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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第三章 砂獄の巨龍 編(下)
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 光り輝くガラス質の鉱物がエルフレッドの全身を傷つけて、サンドワームが血塗れの体目掛けて殺到する。そして、ミッドオルズがその巨体を揺らして土の中へと潜ろうとしている。瞬間、煙幕が舞った。全てを吹き飛ばし叩きつける風には煙幕など無意味であろう。そして、それより早く地面へと到達したエルフレッドの前には、とても意味があるとは思えなかった。




「砕け散れ‼︎硬いだけの巨龍よ‼︎」




 ミッドオルズの選択は間違いではなかった。否、ここまで来ればどの選択肢を選んでも結果は同じだ。もし時が遡るならば、ガラス質の息を吹き掛けて頭を砕いた後に立ち上がれぬように地震や地割れを起こす上級地魔法[アースクエイク]を引き起こすなどして、エルフレッドが立てないようにするか地の底に飲み込んでしまうかするしかなかった。無論、飛翔されるリスクを考えて近づいたのだろうが、そのリスクを取れなければ弱点属性の使い手の中では最上位にいるエルフレッドを倒せるわけがないのである。


 その速さは音速に達していた。自身の体を破壊しながら、その身をガラス質の砂で傷つけながら、襲い来るサンドワームを無視しながら振り下ろされたその一撃が巨龍の頭蓋を破壊し、強靭な顎さえも切り裂き、叩き割って一瞬の内に命を奪うなど誰が考えられようか?巨体を痙攣させて地に崩れ、死後の意味の無い痙攣にその生を終わらせたミッドオルズ。それはあまりにも呆気ない終わりだった。


 最大の防御力を持つ巨龍を僅か半日で討伐したエルフレッド。しかし、その胸中は非常に暗くあった。転がり落ちた魔石。主を失い砂と変わり吹き飛んだサンドワーム。その真ん中に立つのはひしゃげた腕と全身血まみれで血の涙を流すエルフレッドである。


(ーー確かに早く倒すことは出来た。だが、余裕があった訳でもなければ順調だった訳でもない)


 激痛が走る全身を清めの風で綺麗にして癒しの風を唱えるが少々魔力が足りない。上級魔法を連発したツケを今になって払っているのである。コヒューコヒューと空気が数多の場所から漏れるような危険な音を出している呼吸器官が甚大なダメージを訴えていた。腹式でも吸ったのか循環器さえもまともな状況とはいえない。


(......結局エリクサー頼りだ)


 再度、血を吐き出しながら倒れたエルフレッドは空間魔法の中からエリクサーを取り出して口にした。激痛に噎せて吐き出したそれは殆ど血溜まりである。


(こんな様子では残りの巨龍など夢のまた夢だな)


 エリクサーを飲み下したエルフレッドは遂には意識を保つのが辛くなってきて瞳を閉じた。もっとやり方があったハズだ。もっと冷静に戦えたハズだ。情報が足りなかったのではないか。有利属性だから軽んじていたのではないかーー。


 砂漠の砂が吹き付ける。早く起きなければ砂に埋もれて死んでしまうかもしれない。しかし、体力よりも傷ついた精神がそれを許そうとはしない。


(願わくば、最後の日にならんことをーー)


 最も硬い巨龍と戦えると心を踊らした気持ちは既に冷めきっていた。地面に転がる今の彼はただただ己の未熟さを思い知るのみであった。













○●○●













 それは不思議な光景だった。見覚えのある紫の髪の少女が楽しげにクルクルと回っている。白の大きな翼を生やして幸せそうに微笑んでいる。彼女の周りには青々とした草木や花が舞い踊って夏の様相を醸し出していた。


 こちらに気づいた少女が嬉しそうに笑った。近付いてきて手を取った。首を傾げて可憐な表情を見せた。


「夢を叶えてくれて嬉しかった!幸せだった!」


 彼女は本当に幸せそうだった。胸が熱くなった。心が穏やかになって幸せに満ちた。


「体が羽根のように軽いの!苦しいこともない!辛いこともない!」


 手を離した彼女は軽やかにステップを踏んでクルリと回って一枚の羽根を自身の翼から落とした。


「私は幸せだって伝えて!きっと皆心配してる!」


 その羽根を持って彼女は再度近付いてきた。


「ありがとう!お姫様は王子様に会いたかった!夢が叶ったよ!」


 彼女が羽根を翳すと視界が白に染まっていく。その白はあまりにも眩しく全てを埋め尽くさんとしているのだが全く嫌な感情が浮かばない。寧ろここまで幸せな事はあるのかと思うくらいの多幸感を全身全霊に浴びせてくるのだ。


「本当にありがとう!エルフレッド!”またね!”」


 もう彼女の姿は一切見えてなかったが、その顔が笑顔で手を振っている光景が頭に浮かんできて焼きつくのだった。













ーー。

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