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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第一章 灼熱の巨龍 編
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 グレイオス火山の標高は約二kmに達する。大小五の山々が連なり小規模の山脈を形成。剥き出しの岩肌に細い川のようなマグマが流れ一帯の気温を異常な高さにしていた。


 その山脈の中心を悠々と聳えるグレイオス火山。その中腹に空いた大きな横穴の前にエルフレッドは立っていた。


 グレン所長が言うにはこの横穴は役1km程の空洞になっており空洞の行き止まりが袋小路状に広がっている。そこがガルブレイオスの住処であり現在地だそうだ。丁度狩りを終えて体を休めているであろう今の状況がチャンスだと彼女は楽しげな様子で語っていた。


(弱点属性の相手とは極力万全でありたいと考えていたが中々に上手くいったな)


 ここまでの道程が平坦であった訳ではないが巨龍の活動期は極端に魔物が少なくなるものだ。冬眠から覚めたガルブレイオスが獲物を求めて闊歩するのだから当然と言えば当然だろう。


 間欠泉の如く吹き上がるマグマに意識を向けながらエルフレッドは空洞の中へと足を踏み入れる。


「早速、雑魚のお出ましか」


 大剣を構えて中級風魔法[ウインドウェポン]を唱えたエルフレッドへと全身を燃え盛る炎で身を包んたファイアウルフが襲いかかる。


「弱点とはいえ、この程度とは舐められたものだ」


 一体が大の大人程の大きさのあるファイアウルフが5体。正面とは言えそれぞれが違う方向・タイミングで一斉に飛びかかってくる。それは一端の戦士でも防ぐのが難しい一撃であった。


 そう、一端の戦士"であったなら"だ。


 それは一瞬の出来事である。ビュオォと一陣の風が魔物の体を吹き抜けた。そして、次の瞬間にはエルフレッドは彼らの後ろで大剣の血を払うかのように振っていたのである。途端に轟く轟音。切り刻まれ、壁へと叩きつけられた魔物達は元が生物では無かったことを表すかのように燃え上がり吹き消された蝋燭の火のように消え去った。


「準備運動にもならんな」


 にべもなく告げながらも突如現れ飛来してきた火の鳥の魔物ー、サンバードを水平に切り裂いて彼は振り返る事なく前へと進む。すると、足元の地面が行く手を阻むかのように割れて突然マグマが吹き出したかと思えば男性の人型を型どったようなマグマの魔物が現れる。


(ブレイズマンか......少しは警戒する気になったようだな)


レベルで例えるなら一〜二だった魔物が突然十レベルに上がったような状態にエルフレッドは口角を上げた。


「とはいえこの程度。まだまだ俺の敵とは言えないな」













○●○●













「ニャアアア‼本当にむかつくニャア‼︎アイツは本当に自分の事を理解して無いミャ‼︎」


 ボリューミーな九尾の尻尾と根元がフサフサとした狐を表す耳ーー。そんな少女とも女性とも言えない年齢の彼女がニャアとかミャアとか言いながら歩いているのだから周りの視線が集まるのも無理はない。


 優れた容姿や雰囲気から高貴な方だと解るが猫背で姿勢が悪く何処かオドオドした様子がミスマッチなところが特徴的だ。彼女の名前は[アーニャ=アマテラス=イングリッド]。ルーミャの双子の片割れである。人族であれば"妹"となるところだが獣人においては一緒に産まれた者を兄弟姉妹としない風習と法律がある為に厳密には妹ではない。


 というのも獣人の種類によっては一回の出産で五人以上産むこともザラでそれを取り出した順番だけで兄弟姉妹とするのは無理があるからだ。なので彼ら彼女らはお互いを名前で呼ぶし同列の存在として教育を受けるのである。


 さて、そんな獣人の中でも最高位にあるアマテラスの殿下であるアーニャだが彼女の目下の悩みは片割れのルーミャのことであった。二人は一卵性の双子で全く同じ見た目で産まれたにも関わらず、それぞれが全く違う能力を持って産まれた。そして、それが原因で性質・性格に明暗に分かれある種の優劣を生んでしまっているのである。


 EQのルーミャにIQのアーニャ。


 それが彼女達を双子でありながら別物に変えた能力であった。


 ルーミャはアーニャと全く同じ見た目でありながら多くの人を惹きつけた。堂々とした態度、ドッシリと構えた物腰、ハキハキとした口調ーー。それらは人を驚かせ、人を感動させ、人を喜ばせた。対してアーニャは産まれた当初よりIQが二百三十を優に超えていたことにより数多の人々の裏をもろに理解して対人が怖くなりオドオドした性格となっていた。


 六歳を数える頃には両親を含め全ての人々がルーミャが王になるだろうと確信した。そして、アーニャ自身も異論は無かった。


 EQとは心の知能指数と呼ばれる指標だが間接的にカリスマ性に関係すると言われるものである。いくらアーニャが常人では出来ないような発想が出来たとして"王の器"に勝ることは出来なかった。そもそも、小さな時から全てを理解し人が怖くて仕方がないアーニャにとっては王の座など初めから興味のないものでルーミャとアーニャはある意味Win Winの関係だったのだ。


