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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(上)
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5

 三学期は通常の生徒にとってはそこまで忙しい時期ではないが大学進学を目指す人々や三年生ーーそして、闘技大会に出場する生徒にとっては大忙しの季節である。一年Sクラスと三年Sクラスの代表メンバーは早速始業式の日から連続集中的に練習に励み、前々日に休みを取り前日は軽い打ち合わせにすることで試合に備えようという魂胆である。


「もう許してぇ〜‼︎お腹痛くなるぅ‼︎鼻がおかしくなるぅ‼︎目が痛くなるぅ‼︎」


「うう、流石にやり過ぎたミャア〜。許してミャア!」


「......何を言ってるんだ?楽しいサプライズを用意してくれたお礼だ。存分に味わってくれ」


 泣きながら謝る二人にエルフレッドは仏の様な顔で微笑んだ。始業式の日、早速神化を使った奇襲を結構した双子姫をボロボロになりながらもどうにか食い止めたエルフレッド。突然の暴挙に周りが呆れる中、彼は何事もなかったかのように練習の指導をしていた。


「何故あのようなことをした?」


 ただ一言、終了間際に底冷えするような声で確認していた時、双子姫は悪ノリが成功してテンションが上がっていたので全く気づかなかった。




「「サプライズミャ♪(だよぉ♪)」」




 そう答えた二人に満面の笑みで「そうか」と答えたエルフレッド。その日の夜、二人の部屋に玉ねぎ、赤玉ねぎ、新たまねぎに長ねぎと小口ネギを添えたフルコースが物質転移にて送られてきたのだった。


「もう思い出すのも嫌だぁ‼︎処理するのもキツイし小口ネギと赤玉ねぎと新玉ねぎで作ったお花みたいなサラダはマジでヤバイ!かかってるドレッシングも玉ねぎドレッシングだったし!もう殺意しか感じない!」


「妾はあのスープがもう駄目ミャ‼︎もう、ブイヨンベースで玉ねぎ全種類と家系ラーメンバリに小口ネギが乗ったアレはもう見た瞬間吐きそうになったミャア‼︎」


 感想だけでヤバイものを作っていると解るそれに周りは当然の報いと思いながらもそれを作っているエルフレッドを想像して少し引いた。その出来事のせいで変な空気になっているのを、このままではいけないと咳払いをしたアルベルトが「もう練習出来る日が二日しかないから、そろそろ始めようよ?先輩達も待っているし」と声を掛けるとエルフレッドは笑顔で頷いた。


「え〜ギルド組はメルトニアさんが来次第ギルドに向かって下さい。カーレス先輩はBランク達成ということで更に上を目指すかは任せます。嫡男の方は基本Aランクまでになるかとは思いますが功績にはなりますし、実戦経験は軍部でも評価対象になると伺っていますので悪い風にはならないかとーー」


「そうだな。やれる限りはしてみようと思っている。聖イヴァンヌと戦うとなれば、どこまでやってもやり過ぎはないだろう」


 冬休みの事があってからカーレスのエルフレッドに対する態度が非常に軟化した。やはり、非常事態に対して誠意を持って対応している姿を見ては心動かされるものがあったのだろう。


「そうですね。やはり、去年の世界大会優勝メンバーが二人も残っていますからやり過ぎはないかと思います。リュシカは実力的には問題ないが、やはり冬休みの件が響いてCランク止まりだ。とはいえ、仕方ない出来事なのは重々承知であるし、レーベン王太子殿下と共に副将をローテーションすることになると思うから無理がない程度に頑張ってくれ」


「任せてくれ。今更焦ったところで何も変わらないのは理解しているからな。危険が無いように務めるさ」


「よろしく頼む。レーベン王太子殿下はそこのルーミャと何時も通りの戦いをお願いします。冬休み中に大分神化の時間が伸びたようなのでーー」


「ヒェ⁉︎遂に敬称まで無くなった⁉︎」とガビーンしているルーミャに「おかしなことを言うな?敬称とは敬われる人物につけるものだぞ?」とエルフレッドが微笑んでいる。


「あ、うん。両殿下もやり過ぎだとは思うけど......程々にして上げてね?」


 見かねたレーベンが苦笑すると彼は「二人次第ですね」と微笑んだ。


「サンダース先輩は......こうは言ってはなんですが冬休みで相当レベルアップされましたね?ラティナ先輩とアーニャと共にローテーションで戦闘訓練をお願いします」


「いやぁ、エルフレッド君には解っちゃう?もう婚約者様や兄貴に相当扱かれてね......漸く、殿下やラティナ枠に届いたんなら良かったぜ!」


「サンダース君やるじゃない!私も魔法戦闘部のOBとして叔母様に扱かれたから負けないわよ!」


 楽しげに手を打ち合わせてる二人の横で「これは悪い方......これは悪い方......でも嬉しいミャア」と何やらブツブツ呟いているアーニャであった。


「さて、遅くなりましたがエルニシア先輩は自分と剣術の稽古で更にレベルアップしましょう。理論上最強なので少しでも強くなれば全然違うハズです」


「アハハ......なんか聖女って何?ってなりながら最近剣術が楽しい自分がいるんだよねぇ......帰って早々母親にも、貴女は何を目指しているのかしら⁉︎とか言われたのになぁ......剣術が強い聖女って居たっけ?」


 すっかり自分を見失っているエルニシアは冬休みで非常に手に馴染んだシミターをにぎにぎしながら変な笑い声を上げている。


「......ねぇ......エルフレッド.......」


「うん?」


「......私は......?」


 普段パートナーを務めているエルニシアを取られたイムジャンヌが不思議そうな顔で訊ねてくるのに対してエルフレッドは特に気にした風もなく告げる。


「イムジャンヌの練習は休息だ。もう、とてもじゃないが練習させられる状態じゃない。エルニシア先輩やリュシカや俺が回復魔法かけるから大人しくしててくれ。それが一番強くなる」


「......え......?」


 呆然としている彼女に追い討ちをかけるようにエルフレッドは真剣な表情で告げた。


「今日から大会まで夜の練習も禁止。眠れない場合は魔法薬の眠剤を服用してもらう。もし破ったら代表から外れてもらわなくてはならなくなるから破らないでくれよ?あと重りも当然駄目だ」


 完全に放心状態になっているイムジャンヌを気の毒そうにしながらもエルニシアは真剣な表情でーー。


「何があったかは解らないけど、今のイムジャンヌちゃんの状態はいつ倒れてもおかしくない状態だしなぁ。体もボロボローー私も流石に練習して良いとは言えないかなぁ......エルフレッド君。先にイムジャンヌちゃんの重り外すの手伝ってくるからちょっと待っててくれる?聖魔法も一緒に掛けとくね?」


「お願いします。厳しいことを言いましたが代表には必ず必要な戦力なので......」


 果たして、その言葉はイムジャンヌに届いているのだろうか無気力にエルニシアに引っ張られていく彼女を見ながらエルフレッドは大きな溜息を吐くのだった。


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