに常々休息の重要性を問いているところから自分が本当に強くなる最善策でもあるのだろう。


(なんか師匠みたい)


 祖父との指導とは別にイムジャンヌと姉が通っていた道場があった。自分は例の出来事から中途半端に辞めてしまったが姉はまだ所属しているハズだ。


(元気にしているかなーー)


 そんなことを考えていたイムジャンヌの意識は遠くなっていったのだった。














 何かの衝撃で目が覚めたイムジャンヌは自身に覆いか被さる人物を見て悲しげに呟いた。


「信じてたのに」


「ち、違うって!イムイム!誤解だって!これラッキースケベって言うかアンラッキースケべて言うか、ほら!起こしに来たまでは良かったんだけど、その刀につまづいちゃってさ!ほら!離れた!もう離れた!私はそんな気はーーふぎゃ!」


 ノノワールが今度は後退りながら刀につまづいてひっくり返るのを見たイムジャンヌはクスッと笑う。


「慌て過ぎ。わざとじゃないなら良い」


「良かった〜信じてもらえて〜♪自分が悪いんだろうけど信頼無いから絶交されるんじゃないかって本当にびびったよぉ!」


 心の底から安堵している彼女にイムジャンヌは首を傾げながら少し思考してーー。


「流石に絶交はしないけど距離置く」


「解答がリアル過ぎてヤバイ......っていうかレーベン王太子殿下から貰った刀をこんな雑に扱ってるとは思わなかったよ!ちゃんとしまわないと!てかてか、やっぱりちゃんと寝てるせいかめっちゃシャッキとしてるじゃん♪」


 マシンガンのように喋る彼女に小さく苦笑しながら「そうかな?」と首を傾げると「普段より若干表情あるし、話す時に妙に考えてる間がないし♪絶好調じゃん♪」と彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「そっか。ノノちゃんが言うならそうかも。ーーでも普段より身体が痛い気がする」


「多分まだまだ休みが足りてないんじゃないかな?私も仕事と学園が忙し過ぎて三日くらい眠れない時とか寝た次の日の方が怠く感じるし?アドレナリン切れちゃったみたいな?と言うわけで朝の回復魔法のお時間で〜す♪」


 ノノワールが右手で印を展開ーー癒しの風を唱えるとイムジャンヌの痛んだ節々が回復されていく感覚があった。


「うん。良くなった。ありがとう」


「いえいえ♪全国大会までは私がイムイム担当だから〜♪ほら行こっ♪今日は忙しくなるよ!」


「そうだね。あ、ノノちゃん」


「うん?何?」


「着替えるから外に出て」


「......ちぇ〜普段より考えられるお陰で鉄壁かよぉ......」


 ぶつくさ言いながら外へと向かう彼女を眺めながらイムジャンヌは着替えを取り出した。彼女の今一信頼出来ない点はそこだろうに何で解らないのかが疑問で仕方がないイムジャンヌだった。




 その後の学園の授業がいつもより身に入った彼女ーー。魔法戦闘学の授業の際はアマリエ先生も「普段より動きにキレがあるな」と驚いている様子だった。一人だけ特別訓練を受けているエルフレッドも「多分だがもう少し回復すれば最高潮になるだろう。全国大会前日も休息がメインだが順調なら肩慣らし程度に刀を振れるかもな」と拳で逆立ち伏せをしながら微笑んだ程だった。


「魔法薬ありがとう。良く寝れた。全国大会までは使った方がいい?」


「そうだな。一日では体内時計も直らないだろうから体質改善の為にも全国大会までは使った方が良いだろう。身体的にも成長期でもある。悪い風にはならないハズだ」


「わかった」


 彼女はコクリと頷くとアマリエ先生指導の元、自身の訓練へと戻っていった。授業でありながらストレッチメインのそれは全国大会に向けたもので間違いないだろう。エルフレッドは拳を片方ずつ交互に入れ替えながら、その様子を眺めて笑顔を浮かべるのだった。

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