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そして、ベンチの辺りがとんでもなく暗くなっている。体操座りをして顔を埋めているイムジャンヌの周りには「私、今落ち込んでいます......」と言わんばかりの闇のオーラが放たれていた。
「エルフレッド君。イムジャンヌちゃん、どうしよっか?」
「エルニシア先輩。一応助っ人呼んでます」
「助っ人?」
「はい。とんでもなく騒がしい奴ですけど悩み相談が得意な奴なんです」
エルフレッドがそんな話をしていると「呼ばれて飛び出て〜‼︎ジャジャーン♪ぱふぱふ♪」と一人で盛り上がっている女生徒の声が闘技場内に響き渡った。
「うへぇ......また強烈なのがーーってえ?あれ⁉︎あれって舞台女優のノノワールちゃんじゃん!」
「エルニシア先輩もご存知なんですか?」
彼が不思議そうに首を傾げると「知ってるなんて話じゃないよ!今一番熱い女優じゃん!私、アイゼンシュタット防衛戦の聖国公演の際は一番前の席で見てたんだから‼︎」と興奮気味のエルニシア。
エルフレッドは苦笑しながら「残念ながら一年Sクラスのクラスメイトです。しかも闘技大会の時に横できな粉擦りつけてたのも奴です」とあの時の暴露の仕返しのように暴露すると彼女は「え⁉︎嘘⁉︎あの凛々しいミュゼカ様役の彼女が⁉︎」と心底ショックを受けた様子で頭を抑えている。
「こら!エルちん!なんで私のネガティブキャンペーンしてるのよ!イムジャンヌちゃんを助ける為に練習ずらしてもらってきたんだからもっと敬うべきでしょ!プンプン!」
大袈裟な身振り手振りで怒ってみせる彼女にエルフレッドは真顔でーー。
「いや、ネガティブキャンペーンというか、なるべくハードル下げとかないと悪い意味でギャップになってしまうキャラだからな?友達としては有難いが舞台女優としてはどうかと思うぞ?その人間性ーー」
「うひゃ〜!悔しいけど言い返せない〜!あ、因みに全国大会のオープニングアクト私だから頑張って優勝してね♪」
「......お前は本当に何処にでも出現するな。まあ、今日から大会までで都合がいい日はイムジャンヌのことをよろしく頼む」
「オッケ〜♪一応、舞台裏とか連れて行こうと思ってるから放課後は毎日でも問題ナッシング♪」
ショックと嬉しさの狭間から戻ってきたエルニシアが「うわっ!それ羨ましすぎる!せめてせめてサインだけでも!姉妹でファンなんです!」と空間魔法から色紙を取り出してノノワールに頭を下げている。空間魔法に色紙が入っている辺りが流石グランラシア聖国だと思ってしまうエルフレッドであった。
「勿論ですよ♪エルニシア先輩♪あっ、今ならハグもつけちゃいます‼︎」
「えっ⁉︎本当⁉︎やった〜‼︎実家帰った時にお姉様に自慢しよ〜‼︎」
真顔で「お前がしたいだけだろ?」と突っ込むエルフレッドの声はエルニシアには届いていないようだ。
「うわ〜本当に最高‼︎アードヤード王立学園入って良かった!あ、写メOKですか?」とファンとして最大級に喜んでいる彼女に「プライベート専用にしてください♪」と写メ用のキメ顔を決めた彼女はーー。
「グヘヘ。エルニシア様のスマート聖女ボディーは最高だなぁ」
と聞こえないくらいの声で呟いて垂らした涎を清めの風で証拠隠滅していた。ある意味WinWinかもしれない。
「完全犯罪に風魔法を使うな」
同じ風属性として魔法を汚された気分に陥っているエルフレッドの言葉にノノワールはすっとぼけて首をかしげるのだった。
「何の話かな♪エルちん♪ーーエルニシア先輩!頑張って下さいね♪私は私の任務を遂行しに行きます!」