 それは学校に通うようになっても相変わらずであり、寧ろ王家の教育を受けている事もあってニ人の表面上の学力等には一切差が無く(両方全ての教科で満点)通う学校も一緒(両方最高の学校)となればルーミャを王にする声がより一層強くなるのも仕方がないことである。


 そして、何度も言うようだがアーニャはそれに対して異論も無ければ寧ろ賛成の立場であった。だから将来は彼女を支えながら国の有益になる発明をしようと心に決めていた。


 しかし、その考えに亀裂が入ったのは二人が中等教育機関に通っていた時の話である。


 事の発端は学校内でとある男子生徒への虐めが問題になったことだ。その虐めはあまりにも酷く目も当てられないもので女尊男卑が横行する獣人の国でも許されるものではなかった。結果的に犯人は見つかり厳重注意の上で停学処分になったのだが、その時ルーミャがこう言ったのだ。


「確かに妾もあの娘の虐めは良くなかったと思います。しかし、聞けば男子生徒がしつこく言い寄ったのが原因だったそうです。ならば、情状酌量の余地があり停学にするのはやりすぎではないでしょうか?」


 結果から言うとその学校側の裁定は覆らなかった。女生徒がルーミャに嘘を吐いていただけだったからだ。しかし、彼女の発言は波紋を呼び被害者の再聴取や周りの印象の変化に繋がった。そして、男子生徒は人間不信に陥り不登校になった。その後、進学も出来ずカウンセラー通いで社会不適合の烙印を押されてしまった。


 片や停学になり嘘まで吐いていた少女は反省の色を強く見せたことで停学期間が縮小され周りの支えもあって内申点を見られない中では超名門の私立学園に入学し将来を期待されるホープとして扱われている。


 当然アーニャはルーミャを問い詰めた。普段怒らないアーニャの怒りにルーミャは少々しどろもどろになったが調子を取り戻すや否やこう告げるのだった。


「だってぇ!女の子が嘘ついてるなんて解らないじゃん!一旦確認しないとフェアじゃないなぁって思ったんだもん。いじめられる側にも問題があったかもしれないじゃん?」


 その言葉はアーニャを大いに戦慄させた。いじめられる側に問題があっても関わらなければ良いだけだし酷ければ親にでも相談すれば良いだけの話だ。唯でさえ男性の立場が弱い国である。女性側が本当に困っていれば男性に勝ち目はない。


 しかし、ルーミャはそんなことも理解していない。なんなら、あの虐めの状況でフェアな状況を生むとするならば、あの男子生徒は即刑務所行きだ。そんなことになっていないのはあの女生徒を見れば一目瞭然であった。


 この出来事からアーニャはルーミャを支持する事を一旦保留にすることにしたのだ。それはルーミャの持つEQが何故か女尊男卑な目線で曇っていることに気づいたからである。そして、それが仕方がないとされる国とはいえルーミャの持つカリスマ性は自分が是と言えば是、悪と言えば悪に変えてしまうことが出来る両刃の剣であるとハッキリ理解してしまったからだ。


 とはいえ、だからといって自分が王になるとは考えられないのも事実で最近はグダグダな思考の渦の中で枝分かれしている万の可能性に頭を悩ませているのも事実である。


(今日だって猫族弁ははしたないとか誇り高きアマテラスの一族の自覚が無いとか......考えるだけで苛々するミャ‼︎)


 それはリュシカが来る前の出来事である。先に櫻の間に着いた二人は隣り合う形で食事を取っていた。しかし、そういった状況にも関わらず口をついて出るルーミャの小言はどうにも差別じみていてアーニャは気分を害したのだ。しかも、彼女の堂々とした物言いや気高さがその言葉さえも正しい事かの様に感じさせられた。それがより嫌悪感を強めたと言うのもある。


 人は自身が間違っていると思えば人を責めれないが自分に正義があると思えば幾らでも責められるのである。


 かつての独裁者達が単一民族以外は異物であると正義を主張し大量虐殺をしたようにーー、人は特出した人間がいるから駄目なんだと農民以外を粛清したようにだ。


「でも、リュシカには悪いことしたミャア......謝らないとミャア......」


 アーニャとしてはルーミャに対して行った行動に間違いがあったと思っていない。あのまま間違った正義を振りかざす片割れを見ていると自身が何をしてしまうか解ったものではなかった。しかし、わざわざ席を取って出迎えてくれたリュシカのことを思うと流石に胸が痛む上に自己嫌悪を感じる。もっと上手くする方法はなかったのかとーー。


「......まあ、考えても仕方ないニャ。大人しく案内を待つミャ」


 アーニャはそう言うと連絡が着ていた携帯端末を取り出してアプリを開くと返信を書き始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >獣人の種類によっては一回の出産で五匹以上産むことも 獣人も人であるならば五人のほうがいいのでは? あと中等教育機関ではなく中学なのでしょうか?
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