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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第四章 暴風の巨龍 編(上)
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「あ、え、あ、嘘⁉︎え?何時から⁉︎全然気づかなかったんだけど⁉︎」


 あまりにも予想外だったルーミャが心底驚愕しながら訊ねるのに対してアーニャは少し遠くを見ながらーー。


「何時からだっただろうニャア......フェルミナを助けてくれた時......リュシカが謝ろうとした時に料理を作って待ってた時......それよりも図書室で話してた時かも知れないミャア。人が怖い妾が不思議と怖く思わなかったのミャ。誰にもバレないように上手く隠していたんだけどニャア......」


「そうだったんだ。でも多分誰も気づいてないと思うよぉ?うん。そんな話聞いたことないし......でも、お母様にはバレてたんだよね?」


 アーニャは苦笑しながら「これはあくまでも何時もの推測だけど......」と前置きした上でーー。


「フェルミナからの情報だと思うミャ。私はそんな部分を醸し出したつもりはなかったミャア......お酒の席や気が緩む席でそういう感情を見せてしまったのかもしれないニャア。フェルミナがコノハお祖母様の後継者になったのは妾でも予想外ーー迂闊だったミャア」


「そっかぁ......そうなるとお母様を止めるのは難しいかもしれないねぇ......国益だけじゃなく娘の幸せも含まれているなんてお母様からすれば願ってもない状況だから......」


 アーニャは「だからこそ隠していたんだけどミャア」と溜息を漏らした。


「私はそれでもリュシカの幸せを優先したいミャ。だから抗いたいミャ。最悪でも時間稼ぎをしたいと思っているミャ。だからルーミャも協力してくれるミャア?」


 アーニャはそう言って微笑んでいたが、ルーミャの表情を見て一変ーー険しささえ感じさせる表情で彼女を睨みつけた。


「......ルーミャ」


「だ、だってぇ!その顔を見たら解っちゃったんだもん!アーニャが言ってるよりもずっとエルフレッドのことが好きなんだってぇ!私達、双子だよ!本質的な部分は変わらないんだよ!リュシカも大切だけどーーアーニャに辛い思いさせるなんて私はーー」


「それは違うミャ、ルーミャ。私はリュシカが本当に大切ミャ。ずっと一緒にいたい親友ミャア。リュシカが幸せになるなら私は喜んで負け犬になるニャア......犬だけにミャア」


 冗談めかして笑う彼女を見てルーミャはグズッと鼻を啜った。溢れた涙を拭いながら「もう馬鹿ぁ」と笑う。


「もう、なんでそんな風になれるのさぁ!私には解んないよ!でもアーニャがそこまで言うなら私も出来る限り協力するからーーでも、このモヤモヤはどうやって解消すれば良いんだろぉ」


アーニャは「モヤモヤするものなのかニャア......」と苦笑した後に何かを閃いたといわんばかりに頭上に電球を浮かべると、とても悪い笑顔を浮かべた。


「......ルーミャ。この問題を引き起こした大罪人がいるミャア」


「え?どうゆうこと?まさかお母様じゃないよね?」


 アーニャは「チッチッチッ。甘いニャア。お母様はあくまでも国と私の為に動いてるミャア。でも、そいつは自分勝手な動きで沢山の女の子を泣かしてきた極悪人ニャア」と笑みを深めた。


「......な〜る♪本当それじゃん♪誰彼構わず良いかっこするからこうなるんだよねぇ♪一旦、懲らしめてやろうじゃん♪」


 ルーミャもまた悪い顔をしてニヤニヤと笑みを深めている。まあ、改めて言うまでもないが彼女達の言う極悪人とはーー。




「エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツ‼︎一旦思い知らしてやるミャ!」




「だっよねぇ〜♪どんな作戦でいこっかぁ♪」


「そうだミャア......神化二人で襲い掛かる半神×半神=狐神(狐神×半神KM)作戦はどうミャア?」


「いいねぇ♪」


 悪巧みをする二人の念が届いたのか、帰路の飛空挺に乗ったエルフレッドが強い悪寒に身震いを起こした。偶々一緒の個室でティータイムを楽しんでいたリュシカがとても心配そうに「風邪でも引いたのか?」と訊ねるとエルフレッドは首を傾げてーー。