「はいはーい!イムジャンヌちゃんは任せたよ!いやぁ、写メまでgetしちゃった♪本当やる気漲ってきたわ!最強の聖女目指してやろうじゃない‼︎」
満面の笑みでやる気を滾らせている彼女に「......それなら良かったです」とエルフレッドは苦笑した。当のノノワールは「弱ってるイムイムgetだぜぇ!ヒャッホ〜イ!」と別の物をガンガン滾らせていた。ブレない奴である。
「では、エルニシア先輩。練習しましょう。教えたシミターの基礎がどれだけ出来ているか見せてもらってもいいですか?」
「もちのろーんだって!基礎は任せてよ!毎日やってるから!だから母親が心配してるんだけど......」
エルフレッドは突っ込むのもあれだったので「まあ、気に入って頂けたのなら幸いです」と曖昧な笑みを浮かべるだけに留めた。
○●○●
「イムイム〜♪デートにきたよ〜♪」
「......ノノちゃん......」
ノノワールは底抜けの明るさとテンションで話しかけるがイムジャンヌのテンションは同じ度合いでマイナスである。
「ほらほら!折角の可愛い顔がそんなくさくさしてたら台無しだよ〜♪それにエルちんも意地悪で言ってる訳じゃなくて、イムイムが更に強くなるために言ってるんだからさぁ!落ち込まない落ち込まない♪」
「......でも私......1日も剣持たなかった日がないから......不安で......」
心なしか寂しそうな表情を浮かべる彼女の耳元にノノワールは顔を寄せた。
「ねぇ、もしかしてだけど......なんか悩みがあるんじゃない?初めてエルちんと話した時みたいな表情してるよ?」
イムジャンヌが一変して驚いた表情を浮かべたのを見て「やっぱりねぇ♪今でこそ、こんな感じだけど私も人との違い?に悩まされた時期とかあったから何となく解っちゃうんだよねぇ♪」と確信したように微笑んだ。
「......そうなんだ......」
「そうそう!まっ、その関係もあって舞台裏連れて行きたいんだけどね♪会わせたい人居るからさ!」
「......会わせたい人......?」
「そゆこと♪それは明日のお楽しみなんだけどさ!今日は私の奢りでパーと美味しいものでも食べよ〜じゃん!イムイム何が好き?」
「......ショートケーキ......」
「ぐはっ!可愛すぎかよ!オメェさんよぉ!おい!ーー良いよ良いよ♪お姉さんがオススメのショートケーキワンホールでも買ってあげちゃう♪」
「......なんか申し訳ない......」
少し困ったように眉を下げた彼女に対してノノワールは「んじゃ!ハグしよう!ハグ!」と手を広げる。イムジャンヌは暫し首を傾げた後に胸の前で腕を抱いてーー。
「......身の危険感じた......」
「あっちゃ〜!剣士の勘ってやつでバレちゃったか!でも大丈夫!私、無理矢理は好まない派だから♪もっと仲良くなったらハグしようねっ♪」
彼女がコクリと頷くと「うひゃあ〜、同級生なのに幼気な幼女感堪らんぜぃ!絶対ハグしてやっからなぁ♪」とテンション爆上げのノノワールである。
それから暫く他愛のない話している間に少しずつ通常時の状態に戻っていってるイムジャンヌの手を優しく取ったノノワールはーー。
「んじゃ、今日はお肉食べてデザートはショートケーキね♪やっぱ疲れとるなら肉と米っしょ!」
と癒しの風を掛けてベンチから連れて行き始める。
「......ありがとう」
「いえいえ〜♪それにしても本当だった!回復魔法掛けたらちょっとシャキッとしたねぇ!後はエルニシア先輩に聖魔法掛けてもらってデートだねぇ♪」
微笑みかけるノノワールにイムジャンヌはやはり空いた手で自身の肩を抱くとポツリと呟いた。
「......身の危険を感じた」