「いや、微妙に危ない感覚と悪寒がしただけだ。問題ない」


 と呟いてホットコーヒーを口にする。リュシカは不思議そうに首を傾げていたが「体調が悪くなったら直ぐにいうのだぞ?」と苦笑するのだった。


 そんなことが遠くで起きているとは知らない双子姫ーー楽しそうに微笑むルーミャは気づいていないのだろう。


(結局こういうことになった時に逃げ道に使っても怒らないところとか、そういうところに魅力を覚えているんだろうけどミャア)


 怖がりな自分が遠慮なく物を言えるーーそして、存外我儘な振る舞いをしているにも関わらずエルフレッドは冗談を言い返すだけで自分達のことを許してしまうのだ。その余裕や強さ、そして、優しさがアーニャの気持ちを揺さぶった事など彼女が気付くハズもなかった。













○●○●













 今年の冬休み。イムジャンヌは実家に帰らなかった。心配した両親から連絡が掛かってきたが家宝の守りの剣の書物の練習が楽しすぎて帰れそうもないと返信すると『気持ちはわからなくもないけど剣好きも程々にしないと体が壊すよ‼︎』と呆れ半分、心配半分のメッセージが飛んできた。自分を心配する親の気持ちは有難いが、()()()()()()()()が居ることも考えて欲しいと少し嫌な気持ちになった。


 そもそも周りは自分が何故、夜に練習するようになったかを気付いていない。そして、その習慣が当たり前になる程の期間を夜通し起きていたことさえ不思議に思っていないのだろう。あくまでも自身が剣が好きで眠る事を忘れて剣を振り続けていると思っている。そんなハズがある訳が無い。人は基本的に夜に寝て朝起きて昼に活動するものだ。


 睡眠にタイプがあったとして結局朝が弱くて昼から活動するのが得意なだけだ。完全夜型の人間だろうが昼に暗室でも用意出来ないと結局太陽の光で目覚めてしまうのだからーー。


「......お姉ちゃん......」


 イムジャンヌは小さい頃から姉が大好きだった。いつも着いて回って真似ばかりしていた。姉も困った顔はしていたが何時も優しくしてくれた。だが、自身が初等部三年生の頃一つ違いの姉が豹変した。いつもみたいに着いて回っていたイムジャンヌのことを叩いて突き飛ばしたのだ。


「ーーお前はそうやって私を裏で馬鹿にしているのでしょう‼︎自分の方が才能あるって‼︎見下してる癖に‼︎付いてくるな‼︎」


 ーー全く身に覚えがなかった。姉は騎士としての体躯にも恵まれていて、それでいて美しくイムジャンヌにとっては自慢の姉であった。馬鹿にするハズがない。でも泣きながら訴えても姉は信じなかった。それどころかーー。




「次に私の真似をしたら許さないから‼︎練習のし過ぎで成長も出来ないこの”出来損ない”‼︎」




 その日からイムジャンヌは姉の前で剣の練習をするのを止めた。しかし、剣は好きだったので隠れてコソコソ練習していたら夜に練習する習慣が出来てしまったのだ。そうなっても尚イムジャンヌはあの優しかった姉が何故変わってしまったのか一切解らなかった。ただ、姉が何かのきっかけで自分を嫌い、出来損ないだと思っていることは理解した。


 何故、この時期にその事を思い出したと言えば簡単な話だ。アードヤード学校選抜全国大会ーー騎士のエリートが通う聖イヴァンヌ騎士養成女学園の二年にしてエース。”剣聖の再来””百年に一度の逸材”と呼ばれる程に成長した姉と順調に勝ち上がれば戦うことになるからだ。


「......出来損ないじゃないって認めてくれたら......また戻れるかな......」


 イムジャンヌの夢は騎士だったが願いはただ一つ。


 あの時のように仲の良い姉妹に戻れたらーー。


 今日も何時ものように真っ暗な夜中ーー人に見つからない場所で剣を振り続けるイムジャンヌだった。

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